かまどのけむり賑々と立鼻の下建立の場と打見へて(雑俳「雲鼓評万句合(1745)」)、
人道の道徳のと云うが頭巾を取れば皆鼻の下喰う殿(でん)の建立だ(内田魯庵「社会百面相(1902)」)、
などとある、
鼻の下くう殿建立(でんこんりゅう)、
は、
鼻の下の建立、
鼻下建立(はなのしたのこんりゅう)、
ともいい、「鼻の下」は、
口、
の謂いだが、それをメタファに、
食べて行くこと、
生計、
の意でも使う。「くう」は、
食う、
の意で、
宮、
に掛けたもので、
社寺が社殿堂宇の建立修繕の名のもとに寄進を募るのも、実は神官僧侶の生活のためである、
という諷刺である(故事ことわざの辞典・広辞苑)。似た言い方に、
食う膳の勧化(かんげ)、
という言い方もある。「勧化」は、
勧進、
の意で、
鼻の下くう殿建立、
と同義になる。また、
冥土で亡者の罪の軽重を糺す十人の判官、
十王(じゅうおう)、
のうち、
閻魔王、
が有名で、閻魔だけを指すことがあるため、
九王、
に、
食おう、
をかけた、
十王が勧進も食おうがため、
という言い方もある。あるいは、
仏法も念仏も、要は世帯を維持し腹を一杯にするためのものだ、
という意味で、
世帯仏法腹念仏、
という言い方もする(仝上)。
「鼻」は、「はな」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/449051395.html)で触れたように、
端(はな)の義、
端と同源、
で(岩波古語辞典・大言海)、「はな(端)」に、
初、
とも当て、「物事の最も先なるところ。まっさき。はじめ」と意を載せる。「はな(花・華)」も、同源である(日本語源広辞典)。
「はな(鼻・端)」は、
著しく目立つ意の、ハナ
で(大言海)、顔の真ん中で著しく目立つ、ところからとする。ほかに、
フタアナ(二穴)は、フタ[f(ut)a]が熟訳されてハアナ・ハナになった(日本語の語源)、
ハジメノアナ(初穴)の義(和句解・日本釈名)、
ハアナ(方穴)の義(言元梯)、
等々「穴」にこだわる説もあるが。
「鼻」(漢音ヒ、呉音ビ)は、
形声。自ははなの形を描いた象形文字で、
「自」(鼻の象形)+音符「畀(ヒ)」、
で、
狭い鼻腔の特色に名づけたことば、
とある(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%BC%BB・角川新字源)。別に、
会意兼形声文字です。甲骨文では「はな」の形をした象形文字でしたが、後に、「畀(ヒ こしき(米などを蒸す為の土器)の中敷きと台の象形で「蒸気(空気)を通過させる」の意味)」が追加され「鼻」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji9.html)。
(「鼻」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%BC%BBより)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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