2022年11月24日

払子(ほっす)


牛の尾切れ落ちて、再び僧の貌(かたち)となる。其の牛の尾払子(ほっす)と作して、今に至る也(片仮名本・因果物語)、

にある、

払子、

は、

獣毛、麻などを束ね、柄を付けたもの、法会や葬儀などの時の、導師の装身具とする、

と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「払子」は、

唐音、

とある(大言海・岩波古語辞典)。「払」は、

漢音フツ、
呉音ホチ、

だが、唐音、

ホツ、

「子」は、漢音、呉音共に、

シ、

だが、唐音、

ス、

である(漢字源)。

払子2.jpg

(「払子」 広辞苑より)

もとインドで蚊や蠅を追うのに用いたが、のち法具となり、日本では禅僧が煩悩・障碍を払う標識として用いる、

とあり、和漢三才図絵には、

拂子、ホッス、ハヘハラヒ……禅僧之所重、如有得道者、師授與之拂子、以為法門之規模矣、今多用羆毛作、

とあり、

サンスクリット語のビヤジャナvyajanaの訳、

で、単に、

払(ほつ)、

あるいは、

払麈(ほっす)、

と呼び(日本大百科全書)、

白払(はくふつ・びゃくほつ)、
払塵(ふつじん)、
麈尾(しゅび・しゅみ)、

ともいう(広辞苑・デジタル大辞泉)。「麈尾」は、

「麈」は大きな鹿の意、

で、

大鹿の尾の動きに従って、他の鹿の群れが動くところから、他が従うという意を寓して、その尾にかたどって作られたという、

とある(デジタル大辞泉)。

払子3 (2).jpg

(「払子」 大辞泉より)

後世、中国・日本で、

僧が説法などで威儀を正すために用いる法具。真宗以外の各派で高僧が用いる、

とある(大辞林)。日本へは、鎌倉時代に禅宗とともに伝わった。

律云、比丘患草蟲、佛聴作拂洲子、

とあり(釋氏要覧)、。『摩訶僧祇律(まかそうぎりつ)』に、

比丘が蚊虫に悩まされているのを知った釈尊は、羊毛を撚(よ)ったもの、麻を使ったもの、布を裂いたもの、破れ物、木の枝を使ったものなどに柄をつけて、払子とすることを許したという、

とある(日本大百科全書)。

払子.bmp

(「払子」 精選版日本国語大辞典より)

元来の実用具から、

邪悪を払う功徳あるもの、

とされるようになり、中国では禅僧が盛んに用いて、

一種の荘厳具(しようごんぐ)、

とされたという流れになる。運歩色葉集(室町時代編纂の国語辞典)には、

払子、ホッス、禅家説法之時持之、

とある。

「拂」 漢字.gif



「払」 漢字.gif

(「払」 https://kakijun.jp/page/0570200.htmlより)

「払(拂)」(漢音フツ、呉音ホチ、唐音ホツ)は、

会意兼形声。弗(フツ)は「弓(たれたつる)+八印(左右にはねる)」からなり、たれたつるを左右に払って切るさま。拂は「手+音符弗」で、左右にはらいのける動作を示す。手を左右に振るのは拒否し、否定する表現でもある、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(扌(手)+弗)。「5本の指のある手」の象形と「からまるひもを2本の棒でふりはらう」象形(「はらいのける」の意味)から、「手ではらいのける」を意味する「払」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1114.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:45| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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