2022年07月16日

ほほえむ


「ほほえむ」は、

微笑む、
頬笑む、

と当てる(広辞苑)が、正確には、「頬」と「頰」とがあり、

微笑む、
頰笑む、
頬笑む、

となるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%BB%E3%81%BB%E3%81%88%E3%82%80。さらに、

忍笑、

とも当てる(大言海)。

御手は、いとをかしうのみなりまさるものかなと独りごちて、うつくしと、ほほゑみ給ふ(源氏物語)、

と、

声を出さずに笑う、
にっこりとする、

意だが、古くは、

苦笑・冷笑などにもいう、

とあり(大辞林)、

もの恐ろしくこそあれと、いと若びて言へば、げにとほほゑまれ給ひて(仝上)、

と、

微苦笑する、

意でも使い(岩波古語辞典)、

メタファとして、

ほかには盛りすぎたる桜も、今さかりにほほゑみ(仝上)、

と、

蕾つぼみがわずかに開く、

にも言う(岩波古語辞典)。

「ほほえむ」の語源は、

含(ほほ)み笑む意、

あるいは、

頬笑む、頬に其気色の顕はるるの意、

とある(大言海)が、

頬にそのヱマヒがまず現れるから(柳田國男「笑の本願」)、

と、

頬笑む、

の意と考えられる(日本語源大辞典)。因みに、「ゑまひ」は、

ゑまふの名詞形、

で、「ゑまふ」は、

笑まふ、

と当て、

笑むに反復・継続の接尾語フ(四段活用の動詞をつくり反復・継続の意を表わす)のついたもの(岩波古語辞典・明解古語辞典・広辞苑)、
動詞「ゑむ」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」(日本国語大辞典・学研全訳古語辞典・デジタル大辞泉・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%82%91%E3%81%BE%E3%81%B5)、
ゑむの延(大言海)

等々諸説あるが、

さ馴らへる鷹は無けむと心には思ひ誇りて恵麻比(ヱマヒ)つつ渡る間に(万葉集)、

と、

ほほえむ、

意であり、また、

梅柳常より殊に敷栄え咲万比(ヱマヒ)開て鶯も聲改めて(続日本後紀)、

と、

花が開く、

意でも使う(岩波古語辞典)。

中世の辞書類では、文明本節用集では、

頬(ホウ)―忍笑(ホホ・シノビワラヒ)

永禄五年本節用集では、

頬(ホフ)―忍咲(ホホエン)、

易林本節用集では、

頬(ホフ)―微笑(ホホヱム)、

と、

ほお(頬)、

ほほゑむ、

の語形が異なる(日本語源大辞典)のは、

複合語中に古形が保存されがちであり、単独語が形を変えやすいため、

としている(仝上)。

「ほほえむ」と関係があると思われるのは、

えくぼ(靨)、

で、

ヱ(笑)クボ(窪)の意(岩波古語辞典)、
笑窪の義(大言海・和訓考・箋注和名抄)、
ヱクボ(咲凹)から(言元梯)、

と、「ゑむ」と関わらせる。和名類聚抄(平安中期)には、

靨、惠久保、面小下也、

とある。

うぶ飯(めし)、
または、
産の飯、

という、生まれた赤児の前に据える、

高盛りの飯、

の風習があるが、男子だと、

盛り飯の上になるたけ重い石か金属の類を載せる、こうすると首の骨が強くなると言い伝える、

女子だと、

高く盛った飯の両側に、指または箸の先で附いて辰の穴をあける、その児の頬にエクボができて、愛嬌がよくなる、

という(柳田國男「女の咲顔」)。これも、女子の「ゑみ」と関わるらしい。

「わらふ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/449655852.html?1494102077が、

ワラ(割・破る)+ふ(継続)(日本語源広辞典)、
顔がワラ(散)クル意(大言海)、
相好が崩れ、破顔する義で、ワルル(破)からか(国語の語幹とその分類)、
口を大きく開く意の、ワル(割)から岐(わか)れた(名言通・女の咲顔=柳田國男)、

などと、

割れ、破れ、散る、

という眼前の表情変化から来た言葉であったhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/449655852.html?1494102077ように、「えむ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/449771882.htmlも、

心に愛ずることありて、顔にあらはれて、にこやかなる。笑ひを含む、

と(大言海)表情の変化を意味するが、声のある、

わらふ、

に対し、

ゑむ、

は、聲がない(柳田・前掲書)など、両者は区別されていた、と見られる。「ほほゑむ」は、その「ゑむ」が、頬に現われている、と見ているようである。あるいは、

靨、

に「ゑむ」の象徴を見ていたのかもしれない。

なお、にっこりと、

といった、

笑みを含んださま、

に言う、

ゑみゑみ、

と訓む(岩波古語辞典・広辞苑・大言海)、

笑笑、

については触れたことがあるhttp://ppnetwork.seesaa.net/article/481859499.html

「微」  漢字.gif

(「微」 https://kakijun.jp/page/1331200.htmlより)

「微」(漢音ビ、呉音ミ)は、

会意兼形声。𣁋(音符ビ)は「-線の上下に細い糸端の垂れたさま+攴(動詞のしるし)」の会意文字で、糸端のように目立たないようにすること。微はそれを音符とし、彳(行く)を添えた字で、目立たないようにしのび歩きすること、

とあり(漢字源・角川新字源)、「衰微」「微細」といったように「かすか」、「小さくて目立たない」意である。別に、

会意兼形声文字です。「十字路の左半分」の象形(「道を行く」の意味)と「植物が芽を出し発芽した象形と植物の根の象形」(「もののはじめ・先端」の意味)と「ボクッという音を表す擬声語と右手の象形」(「手でうつ」の意味)から、「人目につかずに行く」、「かすか」、「わずか」を意味する「微」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1249.html

「㗛」  漢字.gif

(「㗛」(「笑」の正字) https://kanji.jitenon.jp/kanjir/8788.htmlより)

「笑」(ショウ)は、「わらう」http://ppnetwork.seesaa.net/article/449655852.html?1494102077で触れたように、

会意文字。夭(ヨウ)は、細くしなやかな人。笑は「竹+夭(ほそい)」で、もと細い竹のこと。正字は「口+音符笑」の会意兼形声文字で、口を細くすぼめて、ほほとわらうこと。それを誤って咲(わらう→さく)と書き、また略して笑を用いる、

とある(漢字源)。「咲」(ショウ)は、

会意兼形声。夭(ヨウ)は、なよなよと細い姿の人を描いた象形文字。笑(ショウ)は、細い竹。細い意を含む。咲はもと、「口+音符笑」で、口をすぼめてほほとわらうこと。咲は、それが変形した俗字。日本では、「鳥なき花笑う」という慣用句から、花がさく意に転用された。「わらう」意には笑の字を用い、この字(咲)を用いない、

とある(仝上)。

「頰」(旧字) 漢字.gif



「頬」  漢字.gif


「頬」(キョウ)は、

会意兼形声。「頁(あたま)+音符夾(キョウ はさむ)」。顔を両側からはさむほお、

で(漢字源・https://okjiten.jp/kanji2198.html)、

頰、

が正字、「頬」は俗字https://kakijun.jp/page/hoo16200.html

「靨」 漢字.gif


「靨」(ヨウ)は、

面+音符厭(エン・ヨウ 抑えつける、くぼむ)、

で、

咲媚看婦靨(咲媚婦ノ靨ヲ看ル)(梅尭臣)、

と、

えくぼ、

の意である(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
柳田國男「不幸なる芸術・笑いの本願け」(岩波文庫)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:22| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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