そのすみは、したうづがたにぞありける(宇治拾遺物語)、
の、
したうづかた、
は、
襪型、
であり、
したうづ、
は、
したぐつの音便、
靴の下に履く足袋、いまの靴下、
とある(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)。
「したうづ(したうず)」は、
下沓、
襪、
と当て、
しとうず(しとうず)、
とも言う(広辞苑・岩波古語辞典)。
(「しとうづ」 『和漢三才図絵』より)
類聚名義抄(11~12世紀)には、
襪、したうづ、
とあり、名目抄(塙保己一(はなわほきいち)編『武家名目抄』)には、
襪、したうつ、
とある。
下履の義、
であり(大言海)、
沓(くつ)を履くときに用いる布帛(ふはく)製の履物(靴下の類)、
だが、
礼服(らいふく)には錦(にしき)、
束帯には白平絹(しろひらぎぬ)、
を用いる。
足袋に似ているが底布・指の分かれはなく、足首につけた紐(ヒモ)で結ぶ、
とある(広辞苑・デジタル大辞泉・学研全訳古語辞典)。なお、「襪」を履くのは、
礼服、
束帯、
の時だけで、衣冠・直衣(のうし)・狩衣などでは穿くことができず、老齢、病気以外、
礼服・束帯以外の装束では素足が基本、
とされる(有職故実図典)。
(「しとうづ」 広辞苑より)
「礼服(らいふく)」は、
隋・唐の制を参考に、大宝(たいほう)の衣服令(りょう)で、朝服に加えて礼服を制定し、養老(ようろう)の衣服令によって改修された、
もので(有職故実図典)、
即位、大嘗祭(だいじょうさい)、元日朝賀等の重要な儀式、
に着用、
文官、武官、女官の別、
さらに、
天皇は冕冠(べんかん 冠の上部に五色の珠玉を貫いた糸縄(しじょう)を垂らした冕板(べんばん 方形の薄い板。両端に連珠の糸縄を一二流(東宮は九流)ずつ垂らす)をつけた)、赤地に竜文の衣、皇太子は黄丹(おうに)の衣、
と定められていた(仝上・百科事典マイペディア)。
(冕冠の図。ほぼ同形の実物が皇室御物として伝わる https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%95%E5%86%A0より)
文官の礼服は、
礼服冠(らいふくのかん)、衣(きぬ 大袖の下に小袖)、白袴(しろのはかま 下袴として大口(おおぐち 裾愚痴を括らずひろがっている)を使用)、帯(皇太子は白、他はすべて絛帯(くみのおび))、褶(ひらみ 裳(も)の一種。袴の上から腰にまとう)、綬(じゅ 乳の下から結んで垂れる白の絛帯(くみおび)で、平緒のように組んだもの平組みの帯 五位以上佩用))、玉佩(ごくはい・ぎょくはい 三位以上は付加)、牙(げ)の笏(しゃく)、襪(しとうず)、舃(せきのくつ)、
などからなり、武官の礼服は、
礼冠、緌(老懸 おいかけ)、位襖(いおう 「襖」は、わきを縫い合わせない上衣)、裲襠(うちかけ・りょうとう 長方形の錦(にしき)の中央にある穴に頭を入れ、胸部と背部に当てて着る貫頭衣)、白袴、行縢(むかばき 袴(はかま)の上から着装。「向こう脛巾(はばき)」から転じた)、大刀(たち)、腰帯、靴(かのくつ)、
などからなり(広辞苑・有職故実図典・精選版日本国語大辞典他)、
五位以上の所用で、衣は当色(とうじき 身分や位階に相当した色)によって区別があった、
とある(仝上)。
因みに、「玉佩」は、
腰に帯びるもの。上部及び中間部に金銅の花形の盤を設け、これに五色の玉を貫いた五筋の組糸を垂らし、各組糸の先端にも小さい花形の盤をつける。歩くと沓(くつ)の先端に当たって鳴る、
(玉佩 精選版日本国語大辞典より)
「綬」は、
礼服の付属具。乳の下から結んで垂れる白の絛帯(くみおび)で、平緒のように組んだもの、
(綬 精選版日本国語大辞典より)
「懸緒」は、
おいかけ(老懸・緌)、
ともいい、
(懸緒 精選版日本国語大辞典より)
冠につけて顔面の左右に覆いかけるもの。馬の尾の毛などで作り、本(もと)を束ね、先端を平らに開いて半月形とし、懸緒(かけお)で左右につけるのを普通とする、
とある(仝上・精選版日本国語大辞典)。
また「舃(せきのくつ)」は、
爪先が高くなっているので「鼻高履」ともいいました。中国からの舶載によるもので、男子用は黒革でつくられ、裏は赤地錦、女子用は錦(にしき)か緑の裂(きれ)でつくられ、金銀で飾りました。いずれも礼服着用の際に用いるもの、
とある(http://www.so-bien.com/kimono/syurui/sekinokutu.html)。「舃」(セキ)は「履(くつ)」の意である。
(舃(せきのくつ)(正倉院蔵) https://ameblo.jp/nanohanacr/entry-12227501323.htmlより)
また、「靴(かのくつ)」は、
靴の沓、
とも当て、
牛革製黒塗の深沓様式で、立挙(たてあげ)を靴氈(かせん)と呼ぶ赤地または青地の錦で飾り、靴の上から足先を統べる靴帯(かたい)という金銅金具の帯をつけ、鉸具(かこ)に責金(せめがね)を入れ、着用後、鉸具によって締めた、
とあり(広辞苑・有職故実図典)、
毛の沓(くつ)、
靴(か)、
