人間の事は、愛別離苦(あいべつりく)、怨憎会苦(をんぞうゑく)、共(とも)に我身に知られてさぶらふ。四苦八苦、一つとして残る所さぶらはず(平家物語)、
にある、
四苦八苦、
は、仏語で、
生・老・病・死の四苦に、愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五陰盛苦を合わせたもの、
をいい(広辞苑)、
人生の苦の総称、
を言う(仝上)。転じて、
弱り切ったお初を見れば、両手を伸ばして断末魔の四く八く哀れというも余りある(浄瑠璃「曾根崎心中」)、
と、
非常な苦しみ、
の意や、
弁解に四苦八苦する、
と、
さんざん苦労する、
意で使う(仝上)。釈迦は、
人生の現実を直視して、自らの思うままにならぬもの・ことの満ちあふれているさまをつきとめ、それを苦とよんだ。それは自己の外部だけではなくて、自己の内にもあり、究極は人間の有限性とそれから発する自己矛盾とに由来する、
とし、その「苦」を、
生苦(jāti dukkha しょうく)人は生まれる場所、条件を選べないなど、衆生の生まれることに起因する苦しみ、
老苦(jarāpi dukkha)衆生の老いていくことに起因する苦しみ。体力、気力など全てが衰退していく苦しみ、
病苦(byādhipi dukkha)様々な病気があり、痛みや苦しみに悩まされる、
死苦(maraṇampi dukkha)衆生が免れることのできない死という苦しみ。また、死ぬときの苦しみ、
の(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E8%8B%A6%E5%85%AB%E8%8B%A6)、
生老病死、
の、
四苦、
とし(https://www.nichiren.or.jp/glossary/id154/・日本大百科全書)。さらに、
愛別離苦(あいべつりく 愛するものと別れなければならない苦しみ)、
怨憎会苦(おんぞうえく 怨(うら)み憎むものと出会わなければならない苦しみ)、
求不得苦(ぐふとっく 求めるモノゴトが手に入らない苦しみ)、
五蘊盛苦(ごうんじょうく 五陰盛苦(ごおんじょうく) 自分の心や、自分の身体すら思い通りにならない苦しみ)、
の四つを加えて(「五蘊(五陰)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/491410283.html?1662923683)については触れた)、
八苦、
とした(仝上)。仏教では、
これらは避けようとしても避けられず、むしろそれら苦のありのままをそのまま知り体験を深めることによって、それからの超越、
すなわち、
解脱(げだつ)、
を説く(仝上)。
生は苦なり、老は苦なり、病は苦なり、死は苦なり、
怨憎するものに曾(会)ふは苦なり、愛するものと別離するは苦なり、求めて得ざるは苦なり、
略説するに五蘊取蘊は苦なり、
とある(南伝大蔵経)。
「四」(シ)は、「六道四生」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/486172596.html?1648323250)で触れたように、
会意。古くは一線四本で示したが、のち四と書く。四は「口+八印(分かれる)」で、口から出た息がばらばらに分かれることを表す。分散した数、
とある(漢字源)。それは、
象形。開けた口の中に、歯や舌が見えるさまにかたどり、息つく意を表す。「呬(キ)(息をはく)」の原字。数の「よつ」は、もとで4本の横線で表したが、四を借りて、の意に用いる(角川新字源)、
とか
指事文字です。甲骨文・金文は、「4本の横線」から数の「よつ」の意味を表しました。篆文では、「口の中のに歯・舌の見える」象形となり、「息」の意味を表しましたが、借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「よつ」を意味する「四」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji126.html)、
とか、
象形。口をあけ、歯と舌が見えている状態。本来は「息つく」という意味を表す。数の4という意味はもともと横線を4本並べた文字(亖)で表されていたが、後に四の字を借りて表すようになった(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%9B%9B)、
とかと、「指事」説、「象形」説とに別れるが、趣旨は同じようである。
「八入」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/484945522.html)で触れたように、「八」(漢音ハツ、呉音ハチ)は、
指事。左右二つにわけたさまを示す(漢字源)、
指事。たがいに背き合っている二本の線で、わかれる意を表す。借りて、数詞の「やつ」の意に用いる(角川新字源)、
象形文字です。「二つに分かれている物」の象形から「わかれる」を意味する「八」という漢字が成り立ち、借りて、数の「やっつ」の意味も表すようになりました(https://okjiten.jp/kanji130.html)、
などと説明される。
(「苦」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%A6より)
「苦」(漢音コ、呉音ク)は、
会意兼形声。古は、かたい頭骨を描いた象形文字で、ふるい、固く乾いたの意を含む。苦は「艸+音符古」で、口がこわばってつばが出ない感じがする、つまり、苦い味のする植物のこと、
とある(漢字源)。
そのようなものを飲む、辛く苦しいことを意味する、
の意もある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%A6)。別に、
会意兼形声文字です(艸+古)。「並び生えた草」の象形と「固いかぶと(兜)」の象形(「固い」の意味)から、固い草⇒にがい草を意味し、さらに転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)「にがい・くるしい」を意味する「苦」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji262.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:四苦八苦