2022年10月18日

窈窕


双頭の牡丹灯を肩にかかげて先に行けば、後に窈窕(ようじょう)たる美女一人従つて、西に行く(奇異雑談集)、

にある、

窈窕、

は、

美しくたおやかなさま、原字左訓「みやびめ」、

とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。

「窈窕」は、ふつう、

ようちょう、

と訓ませる(広辞苑)。「窈窕」を、

ヨウジョウ、

と訓ませるのは、「窕」の呉音である。

「嬋娟」http://ppnetwork.seesaa.net/article/486699363.htmlで触れたように、

白楽天の詩に、

嬋娟雨鬢秋蝉翼
宛轉雙我遠山色
笑随戯伴後園中
此時興君未相識(新楽府・井底引銀瓶)、

とある、

「嬋娟」と併記して、

嬋娟窈窕(嬋妍窈窕)、

と使う。「窈窕」の「窈」は、「奥深し」「静香」「うるわし」「しとやか」、「窕」は、「美しい」「器量が良い」「奥ゆかしい」「静か」「ふかい」といった意味(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%AA%88%E7%AA%95)なので、

窈窕淑女、君子好逑(詩経)、

と、

美しく嫋(たお)やかなさま、

の意だが、これは、

云有第三郎、窈窕世無雙(古詩)、

と、

男子のしとやかなるさま、

にもいい(字源)、

入則亂髪壊形、出即窈窕作態(入りては則ち髮を亂し形を壞(やぶ)り、出でては則ち窈窕として態を爲す)(後漢書・列女傳)、

と、

艶めきたる貌、

に特定しても使う(仝上)が、

既窈窕以尋壑、亦崎嶇而経丘(陶淵明・帰去来辞)

と、

山水などの奥深いさま、

にもいう(仝上)。その漢語の意味のまま、

三千の美人君の命に依て戦ひを習はす戦場へ出たれども、窈窕(ようてう)たる婉嫋(えんじゃく)、羅綺(らき)にだもたへざる体(てい)なれば(太平記)、

と、

しとやかで奥ゆかしいさま、
美しくたおやかなさま、
上品なさま、
また、
そのような美女、

の意や、

詩のこころは、松桂の、しげりたる中に、ある寺なれば、窈窕と、をくふかふして、一点の塵埃をも、ひくことは、ないぞ(「三体詩素隠抄(1622)」)、

と、

山水などの奥深いさま、

の意でも使う(精選版日本国語大辞典)。

なお、

窈窕ぶ、

を、

時に彼の妻紅の襴染(すそぞめ)の裳を著て窈窕(サビ)(日本霊異記)、

と、

さふ、

と訓ませ、

しなやかで美しくふるまう、
奥ゆかしくふるまう、

意で使う例がある(精選版日本国語大辞典)が、

「古び、さびれる」の「さびる(寂)」から、(古びて)しっとりとした味わいを持つのように変化した語か、

とある(仝上)。で、そこから、

此ほとりなるさぶるこ(遊女)にたはれて(「こがねぐさ(1830頃)」)、

と、

さぶる児、

という使い方もあるらしい。

動詞「さぶ」は「霊異記」の「窈窕」について興福寺本訓釈に二字あわせて「佐備」とあるところから「しなやかで美しくふるまう」の意とされる、

とあり、

「さぶる」は、上二段動詞「さぶ」の連体形。しなやかな美女の意、

で、

うかれめ、
遊女、
さぶるおとめ、

の意とされる(仝上)。

南風(みなみ)吹き雪消溢(はふ)りて射水川(いみづかは)流る水沫(みなわ)の寄る辺(へ)なみ左夫流其児(さぶるそのこ)に(万葉集)、

には、

言佐夫流者遊行女婦之字也、

と注があり、その反歌の一首、

里人の見る目恥づかし左夫流児(さぶるこ)にさどはす君が宮出(みやで)後風(しりぶり)、

と、

遊女の名、

として用いられている(仝上)。どうも、

窈窕ぶ、

と、

さぶる児、

の「さぶ」とは、意味から見ても、得んがりそうにも見えるが、由来が違う気がしてならない。

「窈」 漢字.gif


「幺」 漢字.gif



「幺」 金文・西周.png

(「幺」 金文・ https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B9%BAより)

「窈」(ヨウ)は、

会意兼形声。幺(ヨウ)は、細くしなやかな糸を描いた象形文字。幼はそれに力を加え、力のか細いことを示す。窈は「穴(あな)+音符幼」で、穴が奥深くて、かすかなこと、

とある(漢字源)。「ふかし」「おくぶかし」「しずか」「深く遠し」「うるはし」「ウルハシキ心」といった意味を持つ(字源)。

「窕」 漢字.gif


「窕」(漢音チョウ、呉音ジョウ)は、

形声。兆は、二つにわかれることで、この場合は、単なる音符。窕は「穴+音符兆」、

とあり(漢字源)、「うつくしく、よし」「おくゆかし」「しとやか」「しずか」「ほそし」「ものさびし」「遥かに遠き貌」(杳窕)といった意味がある(字源)。

参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:48| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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