2022年08月19日


血気の袖どち群れつつ話す(宿直草)、
肝太き袖は顔眺めらるるわざよ(仝上)、

などにある、

袖、

は、

血気さかんな若者たち、
肝太き人、

と、

「袖」は「人」の意、

とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「袖」に人の意はないので、ここでは、

袖、

で、例えば、

着物、

をいえば、換喩になり、象徴的に

人、

をいえば、提喩になる。慣行的にそういう言い回しがあったのかもしれないが、よくわからない。確かに、「袖」は、

袖摺り合うも他生の縁、

とか、

袖にする、

とか、

袖の下、

とか、

袖を絞る、

とか、メタファとして使うケースが多いが、「袖」を「人」とする例はあまり見ない気がするのだが。

「そで」は、

衣の左右の手を入るる所の総名、上代の下民は筒袖(つつそで 袂(たもと)がなく、筒のような形をした袖)なり、肱(かひな)に當る所をたもととす、

とある(大言海)。和名類聚抄(平安中期)に、

袖、曾天、所以受手也、

字鏡(平安後期頃)に、

袂、袖末也、曾氐、

類聚名義抄(11~12世紀)に、

袂、ソデ、タモト、

とある。続日本紀(しょくにほんぎ 延暦16年(797年)完成)に、

和銅元年閏八月「制、自今以後、衣襟口(ソデグチ)、闊八寸已上、一尺已下、随人大小為之、

とある。「そで」は、

衣手(ころもで)、
衣袖(いしゅう)、

ともいう。

「そで」の由来は、

衣手(そて)の義、或は衣出(そいで)の義(大言海)、
ソ(衣)テ(手)の意、奈良時代にはソテ・ソデの両形がある(岩波古語辞典)、
ソデ(衣手)説(東雅・安斎随筆・燕石雑志・箋注和名抄・筆の御霊・言元梯・名言通・和訓栞・弁正衣服考)、

と、

衣の左右に出た部分をいうところからソデ(衣出)説(日本釈名・関秘録・守貞謾稿・柴門和語類集・上代衣服考=豊田長敦)、

の二説が大勢で、その他、

ソトデ(外出)の義、またシモタレ(下垂)の反(名語記)、
ソはスボマルの意、テは手(槙のいた屋)、
外手(そで)(日本大百科全書)、

などもある。ただ、「ソテ(衣手)」説は、

上代特殊仮名遣では、「そ(衣)」は乙類音で、「そで」の「そ」は甲類音であるから疑問、

とされる(日本語源大辞典・精選版日本国語大辞典)。確かに、それは、

難点だが、他に適した説が見つかりません、

と(日本語源広辞典)、承知の上で、

ソ(衣)+手、

説を採るものもある。音韻的難があるとしても、意味的には、

そて(衣手)、
か、
そで(衣出)、

しか有力な説はないようである。ただ、

衣服の身頃(みごろ)の外にあって腕を覆う部分をいい、別に袂(たもと)ともいう。たもとは元来、手元(たもと)からきている。また袖の字は、通す意味の抽(ぬく)からきており、衣の手を通す部分の意、袂の夬(けつ)はひらく意からきており、衣の口のひらいているところの意味とされる、

とあり(日本大百科全書)、

そで(衣出)、
そで(外手)、

なのかもしれない。

袖の歴史(古墳時代~近世).jpg

(袖の歴史(古墳時代~近世) 日本大百科全書より)


和服の袖の種類(現代).jpg

(和服の袖の種類(現代) 日本大百科全書より)

和服では、

袂(たもと)の長さや形によって、大袖、小袖、広袖、丸袖、角袖、削(そぎ)袖、巻袖、元祿袖、振袖、留袖、筒袖などの種類があり、袂を含んでいうことがある、

が、洋服では、

長短により長袖、七分袖、半袖などの別があり、袖付や形によっても種々の名称がある、

牛車の袖.bmp

(牛車の袖 精選版日本国語大辞典より)

なお、「袖」は、衣の袖をメタファに、いろんなものを袖と呼ぶ。たとえば、

その車の有様言へばおろかなり。……そでには置口にて蒔絵をしたり(栄花物語)、

と、

牛車の部分、

を、

袖、

と呼ぶ。

牛車(ぎっしゃ)の部分の箱の出入り口の左右にあって、前方または後方に張り出した部分。前方にあるのを前袖、後方にあるのを後袖(あとそで)、また、表面を袖表(そでおもて)、あるいは外(そと)、内面を裏、あるいは内(うち)と呼ぶ、

とある(精選版日本国語大辞典)。また、

義盛之所射箭、中于国衡訖、其箭孔者、甲射向之袖二三枚之程、定在之歟(吾妻鏡)、

と、

鎧の袖、

とも使い、

鎧袖一触、

という言い方もある。

鎧袖(がいしゅう).bmp

(鎧袖 精選版日本国語大辞典より)

通常、

袖の緒(お)で胴に結びとめる。左を射向(いむけ)の袖、右を馬手(めて)の袖という。その大小、形状により、大袖、中袖、小袖、広袖、壺袖(つぼそで)、丸袖、置袖、最上袖(もがみそで)などの種類がある、

とある。また、

文書(もんじょ)や書巻の初めの端の余白となっている部分、

を、

袖、

といい、後の端の部分を、

奥、

という(仝上)。また、建物などの、

主要部のわきに付属する小型のもの、

を、

袖石、
袖柱、
袖塀(そでべい)、
袖垣(そでがき)、

等々と呼んだりもする。舞台の、

両わきの部分、

を、

袖、

と呼ぶのも同じメタファである。

「袖」 漢字.gif


「袖」(漢音シュウ、呉音ジュ)は、

会意兼形声。「衣+音符由(=抽。ぬき出す)」。そこから腕がぬけ出て出入りする衣の部分、つまりそでのこと、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(衤(衣)+由)。「身体にまつわる衣服のえりもと」の象形と「底の深い酒つぼ」の象形(「穴が深く通じる」の意味)から、人が腕を通す衣服の部分、「そで」を意味する「袖」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2061.html

「袂」 漢字.gif

(「袂」 https://kakijun.jp/page/E5D4200.htmlより)

「袂」(漢音ベイ、呉音マイ、慣用ヘイ)は、

会意。「衣+夬(切り込みを入れる、一部を切り取る)」。胴の両脇をきりとってつけたたもと、

とある(漢字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル: そで たもと
posted by Toshi at 03:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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