2022年12月01日

くり舟


在所の近所に、くり舟あり。其の所にて、彼の牢人を呼ぶこと、頻(しき)り也(片仮名本・因果物語)、

とある、

くり舟、

は、

粗製の川舟。船首船尾とも箱型、

と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。同じ出典で、

其の夜より、彼の縷(く)り舟の渡りに、化けものありと云ひけり(仝上)、

とある、

縷り舟、

も、文脈から同じ意味かと想像される。この「くり舟」は、

艪を漕ぐのには川底が浅すぎる、棹をさすのには流れが速すぎる――そのやうな川を渡るために、岸から岸へ綱を引き、乗手は綱を手繰つて舟をすすめる、これを繰舟の渡しと称(い)ふ、

とある(牧野信一「繰舟で往く家」)、

繰舟、

のことかと思われる。あまり辞書には載らないが、

渡船(わたしぶね)の両岸に、大綱を架(わた)し、乗る者の両手にて、綱を手繰りて、船を遣る、

とある(大言海)。

タグリブネ、

ともいう(仝上)。ただ、

手繰り船、

と当てると、

手繰り網を引いて魚をとる船、

の意になってしまう(デジタル大辞泉)。室町中期の『梅花無盡蔵』(禅僧万里集九(ばんりしゆうく)の詩文集)に、

出柿崎、大半濱路、黒井、中濱之閒有河、両岸挿柱張大綱、渡者、皆轉手而遣舟、號曰轉舟(くりぶね)、

とある、


轉舟、

も同じだと思われる。とすると、

縷(く)り舟、

に当てた、

縷、

は、

後述のように、

糸、

の意もあるが、

襤縷、

の「縷」で、

ぼろ布、

の意だから、

襤褸舟、

の意なのかもしれない。

ところで、

くり舟、

に、

刳船、

と当てると、

丸木舟、

1本の木を刳(く)り抜いてつくる舟、

の意になる。

独木舟、

ともいう。

「縷」 漢字.gif

(「縷」 https://kakijun.jp/page/ru17200.htmlより)

「縷」(漢音呉音ル、漢音ロウ)は、

会意兼形声。「糸+音符婁(ル・ロウ 補足つらなる)」、

とあり(漢字源)、「細々と連なる意と」の意と、それをメタファに、「縷説」と、「くどくどしているさま」の意、「襤縷」と、「破れ布をつないだボロ」の意がある。

「操」 漢字.gif

(「操」 https://kakijun.jp/page/1626200.htmlより)


「操」 説文解字・漢.png

(「操」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%93%8Dより)

「操」(ソウ)は、

会意兼形声。喿(ソウ)は、うわついてせわしないこと。操はそれを音符として手を加えた字。手先をせわしなく動かし、うわべをかすめたぐること。繰(ソウ たぐり寄せる)と最も近い。転じて、手先でたぐり寄せて、うまくさばく意となる、

とある(漢字源)。ひいて「みさお」の意を表す(角川新字源)ようにもなる。別に、

形声文字です(扌(手)+喿)。「5本の指のある手」の象形と「器物の象形と木の象形」(「多くの鳥が鳴き、さわがしい」の意味だが、ここでは「巣(ソウ)」に通じ(同じ読みを持つ「巣」と同じ意味を持つようになって)、「巣を作る」
の意味)から、鳥が巣を作るように手をたくみに動かす事を意味し、そこから、「あやつる」、「手にしっかり持つ」を意味する「操」という

漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji901.html

「舟」 漢字.gif


「舟」(漢音シュウ、呉音シュ)は、「一葉の舟」http://ppnetwork.seesaa.net/article/490791096.htmlで触れたように、

象形。中国の小舟は長方形の形で、その姿を描いたものが舟。周・週と同系のことばで、まわりをとりまいたふね。服・兪・朕・前・朝などの月印は、舟の変形したもの、

とある(漢字源)。

「舟」と「船」の区別は、「ふね」http://ppnetwork.seesaa.net/article/463391028.htmlで触れたように、

小形のふねを「舟」、やや大型のふねを「船」、

とするが、「船」と「舟」の違いは、あまりなく、

千鈞得船則浮(千鈞も船を得ればすなはち浮かぶ)(韓非子)、

と、

漢代には、東方では舟、西方では船といった、

とある(漢字源)。今日は、

動力を用いる大型のものを「船」、手で漕ぐ小型のものを「舟」、

と表記するhttp://gogen-allguide.com/hu/fune.htmlとし、

「舟」や「艇」は、いかだ以外の水上を移動する手漕ぎの乗り物を指し、「船」は「舟」よりも大きく手漕ぎ以外の移動力を備えたものを指す。「船舶」は船全般を指す。「艦」は軍艦の意味である。(中略)つまり、民生用のフネは「船」、軍事用のフネは「艦」、小型のフネは「艇」または「舟」の字、

を当てるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%88%B9とある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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