2022年10月04日
目かれ
かばかりに尋常に優しくは有るらんと、見れども見れども目かれせず。かくて舞を始めけるに、面白さ云はん方なし(「義殘後覚(ぎざんこうかく)」)、
とある、
目かれせず、
は、
見あきない、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「目かれ」は、
めかる、
の、
名詞形、
だと思う。「めかる」は、
目離る、
と当て、
見る目を離(か)るる義、
と、
目、離(はな)る、
ことで(大言海)、ラ行下二段活用、
語幹 か
未然形 れ
連用形 れ
終止形 る
連体形 るる
已然形 るれ
命令形 れよ
の、連用形の名詞化と思われる。「めかれ」は、
めかるとも、思ほえなくに、忘らるる、時し無ければ、面影に立つ(伊勢物語)、
と、
見ることを止む、
意で、そこから、
さしならびめかれず見奉り給へる年頃よりも(源氏物語)、
と、
疎遠になる、
意でも使う(岩波古語辞典)。で、名詞形でも、
思へども身をし分けねばめかれせぬ雪のつもるぞわが心なる(伊勢物語)、
と、
見る人のなくなること(大言海)、
あるいは、
関係の深い人や物から離れて、それを見ずにいること(岩波古語辞典)、
あるいは、
会わないでいること、疎遠になること(学研全訳古語辞典)、
の意で使う。その意味では、
目かれせず、
を、
見あきない、
意としたのは、
目を離さない→目を離せない→見飽きない、
とかなりの意訳になる。
ところで、「離る」は、「かる」以外に、
あかる(離る・別る 自・ラ行下ニ段 散り散りになる、別々になる)
ある(散る・離る 自・ラ行下ニ段 あらける(散ける・粗ける)、離れ離れになる。遠のく、うとくなる)、
さかる(離る・放る 自・ラ行四段 「さく(離)」に対する自動詞、離れる、へだてる、間遠くなる、遠ざかる)、
はなる(離る・放る 自ラ下二・はなれる、自ラ四下二段活用より古い活用とも、上代東国方言とも 離れる)、
等々とも読ませるが、意味は、「はなればなれ」「離れる」と、「離」の含意の内に収まっているようだ。
「離る(かる)」は、
切るると通ず(大言海)、
「か(涸・枯)れる」と同源(広辞苑・日本国語大辞典)
と、分かれるが、
空間的・心理的に、密接な関係にある相手が疎遠になり、関係が絶える意。多くの歌に使われ、「枯れ」と掛詞になる場合が多い。類義語アカルは散り散りになる意、ワカルは一体となっていたものごと・状態が、ある区切り目をもって別の者になる意、
とある(岩波古語辞典)が、原意の、
切るると通ず(大言海)、
から、「枯れる」に掛けられるに至ったのではあるまいか。で、
朝に日(け)に見まく欲(ほ)りするその玉をいかにせばかも手ゆ離(かれ)ずあらむ(万葉集)、
宿をばかれじと思ふ心深く侍るを(源氏物語)、
と、
空間的に遠くなる、離れる、
意と、それをメタファに、
珠に貫(ぬ)く楝(あふち)を家に植ゑたらば山霍公鳥(ホトトギス)可礼(カレ)ず来むかも(万葉集)、
山里は冬ぞさびしさまさりける人めも草もかれぬと思へば(古今集)、
と、
時間的、心理的に遠くなる、間遠になる。また、関係が絶える、
意で使う(日本国語大辞典)。
「離」(リ)は、
会意。離は「隹(とり)+大蛇(「离」は大蛇)の姿(それの絡んだ形)」で、蛇と鳥が組つ離れつ争うことを示す。ただしふつうは麗(きれいに並ぶ)に当て、二つ並んでくっつく、二つ別々になるの意をあらわす、
とある(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9B%A2)。別に、
形声。隹と、音符(チ、リ)とから成る。の意を表す。借りて「はなれる」意に用いる、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(离+隹)。「頭に飾りをつけた獣」の象形と「尾の短いずんぐりした小鳥」の象形から、「チョウセンウグイス」の意味を表したが、「列・刺」に通じ(「列・刺」と同じ意味を持つようになって)、切れ目を入れて「はなす」を意味する「離」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1304.html)ある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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