尊(みこと)、剣を抜いて、大蛇を寸々に切り給ふ(太平記)、
の
寸々は
づたづた(ずたずた)、
と訓ませ、
細かく乱雑に切り裂かれたさま、
寸断、
きれぎれ、
の意(広辞苑)で、「づたづた」には、「寸々」以外にも、
寸々 36.8%
寸断寸断 21.1%
寸断々々 21.1%
寸断 15.8%
寸裂 5.3%、
と、さまざま漢字を当てるようだ(https://furigana.info/r/%E3%81%9A%E3%81%9F%E3%81%9A%E3%81%9F)。
「づたづた」は、また、
武乙(ぶいつ 殷の帝、紂王の曾祖父)、河渭(かい 渭水)に猟(かり)し給ひける時、俄に雷(いかずち)落ち懸かり、御身を分々(つだつだ)に引き裂いてぞ捨てたりける(太平記)、
と、
切れ切れになるさま、
ずたずた、
の意で、
つだつだ、
ともいうが、「づたづた」は、
つだつだの転、
で、
づだづだ、
ともいう(岩波古語辞典)とあり、類聚名義抄(11~12世紀)に、
寸、つたつた、つだつだ、きだきだ、
とあり(仝上・大言海)、
日葡辞書(1603~04)には、
ヅダヅダニナル
とある(仝上)ので、
つたつた→つだつだ→づだづだ→づたづた、
といった転訛なのかもしれない。さらに、
悲膓寸々断、何日下生還(「経国集(827)」)、
と、「寸々」を、
づんづん(ずんずん)、
とも訓ませ、
物を細かく切るさま、
きれぎれ、
ずたずた、
ばらばら、
の意で使う。もっとも、「ずんずん」は、
雪がずんずん積もる、
と、
速くはかどる意や、
頭がづんづん痛む、
と、
づきづき、
の意でも使い、これは別由来かもしれないが、「づんづん」には、
一寸ごとに、
の意味もあるようなので(精選版日本国語大辞典)、
空間的なずたずた、
が、
時間的なずたずた、
に転じて、
少しずつ、
となり、
はかどる、
意になったと考えれば、必ずしも別語源とは限らないかもしれない。
「づたづた」の語源説には、
ズタ(破れ 擬態語)の繰り返し(日本語源広辞典)、
つたつたの転じた語スタスタの転(大言海)、
スタスタ(寸断寸断)の義(言元梯)、
などがあるが、類聚名義抄(11~12世紀)に、
段、つたつた、つたきる、
とあり、
細かく切れ切れに、
の意で、
つたつた、
という擬態語があった、と見るのが妥当な気がする。それが、
つたつた→つだつだ→づたづた→づだづだ、
と転訛した。
「寸」(漢音ソン、呉音ソン)は、
会意。寸は「手のかたち+一印」で、手の指一本の幅のこと。一尺は手尺の一幅で、22.5センチ。指十本の幅がちょうど一尺にあたる。また漢字を組み立てる時には、手、手をちょっとおく、手をつけるなどの意味をあらわす、
とあり(漢字源)、
象形文字。手を当てて物の長短を測る様を象る。手で測れるほど長くないという短さから「みじかい」という意味になった。「尊」の略体。のち仮借して{寸 /*tshuuns/}に用いる、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%B8)あるが、別に、
指事。手の象形文字(=又。て)の下部に一点を加えて、手首の脈搏(みやくはく)をはかる意を表す。また、手のひらの付け根から手首の脈までの間を基準にして、長さの単位の一寸とする、
とも(角川新字源)あり、
指事文字です。「右手の手首に親指をあて、脈をはかる事を示す文字」から、脈を「はかる」を意味する「寸」という漢字が成り立ちました。また、親指ほどの長さ、「一尺の十分の一の単位」も表すようになりました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji950.html)のは、別の解釈である。
(「寸」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%B8より)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95