北のおとどよりわざとがましく集めたる鬚箱(ひげこ)ども、わりごなど奉れ給へり(源氏物語)、
破籠やうの物取り開き、舟人にも食はせなんどし給ふ(伽婢子)、
などの、
「わりご」は、
中にしきりのある箱、弁当箱、
とある(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)。因みに、「鬚箱(ひげこ)」は、
竹や針金などで作った籠で、編み残した端が鬚(ひげ)のようにでているもの(広辞苑)、
竹をもって籠をつくり、其編みあまりを長く残しおくもの、残れるが恰も髭の如し、端午の幟の頭などに用ゐ、又は贈物などを入る(大言海)、
と、
竹編みの籠、
を言う。
(「破子」 和漢三才図絵より)
「わりご」は、
破子、
破籠、
割籠、
割子、
樏、
等々と当て(広辞苑)、当て方を見ると、
割籠 71.4%
破子 14.3%
割子 7.1%
破籠 3.6%
食籠 3.6%
と(https://furigana.info/r/%E3%82%8F%E3%82%8A%E3%81%94)、
食籠、
とも当てるようだが、平安時代から、
ヒノキの薄い白木で折箱のように造り、内部に仕切りを設けて、同じ深さの蓋(かぶせぶた)をした弁当箱、
の意、また、それを換喩に、
なしまの丈六堂にて、ひるわりこくふに、弟子ひとり近邊の在家にて、魚をこひてすすめたりけり(宇治拾遺物語)、
と、
中に入れた食物、
も指す(仝上・岩波古語辞典)。
円形、三角形、四角形、扇形などさまざまな形につくり、その日限りに使い捨てた、
という(日本大百科全書)。古くは、
携行食には餉(かれいい)、すなわち干した飯を用い、その容器を餉器(かれいけ)、
といったが、『和漢三才図会』には、
わり子は和名加礼比計(かれいけ)、今は破子という、
とある(ブリタニカ国際大百科事典)。後世、
弁当容器としてメンツウ、メンパ、ワッパなどとよばれるヒノキの曲物(まげもの)をサクラの樹皮で留めたもの、
や、
メシゴウリなどとよばれるタケ、ヤナギの行李(こうり)、
が用いられ、これらを両手に持って開いたとき、蓋と身(み)がほぼ同形で二つに破(わ)った格好になるので、これを、
破子、
ともよんでいる(日本大百科全書)、とある。
蓋と身がちょうど同じ深さであるところから(思ひの儘の記)、
ワリケ(別笥)の義(言元梯)、
も同趣旨だが、別に、
器内に隔あれば、割子なり(大言海・嬉遊笑覧)、
と、器内の分割からきているとする説もある。あるいは、
ふたは一枚板かかぶせぶた、
ともある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%B4%E7%B1%A0)ので、当初は、
器内を分けていた、
ことから、その名が由来したが、後の、
メンパ、
ワッパ
などから、
ほぼ同形で二つに破(わ)った格好、
からくる「破子」の意味に転じたということも考えられる。『和漢三才図絵』の、
わり子は和名加礼比計(かれいけ)、今は破子という、
とは、その意味のようだ。和名類聚抄(平安中期)にも、
樏子、破子、和利古、有障之器也、
とある。
因みに、現在も、平安時代由来の「わりご」を使っているのは、
小豆島わりご弁当
だけ(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/warigo_bentou_kagawa.html)らしい。
「樏」(ルイ)は、
山道を行くときに用いる道具、人を乗せて運ぶかご、
の意で、
禹が山行に乗りし処のもの、
とある(字源)。しかし、わが国では、
雪中を行くに踏込まざるやうに編見て作りし履物、
つまり、
かんじき、
の意で使い(字源)。
わりご、
にも当てたらしい。旁の「累」(ルイ)は、
会意兼形声。「纍」の略体、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B4%AF)、
「纍」は「糸」+音符「畾」(ルイ・ライ)、「畾」はものが積みあがった様子を示す象形又は会意で、積み上がったものを連ねるの意、
とあり(仝上)、「纍」は、
畾を音符とし、糸を加えたのが原字で、糸でつなぐように、次々とつらなって、重なる意、
となる(漢字源)。その意味で、「木」で、
重ねる、
つなげる、
意から、
わりご、
や
かんじき、
に当てたものではないかという気がする。
「破」(ハ)は、
形声(意味を表す部分と音を表す部分を組み合わせて作られた文字)。「石+音符皮」。皮(曲線をなしてかぶせたかわ)とは直接関係はない、
とあり(漢字源)、
石が「やぶれる」こと、石で「やぶる」こと(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A0%B4)、
石が裂けくだける、ひいて、くだきやぶる意を表す(角川新字源)、
ともある。別に、
形声文字です(石+皮)。「崖の下に落ちている石」の象形(「石」の意味)と「獣の皮を手ではぎとる」象形(「皮」の意味だが、ここでは「波」に通じ(「波」と同じ意味を持つようになって)、「波(なみ)」の意味)から、
くだける波のように石が「くだける」を意味する「破」という漢字が成り立ちました、
との解釈もあり(https://okjiten.jp/kanji847.html)、「皮」と関連づけている。
「割」(漢音カツ、呉音カチ)は、
形声。害(ガイ)は、かご状のふたを口の上にかぶせることを示し、遏(アツ)と同じくふさぎ止めること。割は「刀+音符害」で害の原義とは関係ない、
とある(漢字源)が、
形声。刀と、音符(カイ)→(カツ)とから成る。切り分ける意を表す(角川新字源)、
とも、
会意兼形声文字です(害+刂(刀))。「刀」の象形と「屋根の象形ときざみつける象形と口の象形」(祈りの言葉を切り刻むさまから、「傷つける・殺す・断ち切る」の意味)から、刀で「たちきる」を意味する「割」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji982.html)、
ともある。
「子」(漢音呉音シ、唐音ス)は、
象形。子の原字に二つあり、一つは、小さい子供を描いたもの。もう一つは、子供の頭髪がどんどん伸びるさまを示し、おもに十二支の子(シ)の場合に用いた。のちこの二つは混同して子と書かれる、
とある(漢字源)が、見た限りでは、
象形。こどもが手を挙げている形にかたどり、おさなご、ひいて、若者の意を表す。借りて、十二支の第一位に用いる(角川新字源)、
象形文字。「頭部が大きく手・足のなよやかな乳児」の象形から「子」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji29.html)、
と「子ども」の象形説のみである。
「籠(篭)」(漢音ロウ、呉音ル)は、
会意形声。「竹」+音符「龍」、「龍」は丸く細長いものを意味し、竹でそのように編んだかごに当てた(藤堂明保)、
と、
壟(小高い丘)に通じ、土を運ぶもっこの意。又は、「寵」に通じ、抱え込むの意、
の二説がある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B1%A0)とされるが、
会意兼形声。「竹+音符龍(ロウ 円筒状で長い)」。大蛇のように細長い竹かご(漢字源)、
形声。竹と、音符龍(ロウ)とから成る。竹製の「かご」の意を表す(角川新字源)、
会意兼形声文字です(竹+龍)。「竹」の象形と「龍」の象形(「龍」の意味だが、ここでは、「つめこむ」の意味)から、「土を詰め込む竹かご(もっこ)」を意味する「籠」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1369.html)、
等々、前者の説しか見えなかった。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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