心みにこの花を一房とりて食たりければ、天の甘露もかくやあらんとおぼえて(宇治拾遺物語)、
にある、
天の甘露、
とは、
中国で仁政の感応である祥瑞として、天から降る甘い露、
の意とある(中島悦次校注『宇治拾遺物語』)。もともとは、
天地相ひ合し、以て甘露をす(老子)、
と、
中華世界古代の伝承で、天地陰陽の気が調和すると天から降る甘い液体、
を指し、後世、
則ち風に随ひて松林と葦原とに飄(ひひ)る。時の人、曰はく、甘露(カムロ)なりといふ(日本書紀)、
と、
王者が高徳であると、これに応じて天から降るともされ、また神話上の異界民たる沃民はこれを飲んでいる、
とされている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%98%E9%9C%B2)。ちなみに、「沃民(ようみん、よくみん)」は、
中国に伝わる伝説上の人種、
で、『山海経(せんがいきょう)』によると、
沃民国は白民国の南、女子国の北にあり、沃民人は人間の姿をしているが鳳凰(ほうおう)の卵や甘露をつねに飲食しており、欲しいと思う食物は住んでいる土地で思うままに入手することが出来た、
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%83%E6%B0%91)、とある。
さらに、後に、インドから仏教が伝来すると、
インド神話の伝承で不死の霊薬とされたアムリタ(梵語amṛta)を、阿蜜㗚多と音訳、不死、神酒などとも訳すが、漢訳仏典では中国の伝承の甘露と同一視し、甘露、あるいは醍醐と訳した、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%98%E9%9C%B2・精選版日本国語大辞典)。「amṛta」は、
不死・天酒、
の意で、
ソーマの汁、
を指し、
天上の神々の飲む、忉利天(とうりてん 須弥山の頂上)にある甘い霊液。不死を得る、
といい、これを飲むと、
苦悩を去り、長寿になり、死者をもよみがえらせる、
といい(精選版日本国語大辞典)、転じて、
我、甘露(かんろ)の法門を開て彼(かの)阿羅邏仙(あららせん)を先づ度せむ(今昔物語集)、
と、
仏の教え、
仏の悟り、
にたとえ(広辞苑)、
涅槃(ねはん)、
をもいう(日本大百科全書)、とある。ソーマ(soma)は、
ヴェーダなどのインド神話に登場する神々の飲料、ゾロアスター教の神酒ハオマと同起源、
とあり、
飲み物のソーマは、ヴェーダの祭祀で用いられる一種の興奮飲料であり、原料の植物を指すこともある。ゾロアスター教でも同じ飲料(ハオマ)を用いることから、起源は古い、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%9E・広辞苑)。
こうした「甘露」の意味から、転じて、
於甘露(カンロ)之乳水醍醐之上味、難及料棟(れうけん)候(新撰類聚往来)、
などと美味の意で用いる(広辞苑)。いまでも、
ああ甘露、甘露、
などと使う。この意味の転用で、
喫梵天(梵天瓜)甘露(蔭凉軒日録・文明一九年(1487)六月二八日)、
と、
瓜の異称、
や、
甘露酒、
甘露水、
甘露煮、
等々にも使い、また、
夏、カエデ・エノキ・カシなどの樹葉から甘味のある液汁が垂れて樹下を潤すもの。その木につくアブラムシが植物内の養分を吸収して排泄する、ブドウ糖に富む汁、
の意でもあり、その排出する甘露をアリ類が好み、アブラムシを保護するところから、「アリの牧場」とみて、
アリマキ、
と称す(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。なお、
甘露が降ろかとて口開いてもいられず、
と、
幸運を待って何もしないわけにはいかない、
意のことわざもある(故事ことわざの辞典)。
(「甘」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%98より)
(「甘」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%98より)
「甘」(カン)は、
会意文字。「口+・印」で、口の中に・印で示した食物を含んで味わうことを示す。長く口中で含味する、うまい(あまい)物の意となった、
とある(漢字源)が、
口に物を入れ長く味わう、
という説(藤堂明保)以外に、
首枷(鉗)などの象形文字で、「あまい」の意は、同音の植物名「苷」より、
とする説もある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%94%98)。別に、
指事文字です。「口中に横線を引いた文字」から、食物を口にはさむさまを表し、そこから、「あまい」、「うまい」を意味する「甘」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1100.html)。
(「露」 説文解字・漢(小篆) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9C%B2より)
「露」(漢音ロ、呉音ル、慣用ロウ)は、
形声。「雨+音符路(ロ)」で、透明の意を含む。転じて、透明にすけて見えること、
とある(漢字源)。別に、
形声文字です(雨+路)。「雲から水滴が滴(したた)り落ちる」象形と「胴体の象形と立ち止まる足の象形と上から下へ向かう足の象形と口の象形」(人が歩き至る時の「みち」の意味だが、ここでは、「落」に通じ、「おちる」の意味から、落ちてきた雨を意味し、そこから、「つゆ(晴れた朝に草の上などに見られる水滴)」を意味する「露」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji340.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95