その人々には頓に知らせじ。有様にぞしたがはん(源氏物語)、
とある、副詞、
頓(とみ)に、
は、
早急に、
さっさと、
の意で、
風波とににやむべくもあらず(土佐日記)、
とある、
トニニの転、
で、
多くの場合、下に打消しを伴って使われる。その打ち消された行動は、実は、即座に為し遂げられることが予想・期待される、
とある(岩波古語辞典)が、さらに、
とみにはるけきわたりにて(足が遠のいて)、白雲ばかりありしかば(蜻蛉日記)、
と、
打消しの意を含む語を修飾して、
ばったり、とんと、
の意でも使う(仝上)。「とにに」は、
トニは頓の字音tonに母音iを添えて、toniとしたもの、
で(仝上)、
にわかに、
急に、
の意である。
とみに、
とにに、
が、「頓」の字音からきているためか、
この故に名利とんに捨てがたし(「雑談集(鎌倉後期)」)、
頓(トン)に成就(じゃうじゅ)ある様に(太平記)、
などと、
とんに、
とも訛る。室町時代の文明年間以降に成立した『文明本節用集』では、
頓而、トンニ、
とある。「とみに」の語源について、
とし(疾)の語幹に接尾語みがついたもの、
とする説(大言海)もあるが、上記の土佐日記の、
とにに、
などの形から、
頓の字音の変化したもの、
と見ていいようである(日本語源大辞典)。
とにに→とみに→とんに、
といった転訛であろうか。
さるに、十二月(しはす)ばかりに、とみのこととて御ふみあり(伊勢物語)、
と使う、
とみ(頓)、
も同じで、
頓の字音tonに母音iを添えてトニとしたものの転、
である(岩波古語辞典)。
ニの音とミの音の交替例は、ニラ→ミラ(韮)、ニホドリ→ミホドリ(鳰鳥)、
などがある(仝上)。
時間的に間がおけないさま、
また、
間をおかないさま、
急、
にわか、
さっそく、
の意で、
「とみの」の形で連体修飾語として、また、「とみに」の形で副詞的に用いることが多く、現代ではもっぱら「とみに」の形で用いられる、
とある(精選版日本国語大辞典)。
(「頓」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A0%93より)
「頓」(トン)は、
会意兼形声。屯(トン チュン)は、草の芽が出ようとして、ずっしりと地中に根をはるさま。頓は「頁(あたま)+音符屯」で、ずしんと重く頭を地につけること、
とあり(漢字源)、頭を下げる敬礼を意味する漢語(角川新字源)とある。別に、
会意兼形声文字です(屯+頁)。「幼児が髪を束ね飾った」象形(「集まる、集める」の意味)と「人の頭部を強調した」象形(「かしら、頭」の意味)から、頭を下げてきた勢いが地面で一時中断されて、力が集中する事から、「ぬかずく(頭を下げて地につける)」を意味する「頓」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji2197.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:頓(とみ)に