ある人、雑談(ぞうたん)にいはく、女人の執心、忽ちに蛇になりし事(奇異雑談集)、
などとある、
雑談、
は、
用談に対す、
とあり(大言海)、
種々の要用(ようよう)ならぬ話、
つまりは、
重要であること、
必要であること、
とは関わらない、
むだ話、
とりとめのない話、
つまり、今日でいう、
雑談(ざつだん)、
である。
「雑談(ザツダン)」は漢語である。
よもやまの話、
の意で(「四方山話」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/456319981.html)については触れた)、
相見無雑言、但道桑麻長(陶濳)、
と、
雑言(ゾウゲン)、
も同義である。
「悪行雑言」というような、ののしる意で「雑言」を使うのはわが国だけで、「罵詈雑言」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/443722588.html)で触れたように、わが国でも、
諷諫の後、已に雑言(ざふごん)に及び、風月の事、和歌の興、言雜せらるるの間(中右記)、
と、
雑談、
の意で使っているが、後に、
無益(むやく)の殿ばらの雑言かな(平家物語)、
と、
悪態、
悪口、
の意に転じている。億説かもしれないが、どうやら、日本で、
雑談→よもやま話→わけのわからない物言い→うわごと→讒言→悪口、
といったように変じたらしいのである。「雑言」の意味変化と並ぶように、「雑談」も、
夫婦の語ひなんどとは勿躰至極の雑談(ザフダン)(浄瑠璃・「丹生山田青海剣(1738)」)、
と、
種々の悪口。無礼な言葉。雑言(ぞうごん)、
の意で使われた例もあるが、あまり一般的ではないようだ。
「雑談」という表記は平安期の古記録に見いだせ、
ざふたん、
つまり、
ぞうたん、
と訓ませるが、日葡辞書にも、
Zǒtan(ザウタン)、
とあり、古くは、
ゾウタン、
と訓み、江戸時代中期ごろから、
ゾウダン、
の訓みが出現し、明治になって、
ザツダン、
ゾウダン、
が並用され、
ザツダン、
が一般化するのは明治中期から末期にかけてである(精選版日本国語大辞典)とある。
此の雑談(ぞうたん)、奇異の儀にあらずといへども、火焔の中において、その真実をみる事、ふしぎにあらずや(奇異雑談集)、
とある「雑談」は、
世間話(せけんばなし)、
に近く、この形式の、
口承形式で伝えられてきた民話、
との関連で、
説話文学、
とつながり、平安末から鎌倉初期の三井寺(みいでら)関係の説話集、
雑談鈔、
鎌倉末期の無住編の説話集、
雑談集(ぞうたんしゅう)、
がある。また、鎌倉時代以降、芸道の同好の士が寄合で交わした芸談も、
雑談(ぞうたん)、
といい、其角の俳諧評釈書に、
雑談集、
があるが、南北朝期の頓阿(とんあ・とんな)の歌論書『井蛙抄(せいあしょう)』は、
雑談記、
和歌雑談聞書、
などと呼ばれることがあり、戦国時代の猪苗代兼載(いなわしろけんさい)の歌論・連歌論書も、
兼載雑談、
である(百科事典マイペディア)。なお、
雑談のなかで語られた芸の秘訣や苦労話など、有用な談話を書き留めてまとめたものを、
聞書、
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%91%E8%AB%87)とある。
(「雜」 簡牘(かんどく)文字(「簡」は竹の札、「牘」は木の札に書いた)・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9B%9Cより)
「雑(雜)」(慣用ザツ・ゾウ、漢音ソウ、呉音ゾウ)は、
会意兼形声。木印の上は衣の変形、雜は、襍とも書き、「衣+音符集」で、ぼろぎれを寄せ集めた衣のこと、
とある(漢字源)。混ぜ合わせることを意味する、ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9B%9C)。別に、
形声。意符衣(ころも)と、音符集(シフ→サフ)とから成る。いろいろのいろどりの糸を集めて、衣を作る意を表す。ひいて「まじる」意に用いる、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(衣+集)。「衣服のえりもと」の象形(「衣服」の意味)と「鳥が木に集まる」象形(「あつまる」の意味)から、衣服の色彩などの多種のあつまりを意味し、そこから、「まじり」を意味する「雑」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji875.html)。
「談」(漢音タン、呉音ダン)は、
会意兼形声。「言+音符炎(さかんな)」で、さかんにしゃべりまくること、
とある(漢字源)。おだやかに「かたる」意(角川新字源)ともある。ただ、「炎」は、
火が盛んに燃える様で、盛んに話すの意、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%AB%87)、
会意兼形声文字です(言+炎)。「取っ手のある刃物の象形と口の象形」(「(つつしんで)言う」の意味)と「燃え立つ炎」の象形(「盛んに燃え上がる炎」の意味)から、さかんに交わされる言葉、「かたり」を意味する「談」という漢字が成り立ちました、
と考えられる(https://okjiten.jp/kanji448.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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