「ふすま」に当てる漢字は、
襖障子、唐紙の意の、
襖、
かつての寝具で、掛け布団のように体にかける、
衾、
被、
小麦を製粉したときに篩い分けられる皮の屑の意の、
麩、
麬、
がある。「麩」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/471767846.html)については触れたが、この語源が、
中国語で麩fuはフスマで、小麦粉を取った屑皮の部分をいう。中国から僧侶が麩を伝えてきたとき、その名も音もそのまま日本のものとした、
とある(たべもの語源辞典)が、それを「ふすま」と呼んだについては、
麦の被衾(ふすま)の義か(大言海)、
含ス+マ(もの)、内容物を含むもの、つまり胚芽を中に包んでいたものの意(日本語源広辞典)、
と、「衾」との関りから類推したらしい、と思わせるところがあり、「衾」との関連が深い。
(「衾」(和漢三才図会) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%BEより)
「衾」は、
被、
とも当てるように、
御ふすままゐりぬれど、げにかたはら淋しき夜な夜なへにけるかも(源氏物語)、
と、
布などで作り、寝るとき身体をおおう夜具、
で(広辞苑)、雅亮(満佐須計 まさすけ)装束抄(平安時代末期の有職故実書)には、
御衾は紅の打たるにて、くびなし、長さ八尺、又八幅か五幅の物也、
とあるように(一幅(ひとの)は鯨尺で一尺(約37.9センチ))、
八尺または八尺五寸四方の掛け布団、袖と襟がない、
とある(岩波古語辞典)が、
綿を入れるのが普通で、袖や襟をつけたものもある(日本語源大辞典)とある。そうなると、袖のついた着物状の寝具、
掻巻(かいまき)、
に近くなる。『観普賢経冊子(かんふげんきょうさっし)』(平安時代)の図を見ると、余計にそう見える。また、
御張台(みちょうだい)に敷く衾は、紅の打(うち)で襟のついていないもの、襟にあたるところに紅練糸(ねりいと)の左右撚(よ)り糸で三針差(みはりざし)といって縫い目の間隔を長短の順に置いた縫い方をする、
ともある(雅亮装束抄)。
(「衾」(観普賢経冊子) 日本語源大辞典より)
なお、紙でつくったものは、
紙衾、
といい、
民間にては、皆用ゐたりとぞ、
とある(大言海)。
和名類聚抄(平安中期)に、
衾、布須萬、
類聚名義抄(11~12世紀)に、
衾、ふすま、被、フスマ、
とあり、その語源は、
臥裳(ふすも)の転かと云ふ、或いは、臥閒(ふすま)の衣の略(大言海)、
フスモ(臥裳・臥衣)の転(箋注和名抄・言元梯・名言通・和訓栞)、
フシマトフ(臥纏)の義(日本釈名・東雅)
伏す+間+着の略(日本語源広辞典)、
含ス+マ(もの)、含んで包み隠す意(仝上)、
と、その使用実態からきているように見える。
その「衾」に由来するらしいのが、
木で骨を組み、両面から紙や布を貼ったもの。部屋の仕切り、防寒等のためのもので、夏は風を通すために取り外すこともある、
という(広辞苑)、
襖(ふすま)、
である。
襖障子、
というが、
衾障子の義、
ともあり(大言海)、
唐紙障子、
略して、
からかみ、
ともいう。嬉遊笑覧(江戸後期)に、
古の障子と云へるは、多くは、衾障子のことにて、今いふ障子は明り障子なり、さて又ふすま障子といふよしは、衾をひろげたらんやうに張りたる故なり、
とあり、さらに、
衾障子も、今はふすま、又はただ唐紙にて通用す、
とあり、江戸時代中期編纂の日本の類書(百科事典)『和漢三才図絵(わかんさんさいずえ)』(寺島良安)には、
寝間(ふすま)障子、以障子格両面張塞、不見明、而可以隔寝間及防風、又有鈕鐉(ヒキテカキガネ)而可禦盗、
とあり、
障子という言葉は中国伝来であるが、「ふすま」は唐にも韓にも無く、日本人の命名である、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%96)。「ふすま障子」が考案された初めは、御所の寝殿の中の寝所の間仕切りとして使用され始め、寝所は、
衾所(ふすまどころ)、
といわれたとあり(仝上)、「衾」は元来「ふとん」「寝具」の意である。このため、
衾所の衾障子、
と言われた(仝上)。だから、「襖」を、
カミフスマ(紙衾)に似るより云ふとか、或いは衾に代へて寒さを防ぐ意か(大言海)、
臥ふす間の意(広辞苑)、
伏す間、襖障子の略(日本語源広辞典)、
含す+ま(もの)(仝上)、
と、「襖」も、「衾」とのかかわりをみるのは当然に見える。また、
ふすま障子の周囲を軟錦(ぜんきん)と称した幅広い縁を貼った形が、衾の形に相似していた、
ところからも、
衾障子、
と言われたとする説もある(仝上)。「襖」の字を当てたのは、「襖」が、
衣服のあわせ、綿いれ、
の意で、襖の原初の形態は、
板状の衝立ての両面に絹裂地を張りつけたものであった、
と考えられる(仝上)。この両面が絹裂地張りであったことから「ふすま」の表記に「襖」を使用した、と見なしている(仝上)。
当初は、「襖」が考案された当初、表面が絹裂地張りであったため、
襖障子、
と称されたが、のちに、唐紙が伝来して障子に用いられて普及していく。そこで、本来別ものの、
襖障子、
と、
唐紙障子、
が混同され、絹張りでない紙張り障子も襖と称されていった(仝上)とある。
「襖」(オウ・アウ)については、「襖(あを)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/491799848.html?1664133764)で触れた。
(「衾」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A1%BEより)
「衾」(漢音キン、呉音コン)は、
会意兼形声。「衣+音符今(とじあわせる、ふさぐ)で、外気と体との間をふさいで体温をたもつ夜着、
とあり(漢字源)、
寝る時に被る大きい夜着、転じて、かけぶとん、
の意である(仝上)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95