2022年10月12日

肝胆


其の時、僧肝胆を砕き、祈らるるとき、かの女房の口より、赤き蛇一すぢ這い出て(善悪報ばなし)、

にある、

肝胆を砕く、

は、

精魂こめて、

の意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。

摧肝胆、住悪心、偏忘他事、有御念願(『玉葉(1186)』)、
山王大師に百日肝胆(カンタン)を摧(クタイ)て祈申ければ(平家物語)、

などと、

肝胆を摧く

とも当てるが、

懸命になって物事をする、
心を尽くす、

意である(精選版日本国語大辞典)。あるいは、

真心を尽くす、

意ともある(大言海)。

「肝胆」は、

肝(きも)と胆(い)、

つまり、

肝臓と胆嚢、

の意で、転じて、

心の中、
心の底、

また、

誠の心、

の意で使う(日本国語大辞典)。

肝腎、

も、

肝臓と腎臓、

の意で、転じて、

心を云ふ、

とあり(字源)、

肝心(かんじん)、

と同義で、

揚雄平生學、肝腎困雕鐫(チョウセン 彫り刻む)(陳與義)、

と、

肝要、

の意で、

物事の主要なるに喩ふ、

とある(仝上)。

(肝腎は)肝心(きもこころ)の音読みか、人体の至要なるものなれば、挙げて云ふにか、肝胆、肺肝など云ふも同じ、

とある(大言海)。

「肝胆」を使った成句は多く、

肝胆相照(肝胆相照らす)、

は、

握手出肝胆相示(韓愈・柳子厚墓誌銘)、

と、

互いに心を示して隠す所なし、

の意である(字源)。

肝胆傾(肝胆傾く)、

は、

江湖一見十年舊、談笑相逢肝胆傾(曾鞏詩)、

と、

まごころを傾け尽す、

意である(仝上)。

披肝胆(肝胆を披(ひら)く)、

は、

披肝胆、決大計(漢書・路温舒傳)、

と、

まごころを打ち明ける、

意で、

披肝(肝を披(ひら)く)、

と同義である。

肝胆楚越(肝胆も楚越)、

は、

自其異者視之、肝胆楚越也。自其同者視之、万物皆一也(荘子)、

に由来し、

物は見方によりて、肝胆の如く密接せるものも、楚越の如くに遠く隔たる、

意で、

見方によっては近い関係にあるものも遠く、遠いものも近く見える、

に喩える(仝上・日本国語大辞典)。

肝胆地塗(肝胆地(ち)に塗(まみ)る)、

は、

使天下之民肝脳地塗、父子暴骨中野(史記・劉敬傳)、

と、

肝脳地塗(肝脳地(ち)に塗(まみ)る)、

と同義で、

惨殺せられて肝臓や脳が地にまみれる、

意である(字源・精選版日本国語大辞典)。

肝胆寒し、

は、

敵の肝胆を寒からしむ、

などと使い、

怖れてぞっとする、

意である(広辞苑)。

肝胆を砕く、

は、

肝胆を出(い)だす、

ともいい、

心労のかぎりをつくす、
心を尽くす、

意である(仝上)。

「肝」 漢字.gif


「肝」(カン)は、

会意兼形声。干(カン)は、太い棒を描いた象形文字。幹(カン みき)の原字。肝は「肉+音符干」で、身体の中心となる幹(みき)の役目をする肝臓。樹木で、枝と幹が相対するごとく、身体では、肢(シ 枝のようにからだに生えた手や足)と肝とが相対する、

とある(漢字源)。

形声文字です(月(肉)+干)。「切った肉」の象形と「先がふたまたになっている武器」の象形(「おかす・ふせぐ」の意味だが、ここでは「幹」に通じ、「みき」の意味)から、肉体の中の幹(みき)に当たる重要な部分、「きも」を意味する「肝」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji291.html

「胆」 漢字.gif



「膽」 漢字.gif

(「膽」 https://kakijun.jp/page/E45B200.htmlより)

「胆(膽)」(タン)は、

形声。詹(セン・タン)は、「高いがけ+八印(発散する)+言」の会意文字。瞻(セン 高い崖の上から見る)、譫(セン 上ずったでたらめを言う)などの原字。膽は、それを単なる音符として加えた字で、ずっしり重く落ち着かせる役目をもつ内臓。胆は、もとあぶら・口紅の意だが、今は、膽に代用する、

とあり(漢字源)、別に、

会意兼形声文字です(月(肉)+旦(詹))。 「切った肉」の象形と「屋根の棟(最も高い所)から、ひさし(屋根の下端で、建物の壁面より外に突出している部分)に流れる線の象形と音響の分散を表した文字と取っ手のある刃物の象形と口の象形」(「くどくど言う」の意味だが、ここでは、「ひさし」の意味)から、肝臓をひさしのようにして位置する器官、「きも」を意味する「膽」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji292.htmlが、「胆」と「膽」の由来を区別し、「胆」は、

形声。肉と、音符旦(タン)とから成る。はだぬぐ意を表す。もと、但(タン)の別体字。一説に、膻(タン)の俗字という、

とし、「膽」は、

形声。肉と、音符詹(セム→タム)とから成る。「きも」の意を表す。古くから、膽の俗字として胆が用いられていた、常用漢字はこれによる、

と説明するものもある(角川新字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 04:25| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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