2022年04月15日

はためく


雷光行く先にひらめいて、雷(いかずち)上に鳴り霆(はた)めく(太平記)、

の、

鳴り霆めく、

は、

鳴りとどろく、

意である(兵藤裕己校注『太平記』)。

「はためく」に、

霆、

を当てる例は少ないが、「霆」には、

いなずま、
いなびかり、
とどろく、

の意があるし、

鳴動、

と当てる(大言海)場合もあるので、外れているわけではない。

「霆」 漢字.gif

(「霆」 https://kakijun.jp/page/E8BB200.htmlより)

「霆」(漢音テイ、呉音ジョウ)は、

会意兼形声。「雨+音符廷(まっすぐのびる、よこにのび)」とあり、挺(テイ まっすぐのびる)と同系、

とある(漢字源)。「いなずま」の意である。「廷」(漢音テイ、呉音ジョウ)は、

会意兼形声。右側の字(テイ)は、人がまっすぐ立つ姿を描き、その伸びたすねの所を一印で示した指事文字(形で表すことが難しい物事を点画の組み合わせによって表して作られた文字)。壬(ジン)とは別字。廴(のばす)を加えた字で、まっすぐな平面が広く伸びた庭、

とある(仝上)。

形声。廴と、音符𡈼(テイ 壬は誤り変わった形)とから成る。宮廷の中庭の意を表す。「庭(テイ)」の原字、

とある(角川新字源)のも、

会意形声。「廴」+音符「𡈼」。「𡈼」はすねを指し示した会意文字で、「廴」とあわせ、長く伸ばすの意を表す、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BB%B7のも同趣旨だが、

会意兼形声文字です。「庭」の象形と「階段」の象形から、階段の前に突き出た庭を意味し、そこから、「広庭(政事を行う所(朝廷))、訴えを聞き裁判する所(法廷)」を意味する「廷」という漢字が成り立ちました、

とする解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji2206.html

「はためく」は、

(太刀を)打ち合わする音のはためく事(義経記)、
にはかに雷のはためく音して(北条五代記)、

などと、

鳴り響く、
はげしく響き渡る、

意で使うように、

はた、

は、

擬音語(広辞苑・岩波古語辞典)、
音を名とする(大言海)、

と、擬音語由来と見られ、同義の言葉に、

水無月の照りはたたくにも、さはらずきたり(竹取物語)、

と、

はたたく、

という言葉があり、

並外れて激しい音をたてて雷などが鳴る、

意で、

ハタタはハタメクのハタを重ねた語(岩波古語辞典)、

とあるが、

音のハタハタの活用(大言海)、

なのではあるまいか。ただ、

はたはた、

は、今日の語感では、

ごく軽いものが板戸などに連続して当たる静かな音、



薄い物や張った紐などが風をはらんであおられるように動く音、

の意で使い(擬音語・擬態語辞典)、どちらかというと、

儺(な)といふ物こころみるを、まだ昼より、こほこほはたはたとするぞ(蜻蛉日記)、

と、

板戸などをつづけて打ち叩く音、

や、

手をおびただしくはたはたと打つなる(大鏡)、

と、

手を叩く意で使うのが近い。しかし、かつては、

雷がはたはたと鳴り来たれば(周易抄)、

と、

特に、雷が激しくとどろく音、

に使い、

雷も霹靂神にはならず、いかにも静かにどろどろと鳴り(三体詩抄)、

と、

はげしくとどろく雷、

を、特に、

霹靂神(はたはたがみ)、

といい、

はたたがみ、

とも呼んだらしい(岩波古語辞典)。面白いことに、「はたはた」は、

特に、雷が激しくとどろく音、

のみ雷に用い、後は、上記で、

こほこほはたはた(蜻蛉日記)、

と続けたように、静かな叩く音を指す。これのメタファなのか、

とこのまへをきくに、踊騒(ハタメク)こゑあり(観智院本三宝絵)、

に、

揺れ動くように鳴り響く、とどろく、

意でも使う(精選版日本国語大辞典)。「はたはた」は、少し強めて、

ばたばた、

と、少し輕く高い音で、

ぱたぱた、

と、微妙に擬音を使い分けてバリエーションがあるが、こうした「はたはた」の語感のため、「はためく」も、

舌や炎のやうにはためき合ひたり(今昔物語)、

と、

炎や火花が盛んにあがる、炎が勢いよく燃え動く、

と、

ばたばた、

に近い語感(広辞苑)や、

春風にばためく様(洒落本・温海土産)、

のように、濁らせたて、

布や紙などが風に吹かれてはたはたと音をたてて翻る、

と使ったりするが、こうなると、

羽ばたく、

意や、

旗などがはためく、

意と重なってくる。

ちなみに、「ひるがえる(翻る)」「はためく」「ひらめく(閃く)」の違いを、

「ひるがえる」は、

紙や布状のものが風を受けて、空中にある程度広がって位置を占め、動く意。主体が空中にある程度広がって見えている点に重点があり、動きにはさほど重点はない、

「はためく」は、

布や紙が風に吹かれてばたばたと音を立てていることにいう。なお、古くは、炎が勢いよく燃えるとか、雷などが鳴り響くとか、鳥が羽ばたくといった意でも用いた、

「ひらめく」は、

布や紙が風に吹かれてひらひら動く意、

と整理しているものがある(小学館・類語例解辞典)。類義語と比較すると「はためく」の意味が際立つことはある。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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