2022年07月19日
語源のもつ意味
柳田國男『不幸なる芸術・笑の本願』を読む。
本書には、
笑の本願、
不幸なる芸術、
の二著が収められており、「笑の本願」は、
笑の文学の起源、
笑の本願、
戯作者の伝統、
吉右会記事、
笑の教育、
女の咲顔、
が、「不幸なる芸術」には、
不幸なる芸術、
ウソと子供、
ウソと文学の関係、
たくらた考、
馬鹿考異説、
烏滸の文学、
涕泣史談、
が、収められている。いつも通りの柳田節なのだが、中でも、
へったくれ、
の語源と絡めて、
「神社に従属した小区域の地名に手倉田(たくらだ)というものが諸国に存する。羽後の雄物(おもの)川の岸には『言語道断』と文字に書いて、タクラダという村さえあった。タクラダ・タクラは多く地方の方言で愚か者を意味し、ノンダクレとかヘッタクレとかいう普通語もそれから出ている。或いはまた馬鹿をオタカラモノと呼ぶ土地もある。手倉田・田倉田は即ち彼らに田を給し、神役を勤めさせた名残かと思われる。三河の山村の花祭の囃しの詞に、笛に合わせて一同がターフレタフレと囃すのも、やはり一つの語の変化であって、いわゆるクナタフレが神に仕え、その愚かさを役に立てたこと、今の馬鹿囃しの火男(ひょっとこ)などと、本の趣旨を同じくする者かと思う。」
と、神の前で「笑わせる」職分役という民間習俗に至る「笑の起源」に迫った、
笑の文学の起源、
その「たくらた」を、
「タクラという語は少なくとも方言ではなかった。今も複合語としては標準語の中にも通用している。たとえば泥酔者をノンダクレ、是をもう少し悪い発音にかえて、ドンダクレという語は田舎にあり、関西の方では是をヱヒタクレという者が多く、ヨッタクレという語もまだ東京には少し残っている。それからまたヒョウタクレという語があり、東日本の方言集には多く採録されていて、愚人を意味する。」
とし、その語源を、
「タクラフという動詞が、都にもあったということである。……或いはタクラブ(較)という語と源が一つのもので、二人相対しての動作に限っていたのではないかとも思う。」
と探って、
神前での道化役、
へと遡及させていく、
たくらた考、
の二編が、とりわけ面白い。「へったくれ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/489851160.html?1658081573)で触れたことだが、
へったくれ
愚か者、
の意味が通底していることの意味の奥行きを考えさせられる。この二編と関わるが、
烏滸、
と
馬鹿、
との関係を、
日本語のワ行がバ行に、WがBに移ってくるのは通例、
で、
母音のオ列からア行に移ること、
から、新村説である、
ワカ(若)→バカ(馬鹿)、
つまり、
Waka→Baka、
という転訛を取り上げながら、暗に、ぼくには、
オコ(烏滸)→バカ(馬鹿)、
つまり、
Woko→Baka、
の転訛に読みこめて、「愚か者」のもつ意味が、
烏滸→馬鹿、
と転じることから、
笑が凋落したこと、
の象徴とする、
烏滸の文学、
も、深読みすると、パースペクティブの深い読み物であった。また、
うそ、
と
いつわり、
の違いを探り、
「何処の田舎に行って見ても、今はまだウソとイツハリと、もしくはデタラメとゴマカシと、即ち笑うべき虚言(ソラゴト)と憎むべき虚言(キョゴン)との、二つ別々の名詞の併存を必要としている。」
とする、
ウソと子供、
ウソと文学の関係、
また、生まれた赤児の前に据える、
高盛りの飯、
の風習があるが、女子だと、
高く盛った飯の両側に、指または箸の先で附いて辰の穴をあける、その児の頬にエクボができて、愛嬌がよくなる、
という風習のもつ「えくぼ」の意味から、「えむ」と「わらふ」との違を探った、
女の咲顔(えがお)、
も興味深い。なお、
吉右会記事、
については、「きっちよむ話」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/489762390.html?1657822771)で触れた。
なお、柳田國男の『遠野物語・山の人生』(http://ppnetwork.seesaa.net/article/488108139.html)、『妖怪談義』(http://ppnetwork.seesaa.net/article/488382412.html)、柳田國男『海上の道』(http://ppnetwork.seesaa.net/article/488194207.html)、『一目小僧その他』(http://ppnetwork.seesaa.net/article/488774326.html)、『桃太郎の誕生』(http://ppnetwork.seesaa.net/article/489581643.html)については別に触れた。
参考文献;
柳田國男『不幸なる芸術・笑の本願』(岩波文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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