2022年07月20日
佯狂して奴となる
「佯狂(ようきょう)して奴(ど)と為(な)る」は、
狂人を装って下僕となった、
という意味である。
「佯狂」は、
箕子(きし)被髪佯狂而為奴(史記・宋世家)、
と、
イツワリキョウス、
と読ませ、
狂人のふりをする、
意であり(「被髪」は束ねずに乱れた髪の毛の意)、
陽狂不識駿(後漢書・丁鴻傳)、
と、
陽狂、
あるいは、
紂怒、……剖比于觀其心、箕子懼、乃詳狂為奴(史記・殷紀)、
と、
詳狂、
などとも当て(大言海・デジタル大辞泉・字源)、箕子(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%95%E5%AD%90)の、
殷の紂王の臣下である箕子は、暴政を行う紂王を諫めたが聞き入れられなかった。君主のもとを去れば、君主の悪が公になってしまい、また、自分自身を弁解することにもなってしまうと考えた箕子は、髪を乱し、狂ったふりをして奴隷となった、
という故事に基づき(https://yoji.jitenon.jp/yojif/2860.html)、
被髪佯狂(ひはつようきょう)、
と、四字熟語にもなっているし、
狂人のふりをして俗世を避ける、
狂人を装って隠遁する、
意の、
佯狂避世、
という成語もあり(白水社中国語辞典)、今日、
阳(陽)狂、
と表記する(仝上)。
佯狂、
陽狂、
詳狂、
と当てる「佯」「陽」「詳」は、「偽」と同義だが、各字義の差は、
偽は、人為にて、天真にあらざるなり、いつわりこしらへたるなり、虚偽、詐偽と用ふ。「太子有淳古之風、而末世多偽、恐不了家事」(晉紀)、
詐は、詐欺と連用す、欺きだますこと、誠実の反なり。「巧詐不如拙誠」(説苑・貴徳)、
譎は、權詐なり、正しからず、詐謀を設けていつはるなり、すべて言行器服などのあやしく異様なるをいふ。
詭は、譎に同じくして、あやしくて正からざる義、詭巧、詭変と用ふ。「兵者詭道也」(孫子)、
佯・陽は、同音同義。内心は然らずして、うはべをいつはるなり。「箕子佯狂為奴」(史記)、
詳は、佯に同じ。後世は用いず、史記に佯狂を一本詳狂に作る、
矯は、よい加減に誣(し)いて(=強いて)いつはる、矯詔と用ふ。「矯誣上天」(書経)、
贋は、にせものなり、真の反。「魯以贋鼎往」(韓非子)、
などとある(字源)。
箕子の逸話は、「十八史略」に、
紂、有蘇氏を伐つ。有蘇、妲己(だっき)を以って女(めあ)はす。寵あり。其の言、皆從ふ。賦税を厚くし、以って鹿臺之財を實(み)て、鉅橋(倉庫)の粟を盈つ。沙丘の苑臺を廣め、酒を以って池と為す、肉を懸けて林と為し、長夜の飮を為す。百姓、怨望し、諸侯畔く者り。紂、乃ち刑辟を重くす。銅柱を為(つく)り、膏を以って之を塗り、炭火の上に加へ、罪有る者をして之に縁らしむ。足、滑かにして跌き火の中に墜つ。妲己と之を觀で大いに樂しむ。名づけて曰く炮烙の刑と。淫虐なること甚し。庶兄微子數しば諌むれども從はず。之を去る。比干、諌めて三日去らず。紂、怒りて曰く、吾聞く、聖人の心に、七竅(しちきょう 人の顔にある七つの穴)有りと。剖(さ)きて其の心を觀んと。箕子、佯狂して奴と為る。紂之を囚ふ。殷の大師其の樂器祭器を持ちて周に奔る云々、
とある(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1359744118)。これを見ると、上記の、
剖比于觀其心、
の意味が分かる。
微子、
比干、
箕子、
は、
殷の三仁、
と言われていた。
「佯」(ヨウ)は、
形声。佯は「人+音符羊」で、外面の姿の意を含む。羊は音だけを示し、ここでは意味に関係がない、
とある(漢字源)。
「陽」(ヨウ)は、
会意兼形声。昜(ヨウ)は、太陽が輝いて高く上がるさまを示す会意文字。陽は「阝(阜=丘)+音符」で、明るい、はっきりしたの意を含む、
とある(漢字源)。別に、
台上に玉を置き、その光がさす様、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%99%BD)、
会意兼形声文字です(阝+昜)。「段のついた土山」の象形と「太陽が地上にあがる」象形から、丘の日のあたる側、「ひなた」を意味する「陽」という漢字が成り立ちました、
ともある(角川新字源・https://okjiten.jp/kanji547.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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