2022年07月28日

説話の原点


景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』を読む。

日本霊異記 (東洋文庫 ).jpg


本書『日本霊異記(にほんりょういき・にほんれいいき)』は、正確には、

日本国現報善悪霊異記(にほんこくげんほうぜんあくりょういき)、

で、平安時代初期編纂の、最古の説話集である。

上巻35話、
中巻42話、
下巻39話、

で、

計116話、撰者は、薬師寺の僧、

景戒(きょうかい)、

であり、各巻に序文を記し、唐に、

冥報記(めいほうき)や般若験記(金剛般若集験(こんごうはんにゃしゅうげん)記)、

といった霊験記があり、他国の話ばかりではなく、自国の「不思議な出来事を信じないことがあろうか」と、本書をまとめたと記している。

全文は漢文体で、ほぼ時代順に記述されている。上巻は、

雄略天皇の時代(五世紀後半)から聖武天皇の神龜四年(727)まで、

中巻は、

聖武天皇の天平元年(729)から淳仁天皇の天平宝字七年(763)まで、

下巻は、

称徳天皇の時代(764~770)から嵯峨天皇の時代(809~822)まで、

と、所収の話の背景は、

奈良時代及びそれ以前、

と、

現存する日本最初の説話集であるとともに、奈良時代の説話を集大成したもの、

となり(本書解説)、後の、

法華験記(ほっけげんき)、
三宝絵詞(さんぼうえことば)、
今昔(こんじゃく)物語集、

等々に多大な影響を与えた、とされる(仝上)。

現報善悪霊異記、

とある如く、

善悪の応報を説く因果譚、

が過半を占め、

三毒(さんどく 貪・瞋・癡(とん・じん・ち)の煩悩)、

やら、

四重五逆(殺生・偸盗・邪淫・妄語の四重、殺父・殺母・殺阿羅漢(悟りを開いた聖者)、破和合僧(教団破壊)、出仏身血(仏身を傷つけること)の五逆)、

やら、

五戒(不殺生戒、不偸盗戒、不邪婬戒、不妄語戒、不飲酒戒)を破る、

やら、

十悪(殺生・偸盗・邪淫・妄語・綺語(きご 真実に反して言葉を飾りたてる)・悪口(あっく)・両舌(りょうぜつ 二枚舌を使う)・貪欲・瞋恚・邪見)、

やら、仏教での戒めやら、罪の応報を、これでもかこれでもか、と読まされると、ふと我が身を振り返って見ざるを得なくなる。仏教説話集の効能の一端を、我が身で味わう羽目になった。

しかし、後の説話がそうであるように、また昔話や伝説、神話に生きているように、

狐や牛、亀、鳥などの動物、あるいは雷、鬼を人間と同じように扱い、
動物や雷、鬼が人間と同じように話し、考え、行動している、

という特色が見え、たとえば、「野干」http://ppnetwork.seesaa.net/article/485021299.htmlでも触れた、

女、……成野干……随夫語而來寐、故名為也(上巻第二話)、

とあるように、女となって男と結婚し、子供を産んだが、小犬に吠えられて、狐の正体がばれたときに夫から、

「おまえとわたしの間には子供が生まれたのだからわたしは忘れない。いつでもきてそこにとまりなさい」

と言われ、そのとおりまたきてとまった。そこで、

岐都禰(来つ寝)、

と名づけたとあり、その子にも、

岐都禰(きつね)、

と名づけ、姓を、

狐直(きつねのあたえ)、

とつけた、と「キツネ」の由来を伝えているなど、なかなか興味深い説話も多い。

参考文献;
景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』(東洋文庫)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:31| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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