2022年08月23日

麁相


また麁相(そそう)にして、左の耳に文字ひとつも書かずして是をおとす(宿直窟)、

にある、

麁相、

は、

粗相、
疎相、
疏相、

とも当て、

扇なども、賜はせたらんは、そさうにぞあらむかしなど思て、……我絵師にかかせなどしたる人は(「栄花物語(1028~92頃)」)、

と、

そまつなこと、粗略なこと。また、そのさま、

の意であり、

石を袂にひろひ入岩ほの肩によぢのぼれば、かけあがって和藤内いだきとめて、ヤイこりゃそさうすな心てい見付た(浄瑠璃「国性爺合戦(1715)」)、

と、

そそっかしいこと、軽率なふるまいをするさま、

の意で、

粗忽(そこつ)、

と同義なる。その意味の流れから、

傍輩衆(ほうばいしゅう)と狂ひやして、麁相(ソサウ)で柱へ前歯を打つけやして、つい欠(かけ)やした(咄本「都鄙談語(1773)」)、

と、

あやまちをすること、失敗するさま、しくじり、不注意、

の意で使うし、その意味の外延から、

内の首尾を聞合せず案内するも麁相(ソサウ)なりと軒に立寄うかがへば(浄瑠璃「大経師昔暦(1715)」)、

と、

ぶしつけであること、また、そのさま、失礼、非礼、

の意でも使う。「粗忽」「しくじり」の派生としてか、

無念ながらも嬉しかりけりみどり子が我にだかれつささうして(俳諧「新増犬筑波集(1643)」)、

と、

おもらし、

の意でも使う(精選版日本国語大辞典)。また、

粗相火(そそうび)、

というと、

失火の意になる。

「粗相」の語源として、

仏教語の「麁相(そさう」)」、事物の無常な姿をとらえた「生・住・異・滅」の四相にならって、人の「生・住・老・死」を「麁四相」ともいう。無常な姿を表す四相にならったものであることや、人の一生には弱い部分があふれていることから、「麁相」は軽率なさまや過ちなどの意味で使われるようになった(語源由来辞典)、
仏教語の「四相(しそう)」、物事や生物の移り変わる姿を四つの段階、
一、生相(しょうそう) これは事物が生起すること。
一、滅相(めっそう) これは事物が崩壊すること。
一、住相(じゅうそう) これは事物が安住すること。
一、異相(いそう) これは事物が衰退すること。
の「生・住・異・滅」の「四相」を、人の生涯の生・住・老・死の各相に当てはめたものを「麁四相(そしそう)」と言います。人の生涯には無常さがあり、弱きところもあり、軽率な時があったり、間違いも起きます。「麁四相」が「麁相」となり、軽率なさまや過ちなどの意味合いで使われるようになりましたhttps://www.yuraimemo.com/931/
仏教では、この世を「生・住・異・滅」としてとらえたうえで、人間には一生には「生・住・老・死」の四相があるとされ、これを「麁の四相(刹那の四相)」といいます。この「麁」は生きていく人間の煩悩に通じるものがあるとされ、あるいは煩悩ゆえに人間らしい失敗や過ちのことを「麁相」だとして仏様は許してくださるだろうということからこの言葉が広まったとされていますhttps://zatugakuunun.com/yt/kotoba/5353/
仏教語、麁相(荒い形相)、転じてしそこない、不注意、おもらしの意に(日本語源広辞典)、

等々、仏教語「麁の四相」からきているとする説が、

他の説は見当たらず、不注意なあやまちを意味する言葉の中で、大小便を漏らす意味として使われるのは「粗相」ぐらいであることから、人の「生・住・老・死」を意味する言葉を語源と考えるのは妥当と思われる(語源由来辞典)、

等々とされている。確かに、「滅相」http://ppnetwork.seesaa.net/article/437604353.htmlで触れたように、

「麤四相、生相、老相、病相、死相。細四相、生相、住相、異相、滅相」(大乗法數)とみえたり、

とあり(大言海)、「四相」は、

生、老、病、死を一期の四相と云ひ、生、住、異、滅を有為の四相と云ひ、我相、人相、衆生相、壽者相を識境の四相と云ふ。即ち、我相とは、自己の我の実在するを執するもの、人相とは他人の我の実在するを妄執するもの、衆生相とは、衆生界、又は自己心識の作出ものなるを知らずして、以前より実在するものと信ずるもの、壽者相とは、自己の、この世に住する時間の長短に執着するもの、

