いっとき、
ぼったくり男爵、
という言葉が世上で話題になったが、「ぼったくり」とは、
法外な料金を取ること、
力ずくで奪い取ること、
といった意味で、訛って、
ぶったくり、
ともいう(デジタル大辞泉)。その動詞が、
ぼったくる、
で、あまり辞書には載らないが、
ぼったくりをする、
ぼる、
ともいい(精選版日本国語大辞典)、
法外な料金を取る、
むりやり奪い取る、
意で、訛って、
ぶったくる、
ともいう(デジタル大辞泉)。この「ぼったくる」の、
「ぼっ」は「ぼる」(暴利)から、
とある(デジタル大辞泉)。
「ぼったくる」から、当然連想されるのは、
ぼる、
という言葉だが、
名詞「暴利(ぼうり)」の動詞化(デジタル大辞泉)、
米騒動の際の暴利取締令に出た語で、「暴利」を活用させたもの(広辞苑)、
「ぼうり(暴利)」を動詞化した語(精選版日本国語大辞典)、
1917年に発せられた「暴利取締令」にある「暴利」からとも、従来一般的な語でなかったが、この法令により民衆に強く印象づけられた(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%BC%E3%82%8B)、
「ぼりたくる」が音的に変化したものである。「ぼり」は「暴利」を動詞化した「ぼる」の連用形(日本語俗語辞典)、
などとあり、
法外な代価や賃銭を要求する、
不当な利益をむさぼる、
意とされる(広辞苑・デジタル大辞泉)。「暴利取締令」は、
第一次世界大戦期インフレによる物価騰貴を抑えるため農商務省が定めた省令「暴利ヲ目的トスル売買ノ取締ニ関スル件」の通称。1917年(大正6)9月1日寺内内閣により公布施行された。適用を受けた物品は、米穀類、鉄類、石炭、綿糸および綿布、紙類、染料、薬品、肥料(18年6月追加)で、買占めや売り惜しみに対して戒告、さらに3か月以下の懲役、100円以下の罰金が定められた。おもなねらいは米価騰勢を抑えることにあったが、米騒動を未然に防ぐことはできなかった、
とある(日本大百科全書)。ただ、「ぼる」という言葉は、
貪る、
と当て、
江戸の大坂屋のぼられし年、此男を見て養子にせんと云ふ(北条團水『日本新永代蔵(正徳三(1713)年)』)、
と、
ものを強いてとる、
格外なる代価、または賃錢などを請求する、
意で使われている(大言海)。その意味では、当時、
暴利、
になぞらえて、その転訛とした方が、通りがよかったのかもしれないが、言葉としては、
ぼる、
はあったと見るべきだろう。「たくる」は、
手繰るの義か、
とあり(大言海)、
手繰る、
と当てる(岩波古語辞典)として、
稚児見んとて小袖をたくる(天正本狂言・米借)、
と、
自分のものとして引き寄せる、
ひっぱり取る、
奪って自分のものにする、
ひったくる、
意(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)や、
袖をたくる、
と、
まくる、
たくしあげる、
意(広辞苑)や、
拝み申す、くれ申せと、たくりかかれば(浄瑠璃・心中宵庚申)、
と、
無理に頼む、
せがむ、
意(仝上・岩波古語辞典)や、更には、
座主、姉妹の娘を、別々に置き、思ふほどたくりて、飽き候時(咄本「昨日は今日の物語(1614~24年)」)、
と、
自分のほしいままに扱う、
意(精選版日本国語大辞典)や、
真白に子の筆たくる市が嚊(雑俳「名付親(1814)」)、
と、
だます、
ごまかす、
手をぬく、
意(仝上)でも使うが、
塗りたくる、
のように、
動詞の連用形に付いて補助動詞のように用い、荒々しく事を行なう、限度をこえて強引にするの意を表わす、
といった使い方をする(精選版日本国語大辞典)。
ぼうり(暴利)たくる→ぼりたくる→ぼったくる、
なのか、
ぼる+たくる→ぼったくる、
なのかは別として、「たくる」を付けて、その強引さを強調したものと思われる。この「たくる」と、「たぐる(手繰)」は、
「日葡辞書」に「Tacuri、 u、 utta(タクル) 〈訳〉引っ張って、またはまるめて取る。または力ずくで手から取る」と「Taguri、 u、 utta(タグル) 〈訳〉縄などをまるめながら取る。ナワヲ taguru(タグル)」とが別項目になっていたり、近世多く用例のみられる「たくりかかる」「たくりかける」が清音であったりする、
ことなどから、別語も考えられる(精選版日本国語大辞典)とあり、
同語源かどうかは明らかでない、
