兵革


今、兵革(ひょうがく)の後、世未だ安からず、国弊(つい)え、民苦しみて(太平記)、

とある。

兵革、

は、

ひょうかく、
へいがく、
へいかく、

などと訓ませ、

「兵」は槍・刀などの武器、「革」は甲冑(かっちゅう)などの武具の意、

で、

人数きたり、兵革(ひょうかく)を帯して大蛇を退治す(奇異雑談集)、

と、

いくさの道具の総称、

の意(高田衛編・校注『江戸怪談集』)であるが、それをメタファに、冒頭の、

兵革(ひょうがく)の後、

のように、

兵乱、

の意(兵藤裕己校注『太平記』)や、

天子念、則兵革災害不入国裏(続日本紀)、

のように、

たたかい、戦争、干戈、

の意で使う(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

「兵革(へいかく)」は、

兵革非不堅利也(兵革堅利ならざるに非ず)
とか
威天下不以兵革之利(天下を威(おど)すに兵革の利をもってせず)、

と(孟子)、漢語であり、ここでは、

武器・甲冑、

の意で使う(小林勝人訳注『孟子』)が、転じて、

いくさ、

の意でも使い、

城郭不完、兵甲不多、非国之災也(城郭完(まった)からず、兵甲多からざるは、国の災いに非ざるなり)、

と使う(仝上)、

兵甲(へいこう)、

と同義で、「兵甲」は、

兵は矛戟、甲は甲冑、

の意で、

戦争、

の意にも、

兵士、
戦力、

の意でも使う(字源)。

「兵」 漢字.gif

(「兵」 https://kakijun.jp/page/0725200.htmlより)

「兵」(漢音ヘイ、呉音ヒョウ)は、

会意文字。上部は斤(おの→武器)の形、その下部に両手を添えたもので、武器を手に持つさまを示す。並べ合わせて敵に向かう兵隊の意。中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)に、「力を并(あわ)すすがた」とある、

とある(漢字源)。つまり、

「斤(おの)」+「廾(キョウ 両手をそろえた様)」、

で、

斧(=武器)を両手で(かかげ)持つ様、

ということになる(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%85%B5・角川新字源)。別に、

「兵」 甲骨文字・殷.png

(「兵」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%85%B5より)

会意文字です(斤+廾)。「曲がった柄の先に刃をつけた手斧」の象形と「両手」の象形から、両手で持つ手斧を意味し、そこから、「武器・兵士・軍隊」を意味する「兵」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji635.html

「革」 漢字.gif


「革」(漢音カク、呉音キャク)は、

象形。動物の全身の皮をぴんとはったさまを描いたもの。上部は頭、下部はしっぽと両足である。張り詰める意を含む、

とある(漢字源)。

上部「廿」は頭、下部「十」は尾と両足、

ということhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9D%A9で、

克(コク はりきってたえる)、亟(キョク はりつめる)、改(カイ だれたものを伸ばして、起こし直す)などと同系とある(漢字源)。別に、

象形。角(つの)と尾がついたままの動物の皮の形にかたどり、毛を取り去ったかわの意を表す。借りて「あらためる」意に用いる、

とも(角川新字源)ある。

「革」 小篆・説文解字・漢.png

(「革」 小篆・説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9D%A9より)

参考文献;
小林勝人訳注『孟子』(岩波文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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