とある(仝上)。つまり、

事物が出現し消滅していく四つの段階。事物がこの世に出現してくる生相(しようそう)、持続して存在する住相、変化していく異相、消え去っていく滅相、

の「四相」を、人間の一生に当てはめたものを、

生・老・病・死、

衆生が外界に対して実在すると誤解・執着する四つの誤った相を、

我・人・衆生・寿者、

の、

識境の四相、

という(大辞林・大言海)。

仏教において、因果関係のうちに成立する現象(有為の法)が現在の一瞬間のうちに呈する、

生(しょう:生起する)、
住(じゅう:生起した状態を保つ)、
異(い:その状態が変異する)、
滅(めつ:消滅する)、

の4つの相状を「刹那の四相」といい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E7%9B%B8・精選版日本国語大辞典)、「生住異滅」を、転じて「生老病死」と類義に、

人間が生まれ、成長し、老いて死ぬ意、または事物が生成変化して消滅する、

という衆生の生涯を生・老・病・死ととらえるのを、

一期の四相、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。確かに、

麤四相、

は、

生相、老相、病相、死相、

を指している(大言海)が、仮に、

麁四相、

だとしても、ここから、

無常な姿を表す四相にならったものであることや、人の一生には弱い部分があふれていることから、「麁相」は軽率なさまや過ちなどの意味で使われるようになった、

として(語源由来辞典)、

失敗、
粗忽、
粗略、

の意味に転換するとみるのは無理筋ではないだろうか。それこそ、

麁相、

な解釈に思えてならない。「麁」「疏」「疎」「粗」の意味が通底することからの、当て字に過ぎない気がしてならない。

「麤」 漢字.gif



「麁」 漢字.gif

(「麁」 https://kakijun.jp/page/EA65200.htmlより)

「麁」(漢音ソ、呉音ス)は、

麤、

の俗字。「粗」と同義、「疏」(疎)と類義、「細」「密」と対義である。

本字は、鹿を三つあわせたもの、互いの間が、すけたままざっと集まっていることをあらわす、

とある(漢字源)。「麤疎」(=麤疏 ソソ)で、

王敦怒曰、君麤疎邪(晉書・謝鯤傳)、

と、

そそっかしい、

つまり、

疎忽、

の意である(字源)。

「粗」 漢字.gif



「粗」 説文解字・漢.png

(「粗」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B2%97より)

「粗」(漢音ソ、呉音ス)は、「精」「密」の対語、「疎」(疏)と類義語。

形声。「米+音符且(ショ・シャ)」で、もと、ばらつくまずい玄米のこと。且の意味(積重ねる)とは直接の関係はない、

とある(漢字源)。粒子のそろっていない、品質の低い穀物の意https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B2%97ともある

「疎」  漢字.gif


「踈」 漢字.gif

(「踈」 https://kakijun.jp/page/E6F1200.htmlより)

「疎」(漢音ソ、呉音ショ)は、

会意兼形声。疋(ショ)は、あしのことで、左と右と離れて別々にあい対する足。間をあけて離れる意を含む。疎は「束(たば)+音符疋」で、たばねて合したものを、一つずつ別々に話して間をあけること、

とある(漢字源)。「踈」は「疎」の異字体。「疎」は、「疏」と同義、「密」「親」「精」の対語である。別に、

形声文字です(疋+束)。「人の胴体の象形と立ち止まる足の象形」(「足」の意味だが、ここでは、「疏(ソ)」に通じ(同じ読みを持つ「疏」と同じ意味を持つようになって)、「離す」の意味)と「たきぎを束ねた」象形(「束ねる」の意味)から、「束ねたものを離す」を意味する「疎」という漢字が成り立ちました。「疏」は「疎」の旧字です、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1968.html

「疏」 漢字.gif

(「疏」 https://kakijun.jp/page/so12200.htmlより)

「疏」(漢音ソ、呉音ショ)

会意兼形声。「流(すらすらと流す)の略体+音符疋(ショ)」

とある(漢字源)。「疏」は「疎」と同義、別に、

会意。疋と、㐬(とつ 子どもが生まれる)とから成る。子どもが生まれることから、「とおる」意を表す、

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です。「人の胴体の象形と立ち止まる足の象形」(「足」の意味)と「子が羊水と共に急に生れ出る象形」(「流れる」の意味)から、足のように二すじに分かれて流れ通じる事を意味し、そこから、「通る」、「空間ができて距離が遠くなる」を意味する「疏」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1968.html

「相」 漢字.gif


「相」(漢音ショウ、呉音ソウ)は、

会意。「木+目」の会意文字で、木を対象において目でみること。AとBが向き合う関係を表す、

とある(漢字源)。別に、

会意。目と、木(き)とから成り、目で木を見る、ひいて「みる」意を表す。借りて、すがた、あいたがいの意に用いる、

ともある(角川新字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:58| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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