2022年06月15日

犢鼻褌(たふさぎ)


みれば額に角おひて目一つある物、あかきたふさきしたる物出来て、ひざまづきてゐたり(宇治拾遺物語)、

の、

たふさき、

は、

たふさぎ、
たうさぎ、
とふさぎ、

とも表記し、古くは、

わが背子が犢鼻(たふさき)にする円石(つぶれし)の吉野の山に氷魚(ひを)ぞ懸有(さがれる)(万葉集)、

とあり、色葉字類抄(1177~81)にも、

犢鼻褌、たふさき、

と、

清音で、現代表記では、

とうさぎ、

となり、

犢鼻褌、
犢鼻、
褌、

と当てる(広辞苑・大言海・日本語源大辞典)。別に、

したおび、
はだおび、
まわし、
すましもの、
ちひさきもの、
したも、
したのはかま、
はだばかま、
とくびこん(犢鼻褌)、

等々ともいう(大言海)。いまでいう、

ふんどし(褌)

のようなものとされ、

今の越中褌のようなもの、まわし、したのはかま(岩波古語辞典)、
股引の短きが如きもの、膚に着て陰部を掩ふ、猿股引の類、いまも総房にて、たうさぎ(大言海)、
肌につけて陰部をおおうもの、ふんどし(広辞苑)、

等々とあるので、確かに、

ふんどし、

のようなのだが、「ふんどし」http://ppnetwork.seesaa.net/article/477980525.htmlで触れたことだが、

犢鼻(とくび)、

と当てたのは、それをつけた状態が、

牛の子の鼻に似ていること(「犢」は子牛の意)、

からきている(日本語源大辞典)とする説もあり、確かに、和名類聚抄(平安中期)に、

犢鼻褌、韋昭曰、今三尺布作之、形如牛鼻者也、衳子(衳(ショウ)は下半身に穿く肌着、ふんどしの意)、毛乃之太乃太不佐岐(ものしたのたふさき 裳下(ものしたの)犢鼻褌)、一云水子、小褌也、

とあり、下學集(文安元年(1444)成立の国語辞典)にも、

犢鼻褌、男根衣也、男根如犢鼻、故云、

とある。しかし、江戸中期の鹽尻(天野信景)は、

隠處に當る小布、渾複を以て褌とす。縫合するを袴と云ひ、短を犢鼻褌と云ふ。犢鼻を男根とするは非也、膝下犢鼻の穴あり、袴短くして、漸、犢鼻穴に至る故也、

とする。つまり、「ふんどし」状のものを着けた状態ではなく、「したばかま」と言っているものが正しく、現在でいうトランクスに近いものらしいのである。記紀では、

褌、

を、

はかま、

と訓ませているので、日本釈名に、

犢鼻褌、貫也、貫両脚、上繁腰中、下當犢鼻、

と言っているのが正確のようである。「すまふ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/488850813.html?1655057522)で触れたが、相撲の節会では、禁中、

力士、犢鼻褌の上に、狩衣、烏帽子にて、取る、

とあり(大言海)、

右相撲犢鼻褌上著狩衣、開紐夾狩衣前(「江家次第(1111頃)」)、

ともある。この恰好なら、

したばかま、

つまり、

トランクス、

の方が似合いそうである。

また、「犢鼻」(とくび)は、

脛の三里の上の灸穴の名と云ふ、

とある(大言海)。

足の陽明胃経の35番目のツボ、

で、その位置は、

膝前面、膝蓋靭帯外方の陥凹部、膝を屈曲したとき、膝蓋骨外下方の陥凹部、

にあるhttps://www.higokoro.com/acupuncture-points/1576/。その位置が、

子牛の鼻に見えるからその名がつけられた、

らしいhttp://www.sun-seikotsuhari.com/blog/2017/04/post-111-438921.html。上記で、鹽尻が、

膝下犢鼻の穴あり、袴短くして、漸、犢鼻穴に至る故也、

といっているのは、その「犢鼻」の位置を言っているのである。

「犢鼻褌」に「犢鼻」を当てたのは、この、

灸穴の名、

から来ているようである。「たふさぎ」に当てた、

犢鼻褌、

は、漢音で、

トクビコン、

さるまた、

の意で、

相如身自著犢鼻褌、與保庸雑作、滌器於市中(史記・司馬相如伝)、
少孤食、愛學、閉戸読書、暑月惟著犢鼻(北史・劉畫傳)、

などと、

褌は貫、両脚を貫きて腰に繋ぐ、

とある(字源)。これもトランクス様である。

たふさき(ぎ)、

の由来については、

マタフサギ(股塞)の略(和字正濫鈔・漫画随筆・物類称呼・雅言考・言元梯・名言通・松屋筆記・和訓栞・大言海)、
タフサギ(手塞)の義(東雅・貞丈雑記・秋長夜話)、
タは助語、フサグ意(筆の御霊)、

といった諸説だが、上記の、

犢鼻(とくび)、

の意味から見れば、

マタフサギ(股塞)の略、

なのではあるまいか。

風神雷神図(俵屋宗達).png



三十三間堂の雷神.jpg



三十三間堂の風神.jpg


イメージとしては、

鬼が履いている虎柄のパンツ、

あるいは、

風神・雷神のはいている下着、

である。因みに、「追儺」http://ppnetwork.seesaa.net/article/485463935.htmlで触れたように、追儺の鬼は、裸ではない。

「犢」 漢字.gif


「犢」(漢音トク、呉音ドク)は、

形声、旁の字が音を表す、

とのみしかない(漢字源)が、別に、

形声。「牛」+音符「𧶠(イクまたはショク、古形は「𧷏・𧷗」、「賣(=売)」ではない)」、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%8A%A2

子牛、

の意である。

「犢」 説文解字・漢.png

(「犢」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%8A%A2より)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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