某(なにがし)の沙門、ただかりそめに座を立ちて帰らず。円居の僧不審して、寺へ戻りしかと人やりて見するに居ず(宿直草)、
にある、
円居、
は、
まどい、
と訓ませるが、
同席の、
の意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
団居、
とも当て(広辞苑)、
連聲(レンジヤウ)に。まどゐ、
とあり(大言海)、
近世初期ごろまで「まとい」、
と清音であった(日本国語大辞典)。
円(マト)居(ヰ)の意、
とある(大辞林・岩波古語辞典)が、
纏居(まとゐる)にて、纏わり居(を)る意、
ともある(大言海)。
思ふどちまどゐせる夜は唐錦たたまく惜しき物にぞありける(古今集)、
と、
輪になって座ること、
くるまざ、
団欒、
の意であり、また、
この院にかかるまどゐあるべしと聞き伝へて(源氏物語)、
と、
(楽しみの)会合、
ひと所に集まり会すること、特に、親しい者同士の楽しい集まり、
の意でも使う(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。これを動詞化して、
まどゐる、
は、
円居る、
団居る、
と当て、
氏人のまどゐる今日は春日野の松にも藤の花ぞ咲くらし(宇津保物語)、
春ながら年はくれつつよろづ世を君とまどゐば物も思はじ(仝上)、
などと、
集まり居る、
車座になる、
団欒する、
親密な者同士が集まり居る、
などの意で使う(精選版日本国語大辞典・大言海・日本国語大辞典)。これも、
まとゐる、
と清音で、
連聲(レンジヤウ)に、まどゐる、
とある(大言海)。
円居、
団居、
は和製漢語で、漢語で、
まどゐ、
の意は、
大盆盛酒、圓坐相酌(晉書・阮籍(げんせき)傳)、
と、
圓坐(エンザ)、
と表記し、
車座に坐す、
意である(字源)。
「圓」(エン)の字は、「まる(円・丸)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461823271.html)で触れたように、
会意兼形声。員(イン・ウン)は、「○印+鼎(かなえ)」の会意文字で、まるい形の容器を示す。圓は「囗(囲い)+音符員」で、まるいかこい、
とあり(漢字源)、「まる」の意であり、そこから欠けたところがない全き様の意で使う。我が国では、金銭の単位の他、「一円」と、その地域一帯の意で使う。別に、
会意兼形声文字です(囗+員)。「丸い口の象形と古代中国製の器(鼎-かなえ)の象形」(「口の丸い鼎」の意味)と「周
意味)から、「まるい」を意味する「円」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji194.html)。
「円」は、「圓」の略体。明治初期は、中の「員」を「|」で表したものを手書きしていた。時代が下るにつれ、下の横棒が上に上がっていき、新字体採用時の終戦直後頃には字体の中ほどまで上がっていた、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%86%86)。
(「居」 金文・春秋時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B1%85より)
「居」(漢音キョ、呉音コ)は、
会意兼形声。「尸(しり)+音符古(=固。固定させる、すえる)」で、台上にしりを乗せて、腰を落ち着けること。踞(キョ しりをおろして構える)の原字、
とある(漢字源)。
「團(団)」(漢音タン、呉音ダン、唐音トン)は、
会意兼形声。專(セン=専)の原字は、円形の石をひもでつるした紡錘の重りを描いた象形文字で、甎(セン)や磚
(セン 円形の石や瓦)の原字。團は「囗(かこむ)+音符專」で、円形に囲んだ物の意を示す、
とある(漢字源)が、丸めたもの、ひいて「かたまり」の意を表す(角川新字源)ともある。別に、
会意兼形声文字です(囗+寸(專))。「周辺を取り巻く線」(「めぐる」の意味)と「糸巻きと右手の象形」(「糸を糸巻きに巻きつける」の意味)から、まるくなるようにころがす、すなわち、「まるい」、「集まり」を意味する「団」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji866.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95