所領の二、三十ヶ国なりとも、替へて賜らでは叶はじとぞ恥(はじ)しめける(太平記)、
にある、
恥しめる、
は、
たしなめる、
意と注記がある(兵藤裕己校注『太平記』)。
「恥しめる」は、
恥ぢしめる、
とも表記する(岩波古語辞典)が、
恥(ぢ)しむ、
は、
令恥(はづかしむ)の転、
であり(大言海)、
身づからを、ほけたり、ひがひがしと宣ひはぢしむるは、ことわりなる事になむ(源氏物語)、
と、
恥ずかしめる、
侮辱する、
意(精選版日本国語大辞典・大言海)で、
貪(むさぼ)る心にひかれて、みづから身をはづかしむるなり(徒然草)、
の、
恥づかしむ、
に同じ(仝上)で、
恥ずかしい思いをさせる、
侮辱する、
意である。この、
人を恥ずかしいという思いにさせる、
という意の延長線上で、
千騎が一騎になるまでも、引くなと互いにはぢしめて(太平記)、
コレホド ココロガ カイナウテワ、ブツダウガ アル モノカ、ナラヌ モノカト ココロニ ココロヲ fagiximete(ハヂシメテ)(「天草本平家(1592)」)、
などと、
(恥を知るように)戒める、
たしなめる、
意にもなる(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。
「はぢ(じ)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/424025452.html)で触れたように、「はぢ」の語源は、手元では、
端(は)+づ、
とし、
端末にいる劣等感、
とする説(日本語源広辞典)しか見当たらないが、
自分の能力・状態・行為などについて世間並みでないという劣等意識を持つ意、
とする(岩波古語辞典)のと符合しないでもない。
中央から外れている、末端にいる劣等感、
から、
(自分の至らなさ、みっともなさを思って)気が引ける、
となるし、逆に、
(相手を眩しく感じて)気後れする、
となり、結果として、
照れくさい、
という意味になる。「はにかむ」は、
歯+に+噛む、で、遠慮がちに恥ずかしがる様子が、歯に物をかむようなので、はにかむという(日本語源広辞典)、
とする説もあるが、
ハヂカム(恥)の転(大言海・国語の語根とその分類=大島正健)、
とする説の、
恥を知って、恥ずかしがる、
と、
恥、
とつなげた方が、意味の連続性があるのではないか。なお、「はし(橋、端、梯、箸、嘴、階)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/473930581.html)については触れた。
また、「はじ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/424025452.html)に当てる漢字には、
恥、はぢ、はづると訓む。心に恥ずかしく思う、論語「行己有恥」、中庸「知恥近乎勇」、
辱、はずかしめ、栄の反。外聞悪しきを言う、転じて賓客応酬の辞となり、かたじけなしと訓む。降屈の義なり拝命之辱とは、貴人の命の降るを拝する義なり、曲禮「孝子不登危、懼辱親也」、
忝、辱に近し。詩経「亡忝爾所生」、
愧、おのれの見苦しきを人に対して恥ずる。醜の字の気味あり、媿に作る。韓文「仰不愧天、俯不愧人、内不愧心」、
慙、慙愧と連用す、愧と同じ。はづると訓むが、はぢとは訓まず。孟子「吾甚慙於孟子」、
怍、はぢて心を動かし、色を変ずるなり。礼記「容母怍」、
羞、はぢてまばゆく、顔の合わせがたきなり、婦女子などの、はづかしげにするなどに多く用ふ、
忸・怩・惡の三字、ともに羞づる貌、
僇(リク)、大辱なり、さらしものになるなり、
赧(タン・ダン)、はぢて赤面するなり、
詬(ク・コウ)、悪口せられてはづる義、言に従ひ、垢の省に従ふ、
等々とある(字源)。別に、
羞は、恥じて心が縮まること、愧は、はずかしくてこころにしこりがあること。「慙愧」と熟してもちいる。辱も柔らかい意を含み、恥じて気後れすること。忸は、心がいじけてきっぱりとしないこと。慙は、心にじわじわと切り込まれた感じ、
とあり(漢字源)、『字源』の説明と微妙にずれる。
「恥」(チ)は、
会意兼形声。耳(ジ・ニ)は、やわらかいみみ。恥は「心+音符耳」で、心が柔らかくいじけること、
とある(漢字源)が、別に、
会意。「心」+「耳」、恥ずかしくてその様子が耳に出る様。「耳」は音符、かつ、柔らかいことを象徴し、心がなよなよとすることを表わすとも(藤堂)
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%81%A5)、
会意文字です(耳+心)。「耳」の象形と「心臓」の象形から、はずかしくて耳を赤くする事を意味し、そこから、「はじる」、「はじ」を意味する「恥」という漢字が成り立ちました
ともあり(https://okjiten.jp/kanji1170.html)、
恥ずかしくてその様子が耳に出る様、
はよく「恥」の体感を言い得ている気がする。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:恥しめる