これも今はむかし、筑紫にたうさかのさへと申す斎(さい)の神まします(宇治拾遺物語)、
とある、
さへ、
は、
塞(斎)の神、
とある(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)。
道祖神(だうそじん・どうそじん)、
のことである(仝上)。訛って、
道陸神(どうろくじん)、
ともいい、
さいのかみ、
さえのかみ、
と訓ませ、
道の神、
賽の神、
障の神、
幸の神、
とも当て、
久那止(岐神 くなど)の神、
手向(たむけ)の神、
布那止(ふなど)の神、
仁王さん(におうさん)、
塞大神(さえのおおかみ)、
衢神(ちまたのかみ)、
とも呼ばれたりする(大言海・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%93%E7%A5%96%E7%A5%9E)。和名類聚抄(平安中期)に、
道祖、佐倍乃加美、
とある。
(夫婦(めおと)道祖神(長野県上田市) デジタル大辞泉より)
伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が伊弉冉尊(いざなみのみこと)を黄泉(よみ)の国に訪ね、逃げ戻った時、追いかけてきた黄泉醜女(よもつしこめ)をさえぎり、
これよりな過ぎそ、
と言い(日本書紀)、
止めるために投げた杖から成り出た神、
とされ、一書に、その杖を、
岐神(ふなとのかみ)、
別の一書に、
クナトノサヘノカミ、
ともいう(日本伝奇伝説大辞典)
久那止(くなど)の神、
布那止(ふなど)の神、
の名は、ここに由来する。「さえの神」は、したがって、
障(さ)への神の意で、外から侵入してくる邪霊を防ぎ止める神(岩波古語辞典)
路に邪魅を遮る神の意(大言海)、
邪霊の侵入を防ぐ神、行路の安全を守る神(広辞苑)、
さへ(塞)は遮断妨害の意(道の神境の神=折口信夫・神樹篇=柳田國男)、
等々という由来とされ、近世には、
集落から村外へ出ていく人の安全を願う、
悪疫の進入を防ぎ、村人を守る神、
としてだけでなく、
五穀豊穣、
夫婦和合・子孫繁栄、
生殖の神、
縁結び、
等々、
性の神、
としても信仰を集めた。また、ときに、
風邪の神、
足の神、
などとして子供を守る役割をしてきたことから、道祖神のお祭りは、どの地域でも子供が中心となってきた、とされる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%93%E7%A5%96%E7%A5%9E・日本昔話事典・大辞林)。中国では、もともと、
祖餞、崔寔(さいしょく 四民月令の著者)四民月(しみんげつれい 後漢時代の年中行事記)令曰、祖道神也、……故祀以為道祖、
と(「文選」李善註)、
行路神、
として祀られていたらしいが、平安期の御霊信仰の影響で、
境の神、
としての信仰が盛んになった(日本昔話事典)。
(「さえの神」 精選版日本国語大辞典より)
「庚申待」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/488918266.html)で触れたように、庚申講が、
申待(さるまち)、
と書かれたところから、猿の信仰と重なり、
猿を神使いとする日吉(ひえ)山王二十一社、
と結びつき、猿から、神道系では、
猿田彦神、
が連想され、記紀の伝承から、
八衢神(やちまたのかみ)、
とされ、庚申塔を、
道祖神、
と重ねて扱うようになっていった(日本伝奇伝説大辞典・日本昔話事典)。仏教系では、本地は、
地蔵菩薩、
とし、地蔵和讃の、
賽の河原、
とも関連があるとみられる(日本昔話事典)。
(道祖神(長野県軽井沢町にて) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%93%E7%A5%96%E7%A5%9Eより)
「境の神として日本に古くから有名であったのは、道祖すなわちサエノカミであります。あるいは道のはたの道六神(どうろくじん)などといって、東部日本では……その祭に参加する者は少年に限っております。仏法の方ではそれを地蔵菩薩の垂迹と考えており、その地蔵もまたちいさいものの保護者でありました。後世はサエノカハラは地獄に行く路にあるような話が行われましたが、そこでもこの菩薩は境の神であり、また幼き者の救い主として拝まれていました。サエというのも道祖と書くのもともに外部の害敵を遮ぎり防ぐ意味で、すなわちセキの神という誤解のよって来たるところであります。
ただ地蔵は僧でありますゆえに、早くから単独の像にして祭りましたが、道祖神の方は男女の二人の神であり、もとは女を主として男をこれに配していたようであります。現在でもこの男女二体以外に、別に子安と称して女性ばかりを拝む道の神もあります。」
というように(「柳田國男「女性と民間信仰」)、
峠や辻・村境などの道端に祀られる「さえの神」は、様々な役割を持った神であり、決まった形はなく、
神名や神像を刻んだもの、
銘を石に刻んだもの、
単身の神像、
男女二体の神像、
丸石・陰陽石・自然石、
男根形の石、
等々様々な形のものがある(日本昔話事典)。一般には神来臨の場所として、伝説と結びついた樹木や岩石があり、
七夕の短冊竹や虫送りの人形を送り出すところ、
であり、また、
流行病のときには道切りの注連縄(しめなわ)を張ったり、
あるいは、
小正月に左義長などの火祭、
も、ここで行うことがある(仝上・ブリタニカ国際大百科事典)
(道祖神(神奈川県藤沢市) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%93%E7%A5%96%E7%A5%9Eより)
「塞」(漢音サイ、漢音・呉音ソク)は、
会意兼形声。「宀(やね)+工印四つ+両手」の形が原形。両手でかわらや土を持ち、屋根の下の穴をふさぐことを示す会意文字。塞はそれを音符とし、土を加えた字で、隙間のないようにかわらや土をぴったりあわせつけること、
とある(漢字源)「厄塞」(ヤクソク 運勢がふさがって悪い)、「塞于天地之閒」(天地ノ間ニ塞ガル)などと使う。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95