2022年09月18日

東司


僧は入る由して、脇へはづして、東司(とうす)のうちに隠れ居て、よく見れば(奇異雑談集)、

にある、

東司、

は、

禅家での称、厠のこと、

である(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。

登司、

とも当てる(大言海・精選版日本国語大辞典)。

スは唐音、


とある(岩波古語辞典)。

東浄(とうちん)、

ともいう。

チンは唐宋音、

である(世界宗教用語大事典)。もと、本堂の両側にあって、

東司(東浄)、
西司(西浄)、

といい、使用者は役職により分けられており、

東序者知事。西序者頭首。此謂両班也(「禅林象器箋(1741)」)、

とあるように、禅家で、

仏殿・法堂でならぶ諸役僧の座位を東西に分け、

「東序」は、、

法堂・仏殿の東側に並ぶ、都寺(つうす)・監寺(かんす)・副寺(ふうす)・維那(いの)・典座(てんぞ)・直歳(しっすい)などの六知事(雑事や庶務をつかさどる六つの役職)、

のいるところを指し、

東班、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。「西序」(せいじょ)は、

中央の仏壇に向かって左すなわち西側に並ぶ、首座、書記、知浴、知殿等の六頭首(ちょうしゅ 知事に対して修道の方面を掌る)、

のいるところをさす(デジタル大辞泉・仝上)が、のち西司をも東司と呼ぶようになった、とある(仝上)。

東司、

の語を使うのは曹洞宗で、臨済宗では、

雪隠、

といい、

烏蒭沙摩(ウズサマ)の真言は東司にて、殊に誦すべきなり、……不動明王の垂迹として不浄金剛と號して、東司の不浄の時、鬼若し人を悩ます事あらば、守護せん爲御誓なり(鎌倉後期の仏教説話集「雑談集」)、

とあるように、

不浄を清める烏蒭沙摩明王(うすさまみょうおう・うすしまみょうおう)、

が祀られ、

登司同郭登、厠神也(明『事物異名』)、

と、東司はもともと、

便所の守護神、

のことを指した(仝上)。因みに、「烏蒭沙摩」は、

烏枢沙摩、
烏枢瑟摩、
烏瑟娑摩、

とも表記し、

不浄潔金剛、
火頭金剛、
穢積(迹)金剛、
不壌金剛、
受触金剛、

ともいう。

いっさいの不浄や悪を焼きつくす霊験のある明王として、死体や婦人の出産所、動物の血の汚れを祓う尊としての信仰が主流、

で、

真言宗や禅宗では東司(とうす)すなわち便所の守護神としてまつられている場合が多い、

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%83%8F%E6%9E%A2%E6%B2%99%E6%91%A9%E6%98%8E%E7%8E%8B・世界大百科事典)。

日常すべて修行とする禅においては、

便所すら心身練磨の道場であり、禅堂・浴室とともに、静謐を旨とし、私語を交わしたり、高声を発してはならない、

三黙道場、

の一つとされるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E5%8F%B8。使用にあたっては入り方・衣のさばき方・しゃがみ方などの作法や、唱える偈文などが細かく規定されている(仝上)という。

「東司」の遺構で、現存かつ実際に使用されているものの一つに、

東福寺の東司、

がある。室町時代唯一、日本最大最古の禅宗式の東司とされる(仝上)。

東福寺・東司.JPG


「東司」は、寺院を構成する七つの施設である、

七堂伽藍、

の一つであるが、伽藍は、

サンスクリット語 saṃghārāmaの音写である僧伽藍の略、

で、

インド本来の意味は、修行者たちが住する園林、

であるが、中国、日本では一般に、

僧侶の住む寺院堂舎の称、

で、後世、一つの伽藍には7種の建物を備えなければならないとし、「七」は、

数量を表すのではなく、必要なものがみな備わっている、

という意味で(旺文社日本史事典)、これを、

七堂伽藍、

という。七堂の名称や配置は時代や宗派によって一定していないが、鎌倉時代の『古今目録抄』には、

塔、金堂、講堂、鐘楼、経蔵、僧坊、食堂(じきどう)、

の7種を伽藍としており、普通は、この、

塔・金堂・講堂・鐘楼・経蔵・僧房・食堂(じきどう)、

をいうが、禅宗では、

法堂・仏殿・山門・僧堂・庫院・西浄・浴室、

をいい、曹洞宗の永平寺では、

法堂(はっとう)・仏殿・僧堂・庫院(くいん 台所)・東司・三門・浴室、

をさす。南都六宗では、

金堂(こんどう)・講堂・塔・食堂(じきどう)・鐘楼(しょうろう)・経蔵・僧坊、

をいい、天台宗では、

中堂・講堂・戒壇堂・文殊楼(もんじゅろう)・法華堂・常行堂・双輪橖(そうりんどう)、

をいう(日本大百科全書・精選版日本国語大辞典)。

「東」 漢字.gif



「東」 甲骨文字・殷.png

(「東」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9D%B1より)

「東」(漢音トウ、呉音ツウ)は、

象形。中に芯棒を通し、両端をしばった袋の形を描いたもの。「木+日」の会意文字と見る旧説は誤り。囊(ノウ ふくろ)の上部と同じ。太陽が地平線を通して突き抜けて出る方角。「白虎通」五行篇に、「東方者動方也」とある、

とある(漢字源)。別に、

象形。両端を縛った袋の形を象る。もと「束」と同字で、「しばる」「たばねる」を意味する漢語{束 /*stok/}を表す字。のち仮借して「ひがし」を意味する漢語{東 /*toong/}に用いる、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9D%B1

象形。上下をくくったふくろの形にかたどる。借りて、日がのぼる方角の意に用いる(角川新字源)、

とも、

象形文字です。「袋(ふくろ)の両端を括(くく)った」象形から、袋を動かし万物を眠りから動かす太陽の方角「ひがし」を意味する「東」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji148.htmlが、「束」の象形が、なぜ「東」とされたのかよくわからない。

「司」 漢字.gif

(「司」 https://kakijun.jp/page/0539200.htmlより)

「司」(漢音呉音シ、唐音ス)は、

会意。「人+口」。上部は、人の字の変型。下部の口は、穴のこと。小さい穴からのぞくことをあらわす。覗(シ のぞく)や伺(シ うかがう)・祠(シ 神意をのぞきうかがう→まつる)の原字。転じて、司祭の司(よく一事をみきわめる)の意となった、

とある(漢字源)。別に、

象形。天から降りて来た神に、口でことばを告げる形にかたどる。「祠(シ まつる)」の原字。まつることから転じて、「つかさどる」意を表す、

とも(角川新字源)、

会意文字です。「まつりの旗」の象形と「口」の象形(「祈りの言葉」の意味)から、祭事をつかさどる、すなわち、「つかさどる(役目とする)」を意味する「司」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji620.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:08| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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