ともいう(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。本来武官のものだが、平安時代になると文官も使用した(有職故実図典)。なお「沓」については、「水干」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/485691809.html)で触れた。
(靴(かのくつ) 精選版日本国語大辞典より)
「束帯」は、
飾りの座を据えた革の帯で腰を束ねた装束、
の意(有職故実図典)で、『論語』の公冶長篇の、公西華(字は赤)についての孔子の、
赤也何如(赤や何如)、
子曰、赤也、
束帯立於朝(赤(せき)は束帯して朝に立ち)、
可使與賓客言也(賓客と言(ものい)わしむべし)、
の言葉にある、
束帯立於朝、
に由来するとされ(仝上)、
公家(くげ)男子の正装。朝廷の公事に位を有する者が着用する。養老(ようろう)の衣服令(りょう)に規定された礼服(らいふく)は、儀式のときに着用するものとされたが、平安時代になると即位式にのみ用いられ、参朝のときに着る朝服が礼服に代わって儀式にも用いられ、束帯とよばれるようになった、
とある(有職故実図典・日本大百科全書)。
(「束帯姿」(『年中行事絵巻』) 『有職故実図典』より)
(束帯装束の武官と文官 日本大百科全書より)
その構成は、下から、
単(ひとえ 肌着として用いた裏のない衣。地質は主に綾や平絹)・袙(あこめ 「あいこめ」の略。下襲(したがさね)と単(ひとえ)との間に着用)・下襲(したがさね 内着で、半臂(はんぴ)または袍(ほう)の下に着用する衣。裾を背後に長く引いて歩く。位階に応じて長短の制がある)・半臂(はんぴ 内衣で、袖幅が狭く、丈の短い、裾に襴(らん)をつけたもの)・袍(ほう 上着。「うえのきぬ」)を着用、袍の上から腰の部位に革製のベルトである石帯(せきたい)を当てる。袴(はかま)は大口袴・表袴の2種類あり、大口を履き、その上に表袴を重ねて履く。冠を被り、足には襪(しとうず)を履く。帖紙(たとう)と檜扇(ひおうぎ)を懐中し、笏(しゃく)を持つ。公卿、殿上人は魚袋(ぎょたい)と呼ばれる装飾物を腰に提げた、
とあり、武家も五位以上の者は大儀に際して着用した。その構成は、
冠、袍、半臂、下襲(したがさね)、袙(あこめ)、単(ひとえ)、表袴、大口(おおぐち)、石帯(せきたい)、魚袋(ぎょたい)、襪(しとうず)、履(くつ)、笏(しゃく)、檜扇(ひおうぎ)、帖紙(たとう)、
よりなる。文官用と武官用、および童形用の区別がある。文官は、
有襴(うらん 両脇が縫いふさがり,裾に襴(らん 縫腋(ほうえき)の裾に足さばきのよいようにつける横ぎれ。両脇にひだを設ける)がついた)の袍または縫腋の袍とよばれる上着を着て、通常は飾太刀(かざりたち)を佩(は)かぬが、勅許を得た高位の者は儀仗(ぎじょう)の太刀(たち)を平緒(ひらお)によって帯び、
武官は、
冠の纓(えい)を巻き上げて、いわゆる巻纓(けんえい)とし、緌(おいかけ)をつけた緒を冠にかけてあごの下で結んで留める。そして無襴の袍または闕腋(けってき)の袍といわれる、両脇(わき)を縫い合わせずにあけた上着を着て、毛抜形(柄(鉄製)と刀身とが接合され一体となるよう作られている)と称される衛府(えふ)の剣〈たち〉を佩く。弓箭(きゅうせん)を携え、箭(や)を収める具として胡籙(やなぐい)を後ろ腰に帯びる、
とある(仝上・日本大百科全書)。
因みに、「半臂」は、
袍(ほう)や位襖(いおう)の下に着用した朝服の内衣で、袖幅が狭く、丈の短い、裾に襴(らん)をつけたもの、
で、
(半臂 デジタル大辞泉より)
「石帯」は、
袍(ほう)の腰に締める帯。牛革を黒漆で塗り、銙(か)とよぶ方形または円形の玉や石の飾りを並べてつける。三位以上は玉、四位・五位は瑪瑙(めのう)、六位は烏犀角(うさいかく)を用いた、
(石帯 精選版日本国語大辞典より)
「魚袋(ぎょたい)」は、
朝服である束帯着用のときに腰に帯びる。中国、唐の魚符の制に倣った、朝廷に出入するときの証契(通行証)が装飾品となった。着け方は、普通、石帯の第一、第二の石の間に結んで右腰に下げる、
もので(仝上)、
(魚袋 精選版日本国語大辞典より)
鮫皮で包んだ長方形の小箱の表側に殿上人は銀、公卿は金の小さな魚の形6個、裏側に1個を飾り、その上に紫か緋(ひ)の組紐をつけた、
とあり(仝上・精選版日本国語大辞典)、
金魚袋は三位以上の者が用い、銀魚袋は四位・五位の者が用いた、
という(仝上)。
「襪」(慣用ベツ、漢音バツ、呉音モチ)、
は、
会意兼形声。「衣+音符蔑(見えない、隠してみえなくする)」。足先を隠す足袋や靴下、
とある(漢字源)。「韈」も同義となる。
「沓」(漢音トウ、呉音ドウ)は、
会意。「水+曰(いう)」で、ながれるようにしゃべることをあらわす。重ね合わせる意を含む、
とある(漢字源)。「靴」の意で使うのはわが国だけである。「鞜」は靴の意である。
「沓」については「水干」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/485691809.html)で触れた。
参考文献;
鈴木敬三『有職故実図典』(吉川弘文館)
貝塚茂樹訳注『論語』(中公文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95