大樹(たいじゅ)の位に居して、武備の守りを全くせん事は、げにも朝家(ちょうか)のために、人の嘲りを忘れたるに似たり(太平記)、
兄弟一時(いっし)に相並んで大樹の武将に備はる事、古今(こきん)未だその例を聞かず(仝上)、
などとある、
大樹、
は、
大樹将軍の略、
征夷大将軍の異称、
とある(兵藤裕己校注『太平記』)。「大樹」は、文字通り、
大きな樹、大木、
の意で、
高山之巓無美木、傷於多陽成、大樹之下無美草、傷於多陰也(説苑・説叢)、
の、
大樹之下無美草(たいじゅのもとにはびそうなし)、
と、
賢路のふさがれるところには人材の出でざる、
意で使うが、また、
寄らば大樹の陰、
などと、
大きくてしっかりしたもののたとえ、
にもいう(広辞苑)が、この場合は、
大樹将軍の略、
で、
征夷大将軍、
を指し、わが国でも、
大樹公、
大樹、
などと、将軍の意で使った。この由来は、
異為人謙退不伐、……諸将竝坐論功、異常獨屛樹下、軍中號曰大樹将軍(異、人となり謙退にして伐(ほこ)らず、諸将並び坐して功を論ず、異、常に樹下に屛(しりぞ)く、軍中号して大樹将軍と曰う)(後漢書・馮異傳)、
にある(大言海・字源)、
諸将が功を誇る中、馮異(ふうい)一人が大樹の下に退いて誇らなかった、
という故事から、本来、
大樹将軍、
は、
後漢の将軍馮異の敬称、
であり、転じて、
将軍、
または、
征夷大将軍、
の異称となった(広辞苑)ものである。
「大」(漢音タイ・タ、呉音ダイ・ダ)は、
象形。人間が手足を広げて、大の字に立った姿を描いたもので、おおきく、たっぷりとゆとりがある意。達(タツ ゆとりがある)はその入声(ニッショウ つまり音)に当たる、
とある(漢字源)。
(「大」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%A7より)
「樹」(漢音シュ、呉音ジュ)の字源には、諸説あり、
甲骨文字の「权」は木を植える様子を象る象形文字。「植える」を意味する漢語{樹 /*dos/}を表す字。「权」に音符「豆 /*TO/」を加えて「尌」となり、「尌」に「木」を加えて「樹」となった、
とか、
会意形声、「木」+ 音符「尌」。「尌」は「壴」(太鼓の象形)と「寸」(手を広げた様子の象形)を合わせた字で、太鼓を台に「たてる」こと。これに「木」を合わせて、「立ち木」や、木のように物事を「うちたてる」こと、
とかあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A8%B9)、
(「樹」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A8%B9より)
(「樹」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A8%B9より)
会意兼形声。尌は太鼓または豆(たかつき)を直立させたさまに寸を加えて、⊥型にたてる動作を示す。樹はそれを音符とし、木を添えた字で、立った木のこと、
とか(漢字源)、
会意兼形声文字です(木+尌)。「大地を覆う木」の象形と「たいこの象形と右手の手首に親指をあて脈をはかる象形」(「安定して立てる」の意味)から、樹木や農作物を手で立てて安定させる事を意味し、そこから、「うえる」、「たてる」を意味する「樹」という漢字が成り立ちました、
とかとある(https://okjiten.jp/kanji942.html)のは、後者の説に当たるが、
この記述は甲骨文字や金文などの資料と一致していない記述が含まれていたり根拠のない憶測に基づいていたりするためコンセンサスを得られていない、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A8%B9)。
会意形声。木と、尌(シユ、ジユ 立てる)とから成る。立ち木の総称(角川新字源)、
は前者に当たる。甲骨文字は、「太鼓」には見えないが、金文文字(青銅器の表面に刻まれた文字)では、
根拠のない憶測、
とまでは言い切れない、微妙なものがある気がする。「樹」の俗字に、
𣗳、
という字があるのも、気にかかる(字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:大樹