2022年06月21日

花客


「花客」は、

カカク(クワカク)、

と訓ませ、

華客、

とも当て、

花をみる人、
花見客、

の意だが、

客の美称、

で、

おとくい、
とか
顧客、

の意で使い、さらに、

花客を作らんが為め殊に手土産などに気を注ぐ事(三宅雪嶺「偽悪醜日本人(1891)」)、
大事なお花客(とくい)である(泉鏡花「薄紅梅」)、
赤毛布(あかゲット)が上花客(じょうとくい)でなくなった(夢野久作「街頭から見た新東京の裏面」)、

などと、

とくい →92.3%、
おとくい→7.7%、

とも訓ませるhttps://furigana.info/w/%E8%8A%B1%E5%AE%A2

ただ、岩波古語辞典、江戸語大辞典などには載らず、大言海に、

商家などにて、得意の客、得意先、買い付けのひと、

の意と載るが、用例が、近代以降のものしか見当たらない。

「花客」は、平安後期の書簡文および教科書「明衡往来」(藤原明衡)に、

乃時(ナイジ すぐその時)刑部大輔平所召古今和歌集。或花客借取。未被返送、

と、

客人、
来訪者、

の意で使われている(背精選版日本国語大辞典)。

その意味で、

客人→顧客、

の意味の変化は納得できるが、『字源』には、「花客」は、

顧客、
花主、
華客、

と同義とあり、

とくい、

の意とある。漢語なのかどうかははっきりしないが、

顧客、

は、わが国だけの使い方でもある(字源)が、「顧」には、

客の来訪を丁寧にいう語、

とあり、

来て目をかけてくださる意から、

顧客、
惠客(おいでくださる)、

と使う(漢字源)。それを、わが国で、意訳して、

御得意、

の意に転じて使っているのかもしれない。その意味で、

花(華)客、

にも、和風漢字の感じがなくもない。「花」は、漢字では、

桃李花、
落花流水、

と、

牡丹、

をさす(漢字源)、あるいは、

洛陽の人は単に牡丹を花と言ふ、

とあり(字源)、日本では、「花」の含意は、特に、

桜の花、

を指し、そこから、

盛り、
栄えること、
時めくこと、

といった意味を含み、

花代(祝儀)、
花形、
花盛り、

といった言い方をする。何となく、

花客、

は、それとつながる気がしてならない。勿論憶説だが。

「花」 漢字.gif

(「花」 https://kakijun.jp/page/hana200.htmlより)

「花」(漢音カ、呉音ケ)は、「はな」http://ppnetwork.seesaa.net/article/449051395.htmlでも触れたが、

会意兼形声。化(カ)は、たった人がすわった姿に変化したことをあらわす会意文字。花は「艸(植物)+音符化」で、つぼみが開き、咲いて散るというように、姿を著しく変える植物の部分、

とある(漢字源)。「華」は、

もと別字であったが、後に混用された、

とある(仝上)。別に、

会意兼形声文字です。「木の花や葉が長く垂れ下がる」象形と「弓のそりを正す道具」の象形(「弓なりに曲がる」の意味だが、ここでは、「姱(カ)」などに通じ、「美しい」の意味)から、「美しいはな」を意味する漢字が成り立ちました。その後、六朝時代(184~589)に「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「左右の人が点対称になるような形」の象形(「かわる」の意味)から、草の変化を意味し、そこから、「はな」を意味する「花」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji66.html

「華」 漢字.gif

(「華」 https://kakijun.jp/page/1069200.htmlより)

「華」(漢音カ、呉音ケ・ゲ)は、

会意兼形声。于(ウ)は、丨線が=につかえてまるく曲がったさま。それに植物の葉の垂れた形の垂を加えたのが華の原字。「艸+垂(たれる)+音符于」で、くぼんでまるく曲がる意を含む、

とあり(漢字源)、

菊華、

と、

中心のくぼんだ丸い花、

を指し、後に、

広く草木のはな、

の意となった(仝上)とする。ただ、上記の、

会意形声説。「艸」+「垂」+音符「于」。「于」は、ものがつかえて丸くなること。それに花が垂れた様を表す「垂」を加えたものが元の形。丸い花をあらわす、

とする(藤堂明保説)とは別に、

象形説。「はな」を象ったもので、「拝」の旁の形が元の形、音は「花」からの仮借、

とする説もあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8F%AF。さらに、

会意形声。艸と、𠌶(クワ)とから成り、草木の美しい「はな」の意を表す、

ともある(角川新字源)。ただ、西周の金文(きんぶん)をみると、どの説もぴたりとこないのだが。

「華」 金文・殷.png

(「華」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8F%AFより)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:06| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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