物の色合ひなど、染め出だせる事は、竜田姫も恥ぢぬべき程なり(曽呂利物語)、
とある。
竜(龍)田姫、
は、
秋を支配する女神、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
龍田山は奈良の京の西に当たり、方角を四季に配当すると西は秋に当たるのでいう、
とある(岩波古語辞典)。
(立田姫(竹久夢二) https://mai-arts.com/yumeji_tatsutahime/より)
大和の平群(今は生駒郡)に座す女神、因みに、同じ平群に座す男神は、
竜(龍)田彦、
で、
わが行きは七日は過ぎじ竜田彦ゆめ此の花を風にな散らし(万葉集)、
と、
風を司る神、
とされ(大言海)、
竜田神社の祭神、
とある(岩波古語辞典)。「竜田姫」「竜田彦」ともに、『延喜式』にみえ、竜田坐天御柱国御柱神社二座」とともに、
竜田比古竜田比女神社二座、
と記され、
前者の天御柱国御柱も後者の竜田比古、竜田比女も、みな風難を避けるために祭られる神、
であった(朝日日本歴史人物事典)とある。
「竜田姫」は、春の、
佐保姫の対、
とあり、「佐保姫」は、
佐保姫の糸そめかくる青柳を吹きな乱りそ春の山嵐(詞花和歌集)、
と、
佐保山は平城京の東北方にあり、東は季節に配当すると春に当たるのでいう、
とあり(仝上)、イロハ引き国語辞書『匠材集(1597)』には、
佐保姫、春を守る神也、
とある(岩波古語辞典)。なお「竜田姫」は、
竜田山を神格化した秋の女神の名、
としても用いられるが、それは、
佐保山を神格化した春の女神佐保姫、
に対するためともある(朝日日本歴史人物事典)
(五行の色、四季、方位を表した図 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E8%A1%8C%E6%80%9D%E6%83%B3より)
また、「竜田姫」は、
染色・織物の名手、
ともされ(日本国語大辞典)、冒頭引用の文に、
物の色合ひなど、染め出だせる事、
とあるのは、その所以で、その由来は、
『万葉集』以来、秋の木の葉が色づくことを染色にたとえて「染める」と表現しました。一方、染色は古代の女性にとって大切な、しかも専門的な仕事でした。そこで、山を染め、木の葉を染めて紅葉にする神も女の神でなければならなかったのです。秋をつかさどる神としての竜田姫は、紅葉の歌とともに染色の神さまにもなったということになります、
とある(片岡智子「竜田姫の秋」https://www.ndsu.ac.jp/blog/article/index.php?c)。
なお、
西が秋にあたる、
というのは、
五行説、
に基づく。「五行説」は、
五行思想(ごぎょうしそう)、
ともいい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E8%A1%8C%E6%80%9D%E6%83%B3)、
中国古代人の世界観の一つ、
で、五行は、
五材、
ともいい、
生活に必要な水、火、金、木、土の五つの素材(民用五材)
をいい(日本大百科全書)、
万象の生成変化を説明するための理論、
で、
宇宙間には木火土金水によって象徴される五気がはびこっており、万物は五気のうちのいずれかのはたらきによって生じ、また、万象の変化は五気の勢力の交替循環によって起こる、
とする(精選版日本国語大辞典)。なお、漢代では五行説は、陰陽(いんよう)説と結合して、
陰陽五行説、
となり、以後の中国人のものの見方、考え方の基調となった(仝上)とある。
(五行説と方位 精選版日本国語大辞典より)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95