天漢(天の川)恣(ほしいまま)に横たはりて、昴星(ぼうせい)うつべき露なし(宿直草)、
にある、
昴星、
は、和名、
すばる星、
である(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「すばる」は、
二十八宿の西方第四宿で昴(ぼう)、
をいい、
おうし座にある散開星団プレアデスの和名、
で、
距離四〇八光年。肉眼で見えるのは六個で、六連星(むつらぼし)、
ともいい、古くから、
王者の象徴、農耕の星、
として尊重された。
九曜の星、
すばるぼし、
すまる、
すまるぼし、
大梁、
等々とも呼ぶ(精選版日本国語大辞典)。「大梁」(たいりょう)は、
古代中国で、天の赤道を十二次に区分した一つ。ほぼ黄道十二宮の金牛宮にあたる。二十八宿の胃・昴・畢にあたる。中心はすばる星、
とあり(精選版日本国語大辞典)、
昴星(すばるぼし)のこと、
とされる(日本国語大辞典)。
「昴(ぼう)」は、
嘒彼小星、惟參與昴(召南)、
と、
二十八宿の一つ、西方第四宿、
の、
昴宿(ぼうしゅく)、
を指す。「二十八宿(にじゅうはっしゅく)」は、周代初期(前1100頃)中国で、
月・太陽・春分点・冬至点などの位置を示すために黄道付近の星座を二八個定め、これを宿と呼んだもの、
で(精選版日本国語大辞典)、
二八という数は月の恒星月二七・三日から考えられた、
といわれ、中国では、
蒼龍=東、
玄武=北、
白虎=西、
朱雀=南、
の四宮に分け、それをさらに七分した(仝上)。
二十八舎(にじゅうはっしゃ)、
ともいう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E5%8D%81%E5%85%AB%E5%AE%BF)。
角宿(東方青龍七宿の第一宿。距星はおとめ座α星(スピカ))を起宿として天球を西から東に不均等分割したもので、均等区分の十二次と共に天体の位置を表示する経度方向の座標として用いられた、
とある(仝上)。二十八宿は、
角(かく すぼし)、
亢(こう あみぼし)、
氐(てい ともぼし)、
房(ぼう そいぼし)、
心(しん なかごぼし)、
尾(び あしたれぼし)、
箕(き みぼし)、
斗(と ひきつぼし)、
牛(ぎゅう いなみぼし)、
女(じょ うるきぼし)、
虚(きょ とみてぼし)、
危(き うみやめぼし)、
室(しつ はついぼし)、
壁(へき なまめぼし)、
奎(けい とかきぼし)、
婁(ろう たたらぼし)、
胃(い えきえぼし)、
昴(ぼう すばるぼし)、
畢(ひつ あめふりぼし)、
觜(し とろきぼし)、
参(しん からすきぼし)、
井(せい ちちりぼし)、
鬼(き たまおのほし)、
柳(りゅう ぬりこぼし)、
星(せい ほとおりぼし)、
張(ちょう ちりこぼし)、
翼(よく たすきぼし)、
軫(しん みつかけぼし)、
となる(仝上)。
(「二十八宿図」(『安部晴明簠簋内傳圖解(1912年)』) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E5%8D%81%E5%85%AB%E5%AE%BFより)
「すばる」の由来は、
とうに忘れられてきたが、江戸の国文学者狩谷棭斎、平直方などの考証により、これは〈統(す)べる星〉の意味で、六星が糸で統べたように集まったもの、
とするのが定説となっている(世界大百科事典)らしい。『古事記』に、
五百津之美須麻流之珠(いおつのみすまるのたま)、
『万葉集』に、
須売流玉(すまるのたま)、
『日本紀竟宴和歌』(延喜六(906)年)に、
儒波窶(すばる)の玉、
などと、上代人の髪や手首の玉飾を、この星団に名づけたもので、
すまる、
が転じて、
すばる、
となったとみられる(仝上)、とある。和名類聚抄(平安中期)に、
昴星、六星、火神也、須八流、
とある。ただ、
一所により合って統べ括られたような形である、
と、
すべる、
から来たとする見方(名語記・箋注和名抄・和訓栞・嬉遊笑覧・日本語源広辞典)のほかに、
御統(ミスマル)に似たれば云ふかと云ふ(大言海)、
とする、
御統(ミスマル)、
由来とする説もあり、「御統(ミスマル)」
は、
天なるや弟棚機(おとたなばた)の項(うな)がせる玉の美須麻流(ミスマル)美須麻流(ミスマル)に穴玉はや(古事記)、
と、
多くの勾玉・管玉を一本の緒に貫いて環状にしたもの。上代、首または腕にまいて飾りとした、
とあり(仝上)、
みすまろ、
ともいい、
「み」は接頭語、「すまる」は「すばる(統)」に同じ、
とある(精選版日本国語大辞典)。要は、
御統(ミスマル)、
そのものに見立てるか、
糸で統べる、
を採るかの差である。
「昴」(漢音ボウ、呉音ミョウ)は、
形声。「日(ほし)+音符卯(バウ)」。卯は、おし開く意を含むが、すばるをなぜボウと呼ぶかは不明、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(日+卯)。「太陽」の象形と「左右に開いた門」の象形(すべてのものが冬の門から飛び出す「陰暦の2月」の意味)から、冬一番早く東(卯)の空から上がってくる星「すばる」を意味する「昴」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2482.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95