2022年06月09日

しなしなし


凡そけだかくしなしなしう、をかしげなる事、ゐ中人(なかびと)の子といふべからず(宇治拾遺物語)、

にある、

しなしなし、

は、

上品で、

の意とある(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)。「しなしなし」は、普通、

田舎びたるされ心もてつけて、しなじなしからず(源氏物語)、

と、

しなじなし、

といい、

品々し、

と当て、

いかにも品格が高い、
上品である、

という意で使う(広辞苑・岩波古語辞典)。

品格、

を、

しな、

と訓ませるのと繋がっている(大言海)。

品、

を、

しな、

と訓ませると、

品、
科、
階、

と当て、

階段のように順次に高低の差別・序列のあるもの、転じて、序列によって判定される物の良否、

の意味で(岩波古語辞典)、

層をなして重なったもの、

の、

階段、
種類、
地位、
品位、
巧拙、
事の次第、

といった意味の幅がある。「品」を漢語の音で訓んで、

品がある、

というのは、漢字のもつ意味からきているが、

しなじなし、

には、「品」を大宝令で、「三品(さんぼん)の親王」というように、一品(いっぽん)から四品(しほん)まで、親王に賜った位がある。この「品」のもつ意味の翳がある気がする。

なお、似ているが、

五体をも弱弱と、心に力を持たずして、しなしなと身をあつかふべし(「花鏡(1424)」)、

の、

しなしな、

は、

しなやかなさま、

で、

靭(しな)ひ、撓む状に云ふ語、

とある(大言海)ように、

撓(たわ)む、

意の、

しな(撓)ふ、

からきている。その転訛したのが、

萎れる、

意の、

しな(萎)ぶ、

とある(仝上)。ただ「しなふ」は、

しなやかな曲線を示す意、類義語たわむは加えられた力を跳ね返す力を中に持ちながらも、押され曲がる意、しなう(萎)は萎れる語で別語、

ともある(岩波古語辞典)。確かに、

しな(撓)ふ、

しな(萎)ぶ、

では、語意も語感も異なる気がするが、「しなしな」には、上記の、

心に力を持たずして、しなしなと身をあつかふべし(花鏡)、

の、

しないたわむさま、

の意が、江戸時代になると、

おかねや、其様にしなしなして居ちゃァならねへヨ(人情本「氷縁奇遇都の花(1831)」)、

と、

張りのないさま、
元気のないさま、

の意で使い、

「しなやか」「しなふ」の語幹を重ねた語、

とある(江戸語大辞典)ように、「しなしな」が、

しな(撓)ふ→しな(萎)ぶ、

と、意味が変化したようなのである。だから今日、擬態語、

しなしな、

は、

柔らかく弾力があって撓んだり身をくねらせる、

意と共に、

張りがなく、しぼんでいる様子、

の意があるが、

しなしなになっていく、

という言い方で、今日、

しぼむ、

意で使うことが多い(擬音語・擬態語辞典)とある。もはや、両者を別語とは見なしていないようである。

「品」 漢字.gif

(「品」 https://kakijun.jp/page/0929200.htmlより)

「品」(漢音ヒン、呉音ホン)は、

会意文字。口三つを並べて、いろいろの名の物をあらわしたもの。一説に、口ではなく、四角い形三つでいろいろな物を示した会意文字、

とある(漢字源)。「物品」「品級」「人品」「品評」などと使う。別に、

会意。口(しなもの)を三つ並べて、区別して整理された多くの物、ひいて、しなわけ、物の値うちの意を表す、

とも(角川新字源)、

会意文字です(口+口+口)。「色々な器物」の象形から、とりどりの個性を持つ「しな」を意味する「品」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji535.html

「品」 恍惚文字・殷.png

(「品」 恍惚文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%93%81より)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:11| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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