弓取り直し素引き(弦だけを引き試みること)さして、豬(い)の目透かせる雁股(かりまた)の矢を取り(宿直草)、
とある、
豬の目透かせる雁股の矢、
は、
心臓形の猪の目の透かし彫りを施し、鏃の先を二股に作って内側に刃を付けたものを取り付けた矢、狩猟用、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
(雁股 精選版日本国語大辞典より)
「鏑矢」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450205572.html)で触れたように、「雁股」は、
狩股、
とも当て、
箭を放つ、鹿の右の腹より彼方に鷹胯(かりまた)を射通しつ(今昔物語)、
と、
鷹胯(かりまた)、
と当てたりする(精選版日本国語大辞典)。
先が叉(また)の形に開き、その内側に刃のある鏃。飛ぶ鳥や走っている獣の足を射切るのに用いる、
とある(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。「雁股の矢」は、「雁股」の鏃をつけた矢のことだが、
かぶら矢のなりかぶらにつけるが、ふつうの矢につけるものもある、
とあり(精選版日本国語大辞典)、
羽は旋回して飛ばないように四立てとする、
とある(仝上)。「四立(よつだて)」とは、
四立羽(よたてば)、
ともいい、矢羽の数による矧(は)ぎ方の一種で、
幅の広い鷲などの大羽を茎から割いて左右に、幅の狭い山鳥などの小羽を前後に添えて、回転せずに飛ぶようにした矢羽(やばね)の矧ぎ方、
をいい、雁股(かりまた)や扁平な平根(ひらね)の鏃(やじり)に用いる(精選版日本国語大辞典)。「平根」とは、
身幅が広く扁平で、重ねも薄い形状の鏃、
を指す(https://www.touken-world.jp/search-bow/art0012450/)。平根の鏃は、
射切ることを目的とし、主に狩猟などに用いられた、
が鏃としては大型で先端が鋭くないため、遠くまで飛んで刺さるという矢の役割には不適だったとされる(仝上)、とある。なお、「矧ぐ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/489305692.html)については触れた。
(鏑矢の雁股 精選版日本国語大辞典より)
雁股箆(かりまたがら)、
雁股矢、
ともいい(仝上)、
燕尾箭(えんびや)、
ともいう(大言海)。
字鏡(平安後期頃)には、
鴈胯(かりまた)、
とある。
(「鏃の種類」 デジタル大辞泉より)
雁股の中でも、U字のように股が広いものは、
平雁股、
と呼ばれ、股が狭く浅いものは、
鯖尾(さばお)、
と呼ばれる(https://www.touken-world.jp/search-bow/art0012451/)とある。
「雁股」の由来は、
かりまた如何。鴈俣也。かりのとびたる称にて、さきのひろごれる故になづくる歟(名語記)
蛙股(カヘルマタ)の略転と云ふ(あへしらふ、あしらふ。あるく、ありく)、形、開きたる蛙の股の如し(大言海・貞丈雑記)、
雁の足の指に似ているところから(本朝軍器考)、
等々とされるが、はっきりしない。形からいえば、「蛙股」だが、「雁行」も、狩猟用を考えると、捨てがたい。
なお、「弓矢」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450350603.html)、「はず」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450205572.html)については触れた。
「鴈(鳫)」(漢音ガン、呉音ゲン)は、
会意兼形声。厂(ガン)は、厂型に形の整ったさまを描いた字。鴈は「鳥+人+音符厂」。厂型に整った列を組んで渡っていく鳥。礼儀正しいことから人が例物として用いたので、「人」を添えた。「雁」と同じ、
とあり(漢字源)、「雁」(漢音ガン、呉音ゲン)は、
会意兼形声。厂(ガン)は、かぎ形、直角になったことをあらわす。雁は「隹(とり)+人+音符厂」。きちんと直角に並んで飛ぶ鳥で、規則正しいことから、人に会う時に礼物に用いられる鳥の意を表す、
とある(仝上・角川新字源)。別に、
会意兼形声文字です(厂+人+隹)。「並び飛ぶ」象形と「横から見た人」の象形と「尾の短いずんぐりした(太っていて背が低い)小鳥」の象形から「かりが並び飛ぶ」事を意味し、そこから、「かり」を意味する「雁」という漢字が成り立ちました。(「横から見た人」の象形は、人が高級食材として贈る事から付けられました。現在、日本ではたくさん捕り過ぎて数が減った為、狩猟は禁止されています。)、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2779.html)。
(「股」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%82%A1より)
「股」(漢音コ、呉音ク)は、
形声。肉と、音符殳(シユ)→(コ)とから成る(角川新字源)、
字で、
もも、
の意で、
またぐとき∧型に開く、膝から上の内またの部分、
を指す(漢字源)。別に、
形声文字です(月(肉)+殳)。「切った肉」の象形と「手に木のつえを持つ」象形(「矛」の意味だが、ここでは、「胯(コ)」に通じ(「胯」と同じ意味を持つようになって)、「また」の意味)から、「また」を意味する「股」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2090.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95