三種の神器を足付けたる行器(ほかい)に入れて、物詣でする人の、破籠(わりご 弁当箱)なんど入れて持たせたるやうに見せて(太平記)、
とある、
行器(ほかゐ)、
は、
外居、
とも当て、
ほっかい、
とも訓ませ(日本語源大辞典)、
旅行の際に食料を入れて背中や肩に負う脚付(で蓋付き)の木製の容器、
とあり(兵藤裕己校注『太平記』)、平安時代以来用いられ、多くは、曲物で、
円筒形、
で、外側に反り返った三本の脚がつき、
杉の白木製から精巧な漆蒔絵(うるしまきえ)、
まである(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。
(行器(ほかゐ) 春日権現記絵より)
「ほかゐ」の由来は、
外行に居(す)うる義(大言海)、
ホカユク(外行)の義(日本釈名)、
旅行など外で食べる時用いる意か(筆の御霊)、
ホカヒ(外居)する食器を入れたところから(先祖の話=柳田国男)、
強飯をよそに出す器であるから、外食の義か(和句解)、
と、その利用形態から、外食とか旅行用とか、「外」の意からとする説が大半である。別に、
ホカヒ(穂器)の意か、ホカヒ(穂穎)の意か(俗語考)、
とあるが、古く、
さて、とりあつめて、ほかゐに入れ、瓶子に酒入れなどして(「古本説話集(1130頃)」)、
と、
ほかゐ、
と表記している以上、「ひ」から語源を考えていくのはどうだろう。「ゐ」から考えると、
居、
が妥当なのではあるまいか。
居(ゐ)、
は、
坐、
とも当て、
立つの対、すわる意、類義語ヲル(居)は、居る動作を持続しつづける意で、自己の動作ならば、卑下謙遜、他人の動作ならば軽蔑の意がこもっている、
とある(岩波古語辞典)。「外(ほか)」は、
カはアリカ・スミカに同じで場所の意。ホカは中心点からはずれた端の方の所の意。奈良・平安時代には類義語ヨソは、自分とは距離のある、無関係、無縁な位置関係をいう。また、ト(外)は、ここまでが自分の領域だとする区切りの向こうの場所をいう。奈良・平安時代にはウチ(内)・トが対義語であったが、トが衰亡するとウチ・ホカという対立関係が成立した。近世に入って、ソト(外)という語が確立するとウチ・ホカに代わって、ウチ・ソトが対義語になった、
とある(仝上)。そうみると、
見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむ後ぞ咲かまし(古今集)、
と、
別のところ、
の意と考えれば、
別の所でい(坐)る、
意と見ることができる。勝手な憶説だが、
行器、
は、当て字ではあるまいか。室町時代の意義分類体の辞書『下學集』に、
外居、ホカヰ、或作行器、
とあるのはその意味ではなかろうか。
(行器 兵藤裕己校注『太平記』より)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95