とされる(仝上)。「たぐる(手繰る)」は、
三保の浦の引き網の綱のたぐれども長さは春の一日なりけり(平安中期「曾丹集(歌人曾禰好忠(そねのよしただ)の私家集)」)、
と、
綱などを両手で交互に使って引き寄せる、
我が方へかなぐり寄せる、
といった意味(大言海・岩波古語辞典)なので、「ひっぱる」「引き寄せる」という意味の外延に収まらなくもない。
手繰る、
と当てているところから、
たぐる→たくる、
と訛ったとみてもおかしくはない気がする。
なお「ぼったくる」は、
巡査。或は掠奪、
の隠語としてもつかわれる(隠語大辞典)らしい。
「暴」(漢音ホウ・呉音ボウ、漢音ホク・呉音ボク、慣用バク)は、
会意。もと「日+動物の体骨+両手」で、動物のからだを手で天日にさらすさま。のち、その中の部分が「出+米」のように誤って伝えられた。表(外に出す)と同系で、曝(バク むきだしてさらす)の原字。のち、豹(ヒョウ 荒く身軽なヒョウ)・爆(バク 火の粉が荒くはじける)・瀑(バク しぶきが荒々しく散る)などの系列の語と通じて、手荒いの意に用いる、
とある(漢字源)。別に、
会意。日と、米(こめ。氺は誤り変わった形)と、「出+大」(共は変わった形。両手に持つ)とから成る。米を両手に持って日光に当ててかわかす、「さらす」意を表す。借りて、あらあらしい意に用いる、
とも(角川新字源)、
会意。動物の死骸(「氺」古くは「米」)を両手で支えて(「共」)、「日」にさらすさま。「曝」の原字。「表」「票(火の粉が舞い上がって目立つ)」等に通じる。「あらい・あらあらしい」は「𣋴」と通じたものか、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9A%B4)、
(「暴」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9A%B4より)
会意文字です。「太陽」の象形と「両手」の象形と「動物を裂いた」象形で、動物などを裂き開いて、太陽にさらす様を表し、そこから、「日に当てて乾かす」を意味する「暴」という漢字が成り立ちました。また、この作業があらあらしい事から、「あらあらしい」の意味も表すようになりました、
とも(https://okjiten.jp/kanji204.html)あり、微妙に解釈が異なる。
「利」(リ)は、
会意、「禾(いね)+刀」。稲束を鋭い刃物でさっと切ることを示す。一説に、畑を鋤いて水はけや通風をよくすることをあらわし、刀はここでは鋤を示す。すらりと通り、支障がない意を含む。転じて刃がすらりと通る(よく切れる)、事が都合よく運ぶ意となる、
とある(漢字源)。
(「利」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%A9より)
会意。刀と、禾(か いね)とから成り、すきで田畑を耕作する意を表す。「犂(リ すき)」の原字。ひいて、収益のあること、また、すきのするどいことから「するどい」意に用いる、
とか(角川新字源)、
会意、「禾」(穀物)+「刂」(刀)で、穀物を鋭い刃物で収穫することで、「するどい」の意と、刈り取ったものから「もうけ」「もうける」の意が生じた。一説には、「刂」は鋤で、水はけ等を良くすることとも、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%A9)のは、「鋤」説である。
「貪」(慣用ドン、漢音タン、呉音トン)は、
会意。今(漢音キン、呉音コン)は「ふたで囲んで抑えた印+―印」の会意文字で、物を封じ込めるさまを示す。貪は「貝+今」で、財貨を奥深くため込むことを表す、
とある(漢字源)。
会意文字です(今+貝)。「ある物をすっぽり覆い含む」象形(「含」の一部で、「含む」の意味)と「子安貝(貨幣)」の象形から「金品を含み込む」、「むさぼる」、「欲張る」、「欲張り」を意味する「貪」という漢字が成り立ちました、
も同趣旨になる(https://okjiten.jp/kanji2202.html)。
(「貪」 小篆・説文・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%B2%AAより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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