凡そけだかくしなしなしう、をかしげなる事、ゐ中人(なかびと)の子といふべからず(宇治拾遺物語)、
にある、
しなしなし、
は、
上品で、
の意とある(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)。「しなしなし」は、普通、
田舎びたるされ心もてつけて、しなじなしからず(源氏物語)、
と、
しなじなし、
といい、
品々し、
と当て、
いかにも品格が高い、
上品である、
という意で使う(広辞苑・岩波古語辞典)。
品格、
を、
しな、
と訓ませるのと繋がっている(大言海)。
品、
を、
しな、
と訓ませると、
品、
科、
階、
と当て、
階段のように順次に高低の差別・序列のあるもの、転じて、序列によって判定される物の良否、
の意味で(岩波古語辞典)、
層をなして重なったもの、
の、
階段、
種類、
地位、
品位、
巧拙、
事の次第、
といった意味の幅がある。「品」を漢語の音で訓んで、
品がある、
というのは、漢字のもつ意味からきているが、
しなじなし、
には、「品」を大宝令で、「三品(さんぼん)の親王」というように、一品(いっぽん)から四品(しほん)まで、親王に賜った位がある。この「品」のもつ意味の翳がある気がする。
なお、似ているが、
五体をも弱弱と、心に力を持たずして、しなしなと身をあつかふべし(「花鏡(1424)」)、
の、
しなしな、
は、
しなやかなさま、
で、
靭(しな)ひ、撓む状に云ふ語、
とある(大言海)ように、
撓(たわ)む、
意の、
しな(撓)ふ、
からきている。その転訛したのが、
萎れる、
意の、
しな(萎)ぶ、
とある(仝上)。ただ「しなふ」は、
しなやかな曲線を示す意、類義語たわむは加えられた力を跳ね返す力を中に持ちながらも、押され曲がる意、しなう(萎)は萎れる語で別語、
ともある(岩波古語辞典)。確かに、
しな(撓)ふ、
と
しな(萎)ぶ、
では、語意も語感も異なる気がするが、「しなしな」には、上記の、
心に力を持たずして、しなしなと身をあつかふべし(花鏡)、
の、
しないたわむさま、
の意が、江戸時代になると、
おかねや、其様にしなしなして居ちゃァならねへヨ(人情本「氷縁奇遇都の花(1831)」)、
と、
張りのないさま、
元気のないさま、
の意で使い、
「しなやか」「しなふ」の語幹を重ねた語、
とある(江戸語大辞典)ように、「しなしな」が、
しな(撓)ふ→しな(萎)ぶ、
と、意味が変化したようなのである。だから今日、擬態語、
しなしな、
は、
柔らかく弾力があって撓んだり身をくねらせる、
意と共に、
張りがなく、しぼんでいる様子、
の意があるが、
しなしなになっていく、
という言い方で、今日、
しぼむ、
意で使うことが多い(擬音語・擬態語辞典)とある。もはや、両者を別語とは見なしていないようである。
「品」(漢音ヒン、呉音ホン)は、
会意文字。口三つを並べて、いろいろの名の物をあらわしたもの。一説に、口ではなく、四角い形三つでいろいろな物を示した会意文字、
とある(漢字源)。「物品」「品級」「人品」「品評」などと使う。別に、
会意。口(しなもの)を三つ並べて、区別して整理された多くの物、ひいて、しなわけ、物の値うちの意を表す、
とも(角川新字源)、
会意文字です(口+口+口)。「色々な器物」の象形から、とりどりの個性を持つ「しな」を意味する「品」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji535.html)。
(「品」 恍惚文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%93%81より)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95