2022年07月15日

きっちょむ話


「きっちょむ話」は、

吉四六話、

と当て、

大分県中南部に伝承されている笑い話、とんちばなし、

で、

「きっちょむ」は吉右衛門の転訛(広辞苑・大辞泉)、
「きっちょむ」という名は「きちえもん」が豊後弁によって転訛したもの(デジタル大辞泉)、

とされるように、

地元では、明暦から元禄(1655~1704)の頃酒造業を営み、豊後国野津院(現在の大分県臼杵市野津地区、旧大野郡野津町)の庄屋でもあった初代廣田吉右衛門(ひろた きちえもん)がモデル、

とされるが(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E5%9B%9B%E5%85%AD・日本昔話事典)、正徳五年(1715)の墓と目されるものも同様、確かな資料はない(仝上)。

初代廣田吉衛門(吉四六さんのモデル)のお墓.jpg

(初代廣田吉衛門(吉四六さんのモデルとされる)のお墓(大分県臼杵市) https://www.visit-oita.jp/spots/detail/5583より)

「きっちょむ話」は、

おどけ者、
狡猾者、
和尚と小僧、
大話、
あわて者、
けちん坊、
愚か村、
愚か婿、

等々、

笑い話の各種の型を網羅している、

とされ(日本昔話事典)、

二百数十話、

にも及ぶが、

他地方に伝承されている笑話、
『醒睡笑』、『軽口居合刀』、『露休置土産』等々、近世出版された咄本収録の話、

等々も多く、さらに、

明治以降活字化される過程で脚色や創作が加えられている、

ともある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E5%9B%9B%E5%85%AD・日本昔話事典)。1926年(大正15年)に「きっちょむ会」を発足させた柳田國男は、

「吉右衛門……の逸話と伝えたものの数は、百や百五十では済むまいけれども、その中には明々白々に二種類の話があって、一人の所業としては如何(どう)しても合点が行かない。例を挙げて言うならば……天昇りの話のほかに、キッチョンはつまらぬ掛物の絵を持って来て、騙して高い金で愚か者へ売りつけた。傘を手に持つ画中の人物が、雨の降る日にはその傘を開くと謂うのであった。勿論ウソだから怒って談じ込むと、先生は平気で『あんたは飯をくわせたか、飯を食わせなければ何もせぬのは当たり前だ』と答えたと謂う。この話は西洋に二人椋助譚(ににんむくすけだん)などにもあるところの、黄金を糞する駒の話の同類で、他の地方では『金を食わせたか、食わせずに糞するわけがない』と答えたことになっていてその方が自然に聴こえる。」

と書き(「吉有会記事」)、

狡知譚、

愚者譚、

が一人の所業に集約されているのに首をかしげているが、しかし、これほど広範に「きっちょむ」に集約されるのは他の地方には見られない、ともしている。因みに、「天昇り」という話は、

怠け者の吉四六は田の代掻き(しろかき 田に水を入れた状態で、土の塊を細かく砕く作業)を楽に行う方法は無いかと考え、田の真ん中に高いハシゴを立てる。そして町の衆に「天に昇ってくる」と言い回る。天昇り当日、吉四六がはしごを登りだすと、集まった町の衆は「危ない危ない」と言いながら田んぼの中で右往左往する。吉四六もはしごの上でふらついてみせる。しばらくすると「皆がそんなに危ないというなら天昇りはやめじゃ」とはしごを降りてくる。結局、町の衆が右往左往して田の中を踏み付け回ったおかげで、田は代掻きされた状態になった、

というものhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E5%9B%9B%E5%85%ADである。

しかし、豊前の中津市に入ると、

吉吾話(きちごばなし)、

となり、八代に行くと、

彦市、

となり、岩手の紫波郡にも、

モンジャの吉、

と呼ばれる、

うそつきの民間英雄、

が居て(紫波郡昔話)、柳田國男は、

隠れた地下水脈、

がある(仝上)と指摘している。事実、笑話の主人公に、

吉、

という名のついた地域は、豊前中津の他に、

熊本、
東北、
四国、

と広がり、

咄の者の通り名、

になっているようである(日本昔話事典)。

実在の吉右衛門の「吉」から「きっちょむ」話が吉右衛門に収斂されたように、

「吉」の通り名に擬せらるべき実在人物がいた、

ことが、伝承をまつます強化したのではないか、と推測されている(仝上)。

臼杵の「吉四六」と比べ、中津の「吉吾」は、近世の宇佐道中唄に、

中津吉吾に欺されて、小祝地蔵に目を抜かれ、

という一節があり、

吉四六が豊後人にとっておどけ者の印象が強いのに対し、吉吾はややずるい人間というイメージがある、

といったように(仝上)、地域ごとに多少の差はあるようだが。

参考文献;
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
柳田國男『不幸なる芸術・笑の本願』(岩波文庫)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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