2022年11月22日

徧参(へんさん)


其の後、徧参(へんさん)して歩きけるが、蛇守誾(しゅざん)と人々云ふ也(片仮名本・因果物語)、

にある、

徧参、

は、辞書になく、

遍参、

と当て、

あそこへここへ遍参し回って(蓬左文庫本臨済録抄)、

と、

禅僧が諸寺を行脚歴訪して参學する、

意で使うのの、当て字ではあるまいか。

「徧」 漢字.png

(「徧」 https://glyphwiki.org/wiki/u5fa7より)

「遍」(ヘン)は、

会意兼形声。「辶+音符扁(ヘン 平らかにひろがる)」、

で、「あまねく」「まんべんなくひろがる」意であり、「徧」(ヘン)は、あまり辞書に載らないが、やはり「あまねく」の意で、「周」が、

徧也、至也、密也と註す、十分に行き届く義、

に対して、「徧」は、

周と略々同じく、意やや軽し、

とあり、「遍」は、

徧に同じ、

とある(字源)。その意味では、漢字から見て、

徧参、



遍参、

は、同義と考えられる。

ところで、「徧参」との絡みで、同じく、

へんさん、

と訓み、

上半身を覆う法衣。インドの衣に由来し、左前に着る、

という(広辞苑)、

偏衫、
褊衫、

と当て、

へんざん、

とも訓ませる

左肩から右脇にかけて上半身を覆う僧衣、

がある(岩波古語辞典)。

偏衫.gif

(「褊衫」(1 褊衫、2 如法衣(にょほうえ)、3 数珠、4裙(くん 裙子くんず)https://costume.iz2.or.jp/costume/14.htmlより)

北宋初の『僧史略(大宋僧史略 だいそうそうしりゃく)』に、

後魏宮人、見僧自恣偏袒右肩、乃一施肩衣、號曰偏衫、全其両肩両袖、失祇支之體、自魏始也、

とあり、「僧祇支(そうぎし)」については、戦国時代の、『林逸(りんいつ)節用集』に、

此名、覆膊。亦なお、掩腋衣、

と注記している。

saṃkakṣikā の音訳、

で、

袈裟の下に着る腋をおおう長方形の衣。袈裟が汗などでよごれるのを防ぐ。肩にかけ、両端で左右の腋や胸・乳をおおって着る、

とある(精選版日本国語大辞典)。

覆腋衣(ふくえきえ)、
覆肩衣(ふくけんえ)、

ともいう。

インドで成立した袈裟に、さらにその下につける法衣として中国において形成された、

もので、

左肩を覆う僧支(掩腋衣)に右肩に覆肩衣が合一して、襟や袖がつけられたもの、

といわれているhttps://costume.iz2.or.jp/costume/14.html。日本では、仏教伝来当初より用いられ、

色は壊色(えじき)、背は襟下で割れ左前に着ける、

とある(仝上)。これはその成立当時の原形を留めていて、日本の服装として、

左衽(さじん)、

つまり、

衣服の右の衽(おくみ)を、左の衽の上に重ねて着る、

ひだりまえ、
ひだりえり、

のものはこれだけである(仝上)。なお、

下半身には同色の裙(くん)をつけるのが通常で、袈裟は同じく壊色(えじき)の如法衣(にょほうえ)、

で、これは、

中国伝来後吊り紐が附加されているが、この服装がインド古制に近いものと考えられていた。「律」及びこれを含む宗派に用いられ、現在もほぼ同様の形状がうけつがれている、

とあるhttps://costume.iz2.or.jp/costume/14.html

「偏」 漢字.gif

(「偏」 https://kakijun.jp/page/1109200.htmlより)

「偏」(ヘン)は、

会意兼形声。扁は「戸(平らな板)+冊(薄いたんざく)」の会意文字で、薄く平らに伸びたの意を含む。平らに伸びれば行き渡る(遍)、また周辺に行き渡ると、周辺は中央から離れるの意を派生する。偏は「人+音符扁」で、おもに扁の派生義、つまり中央から離れてかたよった意をあらわす、

とある(漢字源)。別に、

形声文字です(人+扁)。「横から見た人」の象形と「片開きの戸の象形と文字をしるしたふだをひもで編んだ象形」(「門戸に書き記した札」の意味だが、ここでは「辺(邊 ヘン)」に通じ(同じ読みを持つ「辺(邊)」と同じ意味を持つようになって)、「中心にない」の意味)から、中正でない人、すなわち、「かたよる」を意味する「偏」という漢字が成り立ちました、

との説もあるhttps://okjiten.jp/kanji2016.html

「褊」 漢字.gif

(「褊」 https://kakijun.jp/page/E5ED200.htmlより)

「褊」(ヘン)は、

会意兼形声。「衣+音符扁(ヘン うすっぺらな)」、

とあり(漢字源)、

形声文字。「衣」と音符「扁」を合わせた字で、衣服がきつく「せまい」という意味、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A4%8A

「衫」 漢字.gif

(「衫」 https://kakijun.jp/page/E5CC200.htmlより)

「衫」(漢音サン、呉音セン)は、「かざみ」http://ppnetwork.seesaa.net/article/491822373.htmlで触れたように、

会意兼形声。「衣+音符彡(サン 三。こまごまといくつもある)」、

とあり、「汗衫」(カンサン)の下着、「衫子」(サンシ)と、婦人用のツーピースの上着、「半衣」ともいう、とある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:58| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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