2022年09月01日
はふはふ
其の中にひとり負けて、はふはふの有様なり(宿直草)、
とある、
はふはふ、
は、
頼みをかけ奉りて、這ふ這ふ参り候ひつるなり(今昔物語集)、
と、
這ふ這ふ、
と当てるが、
はふはふの有様、
で、
さんざんの有様、
の意とあり(高田衛編・校注『江戸怪談集』)、現代語では、
ほうほう、
と表記する(広辞苑)。書言字考節用集(享保二(1717)年)には、
匍匍、ハフハフ、
とある。
「はう(這)」の終止形が重なって成立した語、
で(日本国語大辞典)、
はうようなかっこうでやっと進むさま(学研全訳古語辞典)、
やっとのことで歩くさま(デジタル大辞泉)、
など、
這うようにしてやっと進むさま、
を言い、
散々な思いをして何とか逃げおおせる様子、
失敗(しくじ)りてそこそに逃げる様子、
を(大言海)、
這々の体(這う這うの体)、
と表現する(広辞苑)。日葡辞書(1603~04)にはき、
ハウハウノテイデニゲタ、
とある。「はふはふ」は、もともと、
太刀を抜き、杖に突き、はふはふ参り、縁へ上らんとしけれども(義経記)、
と、
這うようにして、かろうじて歩く、
という状態表現から、
希有にしてたすかりたるさまにて、はうはう家に入りにけり(徒然草)、
ほうほうと逃げてぞ残りける(伊曾保物語)、
と、
散々な目にあってかろうじて逃げだすさま、
という価値表現や、
大白衣にて、はうはう仁和寺へ参り(平治物語)、
馬を捨てて、はふはふ逃ぐる者もあり(平家物語)、
と、
あわてふためいて、
取るものも取りあえずに、
という価値表現に転じた(大辞林・日本国語大辞典・広辞苑)。
「這」(慣用シャ、漢音呉音ゲン)は、
会意兼形声。「辶(足の動作)+官符言(かどめをつけていう)」で、かどめのたったあいさつをのべるためにでていくこと、
とあり(漢字源)、「迎」と類義語で、
むかえる、
出迎えて挨拶する、
意である。
老人が人を出迎える時によろばいでてくるということから、這の字を当てた、
のではないか、とある(仝上)。
はう、
つまり、
手足を地面につけて進む、
意で使うのは、我が国だけである。
ただ、「這」は、
宋の時代に、「これ」「この」という意味の語を「遮個」「適個」と書き、その遮や適の草書体を誤って這と混同した。「這個」(シャコ これ)、「這人」(シャジン この人)で、指示代名詞の、
これ、
この、
の意で使い(仝上)、
現代中国では、"zhè"の音で近称の指示代名詞として用いられ(簡体字:这)、元の音(yán)及び意味は失われている。これは、宋代に「これ」「この」という意味の語を遮個・適個と書き、その遮や適の草書体を誤って這と混同したことによる、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%80%99)。別に、
会意兼形声文字です(辶+言)。「立ち止まる足・十字路の象形」(「行く」、「道」の意味)と「取っ手のある刃物の象形と口の象形」(「(つつし(慎・謹)んで)言う」の意味)から、「道を言う」を意味し、そこから「この」、「これ」を
意味する「這」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji2752.html)。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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