2022年09月06日
入相の鐘
なほ入相の鐘に花を惜しみし春の夕暮れ、來し方なつかしく、その里、かれこれと歩(あり)くに(宿直草)、
とある、
入相(いりあい)の鐘、
は、
日没のとき、寺で勤行(ごんぎょう)の合図につき鳴らす鐘、また、その音、
の意であり、
三井の晩鐘、
というように、
晩鐘(ばんしょう)、
ともいい(この対が、暁鐘。)、
登攀春黛裡、拝頂暮鍾辰(杜甫)、
と、
暮鐘(ぼしょう)、
あるいは、
くれのかね、
ともいう(広辞苑・日本国語大辞典)。
「いりあひ」は、
或る夕ぐれの入りあひばかりの事なるに寝屋入り(善悪報いばなし)、
と、
日没、
の意である(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。また、
間に y の音がはいって「いりやい」と読まれる場合もある、
ともある(精選版日本国語大辞典)。
日の、山の端に入る頃、
つまり、
たそがれ、
薄暮、
の意である(大言海・字源)。類聚名義抄(11~12世紀)に、
日没、イリアヒ、
とある。漢語の「入相」は、
にゅうしょう、
と訓ませ、
イリテショウタリ、
と、訓読し、
州郡の官より、朝廷に入りて宰相となること、
とある(字源)。「いりあひ」に、
入相、
と当てたのは当て字だが、その由来ははっきりしない。
入り(日の入る)+あい(接続詞 ちょうどそのころ)、
とある(日本語源広辞典)。「あふ」は、
逢、
合、
会、
嫁、
遇、
和、
饗、
等々と当て(大言海)、
楽浪(ささなみ)の志賀(しが)の大わだ淀(よど)むとも昔の人にまたも逢(あ)はめやも(万葉集)、
と、
二つのものが互いに寄っていきぴったりとぶつかる、
という、
出会う、
とか
対面する、
意や、
折にあひたる羅(うすもの)の裳あざやかに(源氏物語)、
と、
二つのものが近寄ってしっくりと一つになる、
という、
調和する、
とか、
ピッタリ一つになる、
意がある動詞「あふ」と関連する接続詞に、
相、
を当て、
相飲み、
相あらそひ、
と、
互いに、
の意や、
相栄え、
相寝、
と、
一緒に、
ともどもに、
の意で使う(岩波古語辞典)。しかし、接続詞であるより、動詞「あふ」で、
入りてあふ、
の意と考えれば、
日の、山の端に入る頃、
という意味(大言海)と重なる気がするのだが。別に、思い付きとしつつ、
村や集落で、山の柴草や山菜をとる為に、相互いの民が共同で立ち入る事が出来る山を、入相の山といいます。
入相の山に沈む陽から、転用されたものではないでしょうか、
とある(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q143445679)のも、意味は同じである。
なお、
入相一里、
という諺がある。
入相の鐘を聞いてから、日が暮れるまでにはまだ一里は歩ける、
という意味らしい(故事ことわざの辞典)。
「たそがれ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/479991859.html)、「逢魔が時」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/433587603.html)については触れたことがある。
「入」(慣用ジュ、漢音ジュウ、呉音ニュウ)は、「八入」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484945522.html)で触れたように、
指事。↑型に中へ突き進んでいくことを示す。また、入口を描いた象形と考えてもよい。内の字に音符として含まれる、
とある(漢字源)。ために、
象形。家の入り口の形にかたどり、「いる」「いれる」意を表す(角川新字源)、
象形。「入り口」の象形から「はいる」を意味する「入」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji177.html)、
と、象形説もある。
「相」(漢音ショウ、呉音ソウ)は、「麁相」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/490932051.html?1661281209)で触れたように、
会意。「木+目」の会意文字で、木を対象において目でみること。AとBが向き合う関係を表す、
とある(漢字源)。別に、
会意。目と、木(き)とから成り、目で木を見る、ひいて「みる」意を表す。借りて、すがた、あいたがいの意に用いる、
ともある(角川新字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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