面桶(めんつう)


水飲みたきよし申すほどに、おりて井をたづね、面桶(めんつ)に汲んで(奇異雑談集)、

にある、

面桶、

とあるのは、

飯を盛る曲物(まげもの)、めんつう、

とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「桶」を「つう」と訓ませるのは、

唐音、

の故である(広辞苑)。

面扶持(フチ)の意、

とある(大言海)。「面扶持」は、

家族の人数に応じて与えられた給与の米(扶持米)、

の意で、

飯を盛りて、一人ずつ、面前に當て配るに用ゐる器(棬物(ワゲモノ)なり)、即ち、曲物造りのべんたうばこ、

だからとしている(仝上)。書言字考節用集(江戸初期)も、

面桶、本朝行厨、就一人面、而與一器、故名、

とある。

わりご、
とんじき、

ともいう(仝上)。つまり、「面桶」は、

一人前ずつ飯を盛って配る曲げ物、

の意だが、江戸時代には、

乞食が施しを受ける器(陶器でも金属でも)を面桶(めんつう)と言うようになった、

とあるhttp://sadoukenkyu.blogspot.com/2017/02/blog-post.htmlので、

乞食の持つもの、

をもいうようになる(広辞苑)。

めんぱ、
めんつ、

ともいう(仝上・日本国語大辞典)。ただ、

面桶をとりて、かまのほとりにいたりて、一桶の湯をとりて、かへりて洗面架のうへにおく(正法眼蔵)、

と、「洗面」の項に「面桶」が出てくるので、

顔を洗う水を入れる桶、

でもあったらしい。大きさが同じかどうかはわからない。

面桶.jpg


茶道では、

建水(けんすい)、

といい、

面桶の形を模したもの、

である(精選版日本国語大辞典)。

茶席で茶碗を清めた湯や水を捨てる器、

をいい、

通称「こぼし」、

古くは、

水翻(みずこぼし)、
水覆(みずおおい)、
水下(みずこぼし)、
水翻・水飜(みずこぼし)、

とも書いた。もともと、

台子皆具(だいすかいぐ 台子茶道具を置くための棚物、茶道具一式が揃っている)の一つとして、中に蓋置(ふたおき)を入れて飾った、

とある。建水には、

金属、
陶磁、
木竹、

の3種類があるが、木竹は、

曲(まげ)、

といわれるもので、

もっとも素朴で清浄感のある、

木地(きじ)曲、

のほか、

塗曲、
蒔絵(まきえ)、
箔(はく)押しを施したもの、
竹や桜皮を周囲に張り巡らせたもの、

等々もある(日本大百科全書)。

竹蓋置(たけのふたおき).jpg

(竹蓋置(たけのふたおき) http://verdure.tyanoyu.net/hutaoki_take.htmlより)

江戸初期の茶人・久保長闇堂『長闇堂記』には、

一つるへの水さし、めんつうの水こほし、青竹のふたおき、紹鴎、或時、風呂あかりに、そのあかりやにて、数寄をせられし時、初てこの作意有となん、

とあるhttp://verdure.tyanoyu.net/kensui_mentuu.html

紹鴎や利休が工夫した、

とされるhttp://sadoukenkyu.blogspot.com/2017/02/blog-post.htmlが、藪内家第五世・藪内竹心(やぶのうち ちくしん)の著した茶書『源流茶話』(元禄時代)に、

古へこぼしハ合子、骨吐、南蛮かめのふたのたぐひにて求めがたき故に、紹鴎、侘のたすけに面通を物すかれ候、面通、いにしへハ木具のあしらひにて、茶湯一会のもてなしばかりに用ひなかされ候へハ、内へ竹輪を入れ、組縁にひさくを掛出され候、惣、茶たて終りて、面通の内へ竹輪を打入られ候は、竹輪を重て用ひ間敷の仕かたにて、客を馳走の風情に候、

とあり、紹鴎が茶席に持ち込んだとされhttp://verdure6.web.fc2.com/yogo/yogo_ke.html#genryuucyawa、また、江戸中期の『茶湯古事談』には、

面桶のこほしハ巡礼か腰に付し飯入より心付て紹鴎か茶屋に竹輪にふた置(竹蓋置)と取合せて置れしを、利休か作意にて竹輪も面桶も小座敷へ出しそめしとなん、

とあるhttp://verdure.tyanoyu.net/hutaoki_take.html。天正18年(1590)秀吉が小田原城攻めの後に湯治中の有馬温泉で催した茶会を、秀吉の同朋衆から有馬の阿弥陀堂に知らせた手紙に、

水こほしめんつう、……利休茶たう(茶頭)被仕候也、

とある(仝上)。

「面」 漢字.gif



「面」 甲骨文字・殷.png

(「面」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9D%A2より)

「面」(漢音ベン、呉音メン)は、

会意。「首(あたま)+外側をかこむ線」。頭の外側を線でかこんだその平面を表す、

とあり(漢字源)、

指事。𦣻(しゆ=首。あたま)と、それを包む線とにより、顔の意を表す(角川新字源)、
指事文字です。「人の頭部」の象形と「顔の輪郭をあらわす囲い」から、人の「かお・おもて」を意味する「面」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji541.html

も、漢字の造字法は、指事文字としているが、字源の解釈は同趣旨。別に、

仮面から目がのぞいている様を象る(白川静)、

との説https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9D%A2もある。

「桶」 漢字.gif


「桶」(漢音トウ、呉音ツウ)は、

会意兼形声。甬(ヨウ)は、通の元の字で、つつぬけになること。桶は「木+音符甬」、

とあり(漢字源)、「おけ」の意を表す(角川新字源)。別に、

会意兼形声文字です(木+甬)。「大地を覆う木」の象形と「甬鐘(ようしょウ)という筒形の柄のついた鐘」の象形(「筒のように中が空洞である」の意味)から、「中が空洞の木の器、おけ」を意味する「桶」という漢字が成り立ちました、

とする説もあるhttps://okjiten.jp/kanji2512.html

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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