2022年10月13日

梁塵


梁塵、

とは、文字通り、

建物の梁(はり)の上につもっている塵(ちり)、

の意だが、

虞公韓娥といひけり。こゑよく妙にして、他人のこゑおよばざりけり。きく者めで感じて、涙おさへぬばかりなり。うたひける聲のひびきにうつばりの塵たちて、三日ゐざりければ、うつばりのちりの秘抄とはいふなるべし、

と、

梁塵秘抄、

となづけた所以を書いている(梁塵秘抄)通り、

舞袖留翔鶴、歌声落梁塵(「懐風藻(751)」)、

と、

梁塵を動かす、
梁(うつばり)の塵を動かす、
梁(うつばり)の塵も落ちる、

という故事を生んだ、

歌う声のすぐれていること、
素晴らしい声で歌うこと、

の意、転じて、

音楽にすぐれている、

の意で使われる(広辞苑)。これは、『文選』(もんぜん 南北朝時代の南朝梁の昭明太子蕭統によって編纂された詩文集)の成公綏「嘯賦」の李善注に引く、劉向の「七略別録」に、

劉向別録曰……漢興以来善雅歌者、魯人虞公、発声清哀、遠動梁塵(文選)、

と、みえる故事に由来する(故事ことわざの辞典)。

虞公(ぐこう)、

は、

善く歌するに魯人あり。發聲哀、歌梁塵を動かす、

と評されるほど、中国漢代、美声で知られたらしい。

虞公韓娥、

と併記される美声が、

韓娥(かんが)、

という人で、

昔韓娥東之齊、匱糧、過雍門、鬻歌假食、既去、而餘音繞梁欐、三日不絶(列子)、

と、虞公の上を行き、

既に去りて、餘音梁欐を繞(めぐ)り、三日絶えず、

とあるほどの、

古の歌伎の名、

とある(字源・字通)。

余音(よいん)、梁欐(りょうれい)を繞(めぐ)りて三日絶えず、

もまた、故事となっており、ここから、

繞梁(ぎょうりょう)、

という言葉も、

歌声のすぐれて妙なるに云ふ、

意で使う(字源)。

似た故事に、

遏雲(あつうん)、

がある。これも、

薛譚(せつたん)學謳於秦靑(しんせい)、未窮靑之技、自謂蓋之矣、遂辭歸、秦靑弗止、餞於郊衢撫節悲歌、聲振林木、響遏行雲、薛譚乃謝、求反、終身不敢言歸(列子)、

の、

餞於郊衢撫節悲歌、聲振林木、響遏行雲(郊衢に餞(はなむけ)し、節を撫して悲歌す。聲は林木に振ひ、聲は行雲を遏(とど)む)、

と、秦靑の餞けの歌声が、

響遏行雲、

に依っている(字源・故事ことわざの辞典)。

流れる雲もとどまるほどの妙曲、

の意で、

遏雲(あつうん)の曲、
雲を遏(とど)め梁を遶(めぐ)る、

という言い方もするようだ。

「梁」 漢字.gif



「梁」 金文・西周.png

(「梁」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A2%81より)

「梁」(漢音リョウ、呉音ロウ)は、

会意。もと「水+両側に刃のついた刀の形」からなる会意文字。のちさらに木を加えた。左右の両岸に支柱を立て、その上にかけた木の橋である。両岸にわたるからリョウといい、両と同系、

とある(漢字源)。別に、

会意文字です(氵(水)+刅+木)。「流れる水」の象形と「水の流れを石でせきとめた」象形と「大地を覆う木」の象形から、「やな(木や石で水流をせきとめて、一か所だけ流れるようにして魚を捕える仕掛け)」を意味する「梁」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2515.html

「塵」  漢字.gif


「塵」(漢音チン、呉音ジン)は、

会意文字。「鹿+土」で、鹿の群れの走り去った後に土ぼこりが立つことを示す。下にたまる、ごく小さい粉のこと、

とある(漢字源)。

参考文献;
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:35| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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