2022年11月04日
目見(まみ)
光り出づるばかりに麗はしきが、目見(まみ)気高く、容貌(かたち)たをやかに、袖の薫りの香ばしさ(伽婢子)、
にある、
目見、
は、
目の表情、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「ま」は、
目(め)の古形、
で、
いづくより来りしものそまなかひ(目交)にもとなかかりて安眠(やすい)しなさぬ(山上憶良)、
などと、
まつ毛、
まな子、
まな尻、
等々、
他の語について複合語を作る、
とあり(岩波古語辞典)、「まみ」は、
目を上げて見る目色、
とある(大言海)。で、
大船を荒海(あるみ)に漕ぎ出でや船たけ吾が見し子らが目見(まみ)は著(しる)しも(万葉集)、
と、
物を見る目つき、
まなざし、
の意から、
所々うち赤み給へる御まみのわたりなど(源氏物語)、
と、
目もと、
の意であるが、
内の御めのとの吉田の前大納言定房、まみいたう時雨たるぞあはれに見ゆる(増鏡)、
と、
目、
まなこ、
ひとみ、
と、「目」そのものをも指して使われる(精選版日本国語大辞典)。
「目見」は、
めみえ、
と訓ますと、
目見得、
とも当て、
御目見(おめみえ 御目見得)を許される、
というように、
主君・長上者にお目にかかること、
謁見、
の意であり、近世になると、
めみえの間、衣類なき人は、借衣装自由なる事なり(西鶴・好色一代女)、
と、
奉公人が雇い主に初めて会い、奉公契約するまで試験的に使われる、
意で使い(岩波古語辞典)、さらに、
お玉にめみえをさせると云うことになって(鴎外「雁」)、
と、
芸者や妾めかけになること、
また、
芸者や妾として主人に初めてあいさつをすること、
の意でも使う(精選版日本国語大辞典)。
「めみえ」は、
目見(みみえ)の転、目は逢ふこと、
とあり(大言海)、
目見(まみ)ゆ、
の転訛ではあるまいか。「まみゆ」は、
「ま」(目)+「みゆ」(見ゆ)、
とあり、
見(まみ)ゆ、
と当てる(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%BE%E3%81%BF%E3%82%86)。この名詞形が、
まみえ、
で、
見え、
目見え、
と当て、
我東海の公にまみえて(今昔物語)、
と、
お目にかかる、
意で、さらに、
まみえ・有様、まことに賢くやんごとなき僧(元和寛永古活字本撰集抄)、
と、
目つき、
また、
顔つき、
の意でも使う(精選版日本国語大辞典)。
なお、「目見」を、
めみせ、
と訓ませると、
扨殿の御目(メ)みせよければ横平なる事あり(浮世草子「男色十寸鏡」)、
と、
かわいがり、ひいきにすること、
目をかけること、
の意や、その意味するから、当然ながら、転じて、
テカケ memixe(メミセ)(「ロドリゲス日本大文典(1604~08)」)、
と、
妾、そばめ、
の意で使う。これは、「めみえ」が、
芸者や妾めかけになること、
や、
芸者や妾として主人に初めてあいさつをすること、
の意があることと対になっているように思う。
さらに、「目見」を、
もっけん、
と訓ませる場合があり、これは、近代になってから、
其土地を目見(モクケン)するにあらでは詩文の趣興も浮みがたきと云は(「授業編(1783)」)、
と、
耳聞、
の意で使っている。これは「まみ」のもつ意味の流れとは乖離して、漢字「目見」の意味からの連想に思える。その流れの前段に、近世、「目見」を、
めみ、
と訓ませ、
勝手から人の来る目見(メミ)をしてゐるうちに(浮世草子「傾城歌三味線(1732)」)、
私が目見(めみ)を付けて置くからお前のなさる事はみんな通じますよ(滑稽本「古今百馬鹿(1814)」)、
と、
よく見ること、
見張ること、
また、
それをする人、
の意で使っていることがある(精選版日本国語大辞典)。この「めみ」は、
めしろ、
と同義で、「めしろ」は、「目代」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/492591058.html?1665863225)で触れたように、
監視、
目付、
の意で使う(江戸語大辞典)。
「目」(漢音ボク、呉音モク)は、「尻目」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/486290088.html)で触れたように、
象形。めを描いたもの、
であり(漢字源)、
のち、これを縦にして、「め」、ひいて、みる意を表す。転じて、小分けの意に用いる、
ともある(角川新字源)。
「見」(漢音呉音ケン、呉音ゲン)は、
会意文字。「目+人」で、目立つものを人が目にとめること。また、目立って見える意から、あらわれる意ともなる、
とある(漢字源)。別に、
会意。目(め)と、儿(じん ひと)とから成る。人が目を大きくみひらいているさまにより、ものを明らかに「みる」意を表す(角川新字源)、
会意(又は、象形)。上部は「目」、下部は「人」を表わし、人が目にとめることを意味する(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A6%8B)、
会意文字です(目+儿)。「人の目・人」の象形から成り立っています。「大きな目の人」を意味する文字から、「見」という漢字が成り立ちました。ものをはっきり「見る」という意味を持ちます(https://okjiten.jp/kanji11.html)、
など、同じ趣旨乍ら、微妙に異なっているが、目と人の会意文字であることは変わらない。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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