うんざり
「うんざり」は、
小姑のできるには嫁うんざりし(万句合)、
と、
物事に飽き果てていやになるさま、
げんなり、
の意(広辞苑)で使うが、
うんざりと、
と、「と」を付けて、
うしろびっくり、前うんざりといふなるべし(評判記「あづまの花軸(1764~72)」)、
と、
予想外のことにがっかりしたり、びっくりしたりするさま、
あきれ驚くさま、
を表わす語として使ったり、
復(また)お座敷かとうんざりしたが(人情本「春色恋廼染分解(1860~65)」)、
と、
物事が十分すぎて、あきあきしていやになるさま、
同じ状態が続いたり、何度も繰り返されたりしてあきてしまうさま、
を表わす語としても使う(精選版日本国語大辞典)。
挨拶が長過ぎてウンザリする、
と、動詞化して、
わずらわしく思う、
面倒くさい、
意でも使う。
厭り、
倦んざり、
と当てるように、
倦んずありの約(大言海)、
ウンはウンジハテルのウンで、厭の義、ザリは助語(俚言集覧・語簏)、
「ウン(倦み)+シ+ハテリ」、倦み果てりの変化(日本語源広辞典)、
などと、
倦む、
と関係づける説が多い。確かに、
消息断たれければ、それに思ひうんじて、こもりたるとなむ(宇治拾遺物語)、
と、「倦んず」を、
倦みす→倦んず、の転訛(大言海)、
とみるか、
ウム(倦)シ(為)の転(umisi→umizi→unzi)(岩波古語辞典)、
とみるかの違いはあるが、「倦んず」もまた、
まことにまめやかにうんじ心憂がれば(枕草子)、
と、
気がくじける、ふさぎこむ、倦む、
の意の外に、
世の中をうんじて筑紫へくだりける人(大和物語)、
と、
ものごとがいやになって投げ出す、
の意があり、意味としては、確かに重なる。因みに、「倦んじ」の「ん」抜きが、
御衣どもに移り香もしみたり。すべられる程に、あらはに人もうじ給ひぬべければ(源氏物語)、
と、
倦ず、
となる。
「うんざり」は、本来、
飽きてうるさく煩わしく感じられる、
我慢の限界を超えて嫌気がさし、やる気を失う様子、
といった意であったが、
江戸時代から明治にかけて、
不思議そうに恐々(おそるおそる)叔母の顔色を窺ッて見てウンザリした(二葉亭四迷『浮雲』)、
と、
驚きや恐れからくる嫌悪感、
をも表すようになった(擬音語・擬態語辞典)。現代の語感でも、
飽き飽きする、
という状態表現に、
嫌悪感、
のような、
生理的・体感的な、
価値表現へとシフトしているような気がする(日本語語感の辞典)。
同じようなものがたくさん集まっていて、全体がうごめいている、
意で使う擬態語に、
うじゃうじゃ、
があるが、それと似た言葉に、
うざうざ、
という、
小さいものがうるさいぐらい密集する様子、
を表す擬態語があり、それが、「ぼやぼや」と「ぼんやり」が関係するように、
うざうざ⇔うんざり、
と対比でき、「うんざり」は「うざうざ」の「うざ」とは重なり、現代語の、
うざい、
うざったい、
の「うざ」とも共通する(擬音語・擬態語辞典)。
ウウンと呻(うな)って退き去る義か(両京俚言考)、
という説はありえないにしても、あるいは、「うんざり」は、
うざうざ、
の「うざ」とつながる、擬態語由来なのかもしれない。
因みに、江戸時代、
此時風呂のすみにかゞみ居たるは、うんざり鬢とかいふちうッぱらの中ウどしまさきほどよりだまって居たりしが、この騒動おびたゞしく、湯のはねるにあつくなって、風呂のすみから真赤におこり出す(浮世風呂・女中湯之遺漏)、
とあるように、男女ともに、
うんざり鬢(びん)、
という鬢の形があった。一説に、
うんざりするほど鬢の毛が多いもの、
をさす(仝上)、という。その「うんざり鬢」に結った頭を、
うんざり頭で寝ているやつもあり(安永六年(1777)「くだ巻しゃれ會」)、
と、
うんざり頭、
といい、
粋でない髪型、
とされる(仝上・江戸語大辞典)。
「倦」(漢音ケン、呉音ゲン)は、
会意兼形声。卷(巻)の字の下部は、人が丸くからだをかがめた姿。上部は両手で物を持った姿を示す。まるく曲げたり巻いたりするの意を含む。捲(ケン)の原字。倦は「人+音符卷」で、しゃんとからだを伸ばさず、ぐったりと曲がること、
とある(漢字源)が、別に、
形声。人と、音符卷(クヱン)とから成る。つかれてうずくまる、ひいて、あきる意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(人+卷)。「横から見た人」の象形と「分散しかけたものの象形と両手の象形(「両手で持つ」の意味)とひざを曲げている人の象形」(「まるくなる」の意味)から、「人が疲れてひざを曲げる」、「疲れる」を意味する「倦」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2370.html)。
参考文献;
中村明『日本語語感の辞典』(岩波書店)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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