わらすべ
あるにもあらず手ににぎられたる物をみれば、わらすべといふ物ただ一筋にぎられたり(宇治拾遺物語)、
の、
わらすべ、
は、
わらしべ、
の転訛、
藁稭、
と当て、
わらしび、
とも訛るが、
稲の穂の芯、
の意で、
わらくず、
わらみご、
ともいい、その意味では、
藁の細いもの、
の意の、
わらすぢ(藁筋)、
とも重なり、「わらすぢ」は、
わらしべ、
の意でも使う(広辞苑・日本語の語源)。「しべ(稭)」は、『和玉篇』(室町初期)に、
筵、わらしべ、
とあり、
藁の穂の芯、
の意で(広辞苑)、
藁のしべをまはりにさし入れて、かねを隔てて、頸もちぎるばかり引きたるに(徒然草)、
と、「しべ」は、
藁蘂の義(大言海)、
とあり、いわゆる、
蘂、
蕊、
蕋、
と当てる「しべ」、和名類聚抄(平安中期)の、
蕊、和名之倍(しべ)、花心也、
とある、
花蕊、
つまり、
おしべとめしべの総称、
と繋がっている。「しべ」は、
シメ(締)の転、総べ括る意か(大言海)、
シメスベの略で、花の中心を占める義(本朝辞源=宇田甘冥)、
心辨の音か(和訓栞)、
等々諸説あるが、いずれにしても、
芯、
の意なので、本来は、
にごり酒などをしべの先にて請けのみ(狂言・夷毘沙門)、
と、
藁の穂の芯、
の意になるが、広く、
打藁のくず、
くずわら、
の意でも使う(広辞苑)。だから、
わらみご(藁稭)、
の「みご」は、
稭、
稈心
と当て、
藁の外側の葉や葉鞘(はざや)を取り除いた茎の部分、
を意味する(デジタル大辞泉)。因みに、「稈」(カン)は、
稲、竹などのイネ科植物を主とする単子葉植物の茎、
を指す(精選版日本国語大辞典)。「みご」は、
身子の義、
ともあり(大言海)、
みご箒、
ということばがあるように、
穂を着くる茎を云ひ、強靭にして種々の用に供せられる、
とある(仝上)。
「藁」は、江戸後期の箋注和名抄に、
藁、和良、禾莖也、
とあり、
和和良にて、散乱の義(大言海)、
ワラワラから(日本語源=賀茂百樹)、
ばらばらにする意の、ワラ(散)クルから(国語の語根とその分類=大島正健)、
バラバラのバラの転bara→ wara(日本語源広辞典)、
などとあるように、
ばらばらの状態、
を表現する擬態語由来と見られ、
玉に貫き消(け)たず賜らむ秋萩の末(うれ)わわらばに置ける白露(万葉集)、
と、
ほつれ乱れた葉、
やぶれそそけた葉、
の意の
わわらば、
という言葉もある。もっとも、「わわらば」は、別に、
玉に貫き消たず賜(たば)らむ秋萩の末(うれ)和久良葉に置ける白露、
と、
和久良葉(わくらば)、
ともあり、諸本は、
和々良葉、
とあって、多く、
わわらば、
と訓ませるが、諸説ある(精選版日本国語大辞典)、ともあるが。
「かひ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/488608272.html?1654280160)で触れたことと重なるが、「かひ(殻)」は、類聚名義抄(11~12世紀)に、
稃(もみがら)、いねのかひ、
とあるように、
貝(かひ)、卵(かひ)などすべて(の殻に)いふ、米のもみ殻をも云ふ、
ので、
藁の穂の芯、
という意味で、
から(殻の莖・幹)の転、kwaraのkの脱落でwara(日本語源広辞典)、
も捨てがたいが。
「藁」(コウ)は、
会意兼形声。「艸+音符稾(コウ 立ち枯れ)で、きびやこうりゃんのたちがれ、
とある(漢字源)。どうやら、
きびがら(黍殻)、
を指したらしい。別に、
形声文字です(艸+高+木)。「並び生えた草」の象形と「高大な門の上の高い建物の象形(「高い」の意味だが、ここでは「確」に通じ(「確」と同じ意味を持つようになって)、「堅い」の意味)と大地を覆う木の象形」(木が堅くなる「枯れる」の意味)から、枯れた草「わら」を意味する「藁」という漢字が成り立ちました、
との解釈もある(https://okjiten.jp/kanji2716.html)。
「稭」(カイ・カツ)は、
皮を取り去った藁、
の意であり、「わらしべ」である。それによってつくった「筵」の意でもある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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