2022年09月28日

ふすま


「ふすま」に当てる漢字は、

襖障子、唐紙の意の、

襖、

かつての寝具で、掛け布団のように体にかける、

衾、
被、

小麦を製粉したときに篩い分けられる皮の屑の意の、

麩、
麬、

がある。「麩」http://ppnetwork.seesaa.net/article/471767846.htmlについては触れたが、この語源が、

中国語で麩fuはフスマで、小麦粉を取った屑皮の部分をいう。中国から僧侶が麩を伝えてきたとき、その名も音もそのまま日本のものとした、

とある(たべもの語源辞典)が、それを「ふすま」と呼んだについては、

麦の被衾(ふすま)の義か(大言海)、
含ス+マ(もの)、内容物を含むもの、つまり胚芽を中に包んでいたものの意(日本語源広辞典)、

と、「衾」との関りから類推したらしい、と思わせるところがあり、「衾」との関連が深い。

『和漢三才図会』による衾の画.jpg

(「衾」(和漢三才図会) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%BEより)

「衾」は、

被、

とも当てるように、

御ふすままゐりぬれど、げにかたはら淋しき夜な夜なへにけるかも(源氏物語)、

と、

布などで作り、寝るとき身体をおおう夜具、

で(広辞苑)、雅亮(満佐須計 まさすけ)装束抄(平安時代末期の有職故実書)には、

御衾は紅の打たるにて、くびなし、長さ八尺、又八幅か五幅の物也、

とあるように(一幅(ひとの)は鯨尺で一尺(約37.9センチ))、

八尺または八尺五寸四方の掛け布団、袖と襟がない、

とある(岩波古語辞典)が、

綿を入れるのが普通で、袖や襟をつけたものもある(日本語源大辞典)とある。そうなると、袖のついた着物状の寝具、

掻巻(かいまき)、

に近くなる。『観普賢経冊子(かんふげんきょうさっし)』(平安時代)の図を見ると、余計にそう見える。また、

御張台(みちょうだい)に敷く衾は、紅の打(うち)で襟のついていないもの、襟にあたるところに紅練糸(ねりいと)の左右撚(よ)り糸で三針差(みはりざし)といって縫い目の間隔を長短の順に置いた縫い方をする、

ともある(雅亮装束抄)。

衾.jpg

(「衾」(観普賢経冊子) 日本語源大辞典より)

なお、紙でつくったものは、

紙衾、

といい、

民間にては、皆用ゐたりとぞ、

とある(大言海)。

和名類聚抄(平安中期)に、

衾、布須萬、

類聚名義抄(11~12世紀)に、

衾、ふすま、被、フスマ、

とあり、その語源は、

臥裳(ふすも)の転かと云ふ、或いは、臥閒(ふすま)の衣の略(大言海)、
フスモ(臥裳・臥衣)の転(箋注和名抄・言元梯・名言通・和訓栞)、
フシマトフ(臥纏)の義(日本釈名・東雅)
伏す+間+着の略(日本語源広辞典)、
含ス+マ(もの)、含んで包み隠す意(仝上)、

と、その使用実態からきているように見える。

その「衾」に由来するらしいのが、

木で骨を組み、両面から紙や布を貼ったもの。部屋の仕切り、防寒等のためのもので、夏は風を通すために取り外すこともある、

という(広辞苑)、

襖(ふすま)、

である。

襖障子、

というが、

衾障子の義、

ともあり(大言海)、

唐紙障子、

略して、

からかみ、

ともいう。嬉遊笑覧(江戸後期)に、

古の障子と云へるは、多くは、衾障子のことにて、今いふ障子は明り障子なり、さて又ふすま障子といふよしは、衾をひろげたらんやうに張りたる故なり、

とあり、さらに、

衾障子も、今はふすま、又はただ唐紙にて通用す、

とあり、江戸時代中期編纂の日本の類書(百科事典)『和漢三才図絵(わかんさんさいずえ)』(寺島良安)には、

寝間(ふすま)障子、以障子格両面張塞、不見明、而可以隔寝間及防風、又有鈕鐉(ヒキテカキガネ)而可禦盗、

とあり、

障子という言葉は中国伝来であるが、「ふすま」は唐にも韓にも無く、日本人の命名である、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%96。「ふすま障子」が考案された初めは、御所の寝殿の中の寝所の間仕切りとして使用され始め、寝所は、

衾所(ふすまどころ)、

といわれたとあり(仝上)、「衾」は元来「ふとん」「寝具」の意である。このため、

衾所の衾障子、

と言われた(仝上)。だから、「襖」を、

カミフスマ(紙衾)に似るより云ふとか、或いは衾に代へて寒さを防ぐ意か(大言海)、
臥ふす間の意(広辞苑)、
伏す間、襖障子の略(日本語源広辞典)、
含す+ま(もの)(仝上)、

と、「襖」も、「衾」とのかかわりをみるのは当然に見える。また、

ふすま障子の周囲を軟錦(ぜんきん)と称した幅広い縁を貼った形が、衾の形に相似していた、

ところからも、

衾障子、

と言われたとする説もある(仝上)。「襖」の字を当てたのは、「襖」が、

衣服のあわせ、綿いれ、

の意で、襖の原初の形態は、

板状の衝立ての両面に絹裂地を張りつけたものであった、

と考えられる(仝上)。この両面が絹裂地張りであったことから「ふすま」の表記に「襖」を使用した、と見なしている(仝上)。

襖(奥の間) (2).jpg


当初は、「襖」が考案された当初、表面が絹裂地張りであったため、

襖障子、

と称されたが、のちに、唐紙が伝来して障子に用いられて普及していく。そこで、本来別ものの、

襖障子、

と、

唐紙障子、

が混同され、絹張りでない紙張り障子も襖と称されていった(仝上)とある。

「襖」 漢字.gif


「襖」(オウ・アウ)については、「襖(あを)」http://ppnetwork.seesaa.net/article/491799848.html?1664133764で触れた。

「衾」 漢字.gif

(「衾」 https://kakijun.jp/page/E5CE200.htmlより)


「衾」 説文解字・漢.png

(「衾」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A1%BEより)

「衾」(漢音キン、呉音コン)は、

会意兼形声。「衣+音符今(とじあわせる、ふさぐ)で、外気と体との間をふさいで体温をたもつ夜着、

とあり(漢字源)、

寝る時に被る大きい夜着、転じて、かけぶとん、

の意である(仝上)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:ふすま
posted by Toshi at 04:34| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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