小一條の社にありける藤の木に、平茸(ひらたけ)多くはえたりけるを、師に取り持ち來て(今昔物語集)、
にある、
平茸、
は、
榎の木などに生え、形は象の耳に似て、表面は褐色、裏面は白色、なま椎茸のようで味がよいという。ひじり好むもの、ひらの山こそ尋ぬなかれ、弟子やりて、松茸、平茸、なめすすき……(梁塵秘抄)、
と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。『梁塵秘抄』のくだりは、
聖の好むもの、比良の山をこそ尋ぬなれ、弟子やりて、松茸、平茸、滑薄(なめすすき 榎茸(えのきたけ))、さては池に宿る蓮のはい(蔤 蓮根)、根芹(ねぜり)、根ぬ菜(ねぬなは じゅんさい)、牛蒡(ごんぼう)、河骨(かわほね・こうほね)、独活(うど)、蕨、土筆(つくづくし)、
とある「ものづくし」の一節である(http://false.la.coocan.jp/garden/kuden/kuden0-2.html)。
「平茸」は、
あわびたけ、
かきたけ、
ともいい(たべもの語源辞典)、会津地方では、
カンタケ、
東北地方では、一般に、
ワカエ、
の名で親しまれ(日本大百科全書)、秋田県鹿角、岩手県釜石、青森県上北では、
ムキダケ、
熊本県では、
クロキノコ、
と呼ばれる(たべもの語源辞典)。
(ひらたけ 大辞泉より)
(ヤナギの枯れ木に発生した野生ヒラタケ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%A9%E3%82%BF%E3%82%B1より)
春から秋にかけて広葉樹の枯れ木に重なり合って発生する。カサは直径5~15センチの半円形、灰色または鼠色で、片側に柄がある。このカサの色や形は、発生する場所で異なる。肉は白く柔らかく、汁、煮物、焼いて田楽、あえ物、油いためなどにする、
とある(たべもの語源辞典)が、別名、
四季きのこ、
と言われ、年中発生しているように思われているが、本当の、
ひらたけ、
は、晩秋から採取できるものを言い、春から秋にかけて 採取できるのは、
うすひらたけ、
を指し、
一般的に採取され「ひらたけ」と呼ばれているのは、「うすひらたけ」のことをいう、
とある(http://www.sansaikinoko.com/hiratake.htm)。
だから、「ひらたけ」は、
かんたけ(寒茸)、
ともいい、
晩秋ブナの枯れ木などに折り重なって発生し、肉厚も十分で、ボリュームがあり、色は灰黒色が多いのですが、中には灰白色、茶褐色も時にはあります、
とある(仝上)。野生の「ひらたけ」は、
傘が半円形または扇形で、側方に短い茎をつける。幅5~15センチメートル。表面は滑らかで、若いときは青黒いが、まもなく色あせてねずみ色から灰白色になる。ひだは白く茎に垂生。茎には白い短毛が生えている。胞子紋は淡いピンク色を帯びる。晩秋から冬にかけて、広葉樹の枯れ木に重なり合って群生する、
とある(日本大百科全書)。
カンタケ、
ともよぶのは、しばしば雪の下からでも生える故らしい(仝上)。かさが、
表面は平滑、
なのが名前の由来らしく、
マツタケに似てやせて、カサが薄く平たいのでこの名がついた、
とある(たべもの語源辞典)。
「うすひらたけ」は、春から秋にかけて発生し、
傘の表面は灰色、ヒダは白色で、茎が無いのが特徴、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%92%E3%83%A9%E3%82%BF%E3%82%B1)。野生のものは、梅雨時期から初秋にさまざまな広葉樹の倒木や切り株の上に折り重なる様にして群生する。野生のウスヒラタケは小型で薄く、傘の色は白〜淡黄色のものが多い(仝上)という。「ひらたけ」との違いは、
発生時期が違うのと、きのこが小型で肉が薄く、傘の色も白に近い淡黄色、
で区別ができる(http://www.sansaikinoko.com/hiratake.htm)とある。
「ひらたけ」は、平安時代中期には食用にされていたが、
近来往々食茸有死者、永禁断食平茸、戒家中上下、
とある(藤原実資『小右記』)ように、毒キノコによる死亡事故の多発を理由に家中にヒラタケを食べることを禁じる旨が記されている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%A9%E3%82%BF%E3%82%B1)。
「ひらたけ」に外見が似ているのに、
つきよたけ(月夜茸)、
という毒きのこがある。別名、
わたり、
といい、『今昔物語集』には、「平茸」を御馳走すると偽って「わたり」を食わせて殺そうとしたが、相手は「わたり」と承知の上で、
年来、此の老法師は、未だかくいみじく調美せられたるわたりをこそ食ひ候はざりつれば、
と嘯いたとあり、
此の別當は、年来わたりを役(やく)と食ひけれども酔はざりける僧にてありけるを、知らで構へたりける事の、支度たがひてやみにけり。されば、毒茸を食へどもつゆ酔はぬ人の有りけるなりけり、
と結んでいる(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
このきのこは、
「うすひらたけ」ととても似かよっている「毒キノコ」です。 特に幼菌は傘を割って中の「シミ」を確認しないとわからないほどです。「うすひらたけ」より身が厚かったり、色が濃かったりして注意をすればわかります、
とある(http://www.sansaikinoko.com/hiratake.htm)が、
ひだと柄の境がはっきりしており、ひだは柄に垂生せず(稀に垂生することがある)、一種の臭気があり、柄の基部の肉は常に暗紫色である。新鮮なツキヨタケはひだが全面にわたって発光することから夜間に白く発光する、
ともある(たべもの語源辞典)。
「たけ(茸)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461300903.html)、「しめじ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/480249609.html)、「マツタケ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/479944235.html)については触れた。
(「平」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B9%B3より)
「平」(漢音ヘイ、呉音ビョウ、慣用ヒョウ)は、
象形。浮草が水面にたいらに浮かんだ姿を描いたもの、萍(ヘイ うきくさ)の原字。下から上昇する息が、一線の平面につかえた姿ともいう、
とある(漢字源)。後者の説は、
「于」+「八」の会意、気が立ち上り天井につかえ(于)、それが分かれる(八)、又は、斧(于)で削る(八)様、
とする(白川静)説(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B9%B3)。
「茸」(漢音ジョウ、呉音ニョウ)は、
会意。「艸+耳(柔らかい耳たぶ)」。柔らかい植物のこと、
とある(漢字源)。
会意兼形声文字です(艸+耳)。「並び生えた草」の象形と「耳」の象形(「耳」の意味)から、耳のような草が「しげる」、耳のような形をした「きのこ」を意味する「茸」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji2684.html)のも同趣旨。
参考文献;
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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