2022年09月29日
らふたく
女臈の容儀、美しいともいはんかたなくらうたきが、髪はながながと押下げ、眉太うはかせ、数々の衣装、七つ八つ引きかさね給ひ、てぶり(=てぶら 素手)の手をさしのべ(義殘後覚)、
とある、
らうたき、
は、
上品、優美なさま、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。因みに、「手ぶり」は、
手振り、
と当て、この訛りが、
てぶら、
つまり、
素手、
の意である。文語で、
らふたく、
は、現代語では、
ろうたける、
となり、
臈(﨟)長く、
臈(﨟)闌く、
と当てる(岩波古語辞典)。「臈」は、
﨟、
と同じで、異体字、
臘、
が正字とあり(字源)、
﨟、
臈、
は俗字とあり(仝上・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%87%88)、現代中国の簡体字では、
腊、
と書く(仝上)。
唐代、7、8世紀の『干禄字書(かんろくじしょ)』に、
臘、俗作﨟、
とある。「臘」は、古代中国の、
冬至後、第三戌の日の祭、転じて年の意となる、
とある(大言海)。それを、
臘祭(蜡祭)、
といい、
その年に生じた百物を並べまつって年を送る祭、
とあり、
臘月(ろうげつ)、
と、
臘祭は年末に行ふ、故に陰暦十二月の異名、
でもある(漢字源)。また「臈」は、
年の意、
に転じたこともあり、
我生五十有七矣、僧臘方十二(太平廣紀)、
とあるように、
僧臘(そうろう)、
法臘(ほうろう)、
夏臘(げろう)、
戒臘(かいろう)、
などと、
僧の得度以後の年数を数ふる、
にも云ふ(字源・漢字源・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%98)。
出家する者、髪を剃り受戒してより、一夏九旬の閒、安居(あんご)勤行(ごんぎょう)の経るを云ふ、これを、年﨟、法﨟、僧﨟、戒﨟などといふ、僧の位は受戒後の﨟の數に因りて次第す、之を﨟次(らふじ)と云ふ(僧の歳を記するに、俗年幾許、法臘幾許と云ふ、臘は安居の功(安居の功は、陰暦4月16日から7月15日までの3か月間の修行、この期間を一夏(いちげ)という)より數ふ)、又、在俗の人にも、年功を積むことに称ふ。極﨟(きょくろう・ごくろう)、上﨟、中﨟、下﨟と云ふは、上位、中位、下位と云ふが如し、
とあり(大言海・デジタル大辞泉)、そこから、身分の高きを、
上﨟、
といい、さらに、転じて、
女房の通称、
として、
二位、三位の典侍、
といい、公卿の女を、
小上﨟、
と云ふ(大言海)とある。「女房」は、
「房」は部屋、
の意で、
宮中・院中に仕える女官の賜っている部屋、
の意味から、
一房を賜っている高位の女官、
で、
上﨟・中﨟・下﨟の三階級、
がある。その意味で、「﨟」は、年功を積んで得た、
序列、
階級、
地位、
の意味に転じ、
すぐれた御﨟どもに、かやうの事はたへぬにやありむむ(源氏物語)、
と、
年功のある人、
の意でも使う(広辞苑・岩波古語辞典)。
「ろうたく」の「たく」は、「たけ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461350623.html)で触れたように、「たく(長く・闌く)」は、
タカ(高)の動詞化、
で、
高くなる、
意であり(岩波古語辞典)、単に物理的な長さ、高さだけではなく、時間的な長さ、高まりも指し、「たけなわ」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/456786254.html)で触れたように、
長く(タク)は、高さがいっぱいになることの意で使います。時間的にいっぱいになる意のタケナワも、根元は同じではないかと思います。春がタケルも、同じです。わざ、技量などいっぱいになる意で、剣道にタケルなどともいいます、
という意も持つ(日本語源広辞典)。だから、
タカ(高)と同根。高い所の意、
である、
たけ(岳・嶽)、
ともほぼ重なる。その意味では、「たけ(茸)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461300903.html?1535312164)とも、「たけ(竹)」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/461199145.html)とも重なって、長さ、髙さ、という含意を込めていたのではないか、と思える。だから、
たける(たく)、
は、
高くなる、
盛りになる、
という意味をメタファに、
坂東育ちの者にて、武勇の道にたけて候へ(保元物語)、
と、
(一つのことに)長ずる、
という意になり(岩波古語辞典)、
西大寺の静然上人、腰かがまり眉白く、まことに徳たけたる有りさまにて(徒然草)、
と、
円熟する、
熟達する、
意でも使う(広辞苑)。
そうみると、
ろうたく(ろうたける)、
は、直接的には、「臘」の、
僧侶が受戒した後に安居の功+積んだ年数(たけた)、
となり(日本語源広辞典)、
らふたけて来ておいらんの苦労なり(誹風柳多留)、
と、
年功を積む、経験を重ねる、
意(広辞苑)だけでなく、
この薄の歌は、すけまさが「なびく」「まねく」と言ひたるわたり、らふたけたるやうなり(源順集)、
と、
年功を積み、物事に巧みになる、
という意(岩波古語辞典)になる。それが、女性に転用されると、
いか程にもらふたけて劫いりたるやうにみえて(風姿花伝)、
と、
洗練されて上品である、
意で使われる(仝上)
「臈(﨟・臘)」(ロウ)は、
会意兼形声。巤は、動物のむらがりはえた頭上の毛の総称で、多く集まる意を含む。臘はそれを音符とし、肉を添えた字で、百物を集めてまつる感謝祭である、
とある(漢字源)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
樹藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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