……怨念を払はん爲とて、寺中寄りあひ百万遍の念仏を修行しける(曽呂利物語)、
とある、
百万遍の念仏、
とは、
災厄や病気をはらうために、大勢が集まって念仏を百万回となえる行事、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
百万遍念仏、
とも、略して、
百万遍、
ともいう。
如綽禅師、撿得経文、但能念仏一心不乱、得百万遍已去者、定得往生(伽才浄土論)、
とある。
(百万遍念仏 精選版日本国語大辞典より)
祈禱、追善などのため、大型の数珠を多数のものが早繰(ざらざらぐり)して、同音に唱える念仏のこと、
で、百万遍の念仏に用いる大念珠を、
百万遍数珠、
といい、百万回の念仏を唱えることを本義とし、
これに1人が7日または10日間に100万回念仏を唱えること、
と、
10人またはそれ以上の者が同時に唱えた念仏の総計が100万回におよぶもの、
と2種類があり、
後者は100人の集団が念仏を100回唱えれば1万遍となり、同時に自他の唱える念仏の功徳が相互に隔通しあって、総計で100の3乗、つまり100万回の念仏を唱えたのと同じ功徳があるとする、
とある(世界大百科事典)。浄土宗で、
極楽往生を願って10人ずつの僧や信者が輪になって念仏を唱え、1080個の玉の大数珠を100回、順送りにする仏事、
で、
合わせて百八万遍の念仏になる、
というもので、京都知恩寺で始まり、のちに一般でも行われるようになった(デジタル大辞泉)とある。
知恩寺の、八世善阿空円が流行病をなおすため、
7日間 100万遍の念仏を称え、効験があったので後醍醐天皇から百万遍の寺号と 1080珠の大念珠を賜った、
といい、これが嚆矢とされる。以来知恩寺では、衆僧、信徒が集って、弥陀の名号を称えながら大数珠を 100回繰回す仏事が行われ、これも百万遍という(精選版日本国語大辞典)。古く、中国の僧、
道綽(どうしゃく)、
に始まると伝えられる(仝上)とある。
「百」(漢音ハク、呉音ヒャク)は、
「一+音符白」を合わせた文字(合文)で、もと一百のこと、白(ハク・ヒャク)は単なる音符で、白いといった意味とは関係がない、
とある(漢字源)。「大きな数」の意味もある(角川新字源)。別に、
形声文字です(一+白)。「1本の横線」(「ひとつ」の意味)と「頭の白い骨または、日光または、どんぐりの実」の象形(「白い」の意味だが、ここでは、「博」に通じ、「ひろい」の意味)から、大きい数「ひゃく」を意味する「百」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji133.html)。
「万(萬)」(慣用マン、漢音バン、呉音モン)は、「万八」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/488425542.html)で触れたように、
象形。萬(マン)は、もと、大きなはさみを持ち、猛毒のあるさそりを描いたもの。のち、さそりは萬の下に虫を加えて別の字となり、萬は音を利用して、長く長く続く数の意に当てた。「万」は卍の変形で、古くから萬の通用字として用いられている、
とあり(漢字源)、
「万」の異字体は「萬」、
とされたり、
「萬」は「万」の旧字、
とされたりするが、「万」は、
古くから「萬」に通ずるが、「萬」との関係は必ずしも明らかでない、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%87)。
「万」はもとの字は「萬」に作る(白川静)、
「万」と「萬」とは別字で、「万」は浮き草の象形(新潮日本語漢字辞典・大漢語林。「万」と「萬」が古くから通用していることは認めている)、
「卍」が字源(大漢和辞典 西域では萬の數を表はすに卍を用ひる。万の字はその變形である)、
象形、蠆(さそり)の形。後に、数の一万の意味に借りられるようになった。現在でも、「万」の大字として使用される(角川新字源・漢字源)、
象形。もと、うき草の形にかたどる。古くからの略字として用いられていた(角川新字源)、
等々と諸説あり(仝上・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%90%AC)、「中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)は、
「萬」を「蟲なり」とするが、虫の名前は挙げず、説文解字注(段注)はサソリの形に似ているからその字であろう、
というが、白川静は「声義ともに異なる」と指摘する(仝上)。しかし、
「萬」が蠍の象形で、10000の意味は音の仮借、
という立場は、藤堂明保『学研 新漢和大字典』、諸橋轍次『大漢和辞典』、『大漢語林』、『新潮日本語漢字辞典』等々多くの辞典が支持する(仝上)、とある。数字の万としての用法はすでに卜文にみえる(白川)ようである(仝上)。
「遍」(ヘン)は、
会意兼形声。「辶+音符扁(ヘン 平らに広がる)」、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(辶(辵)+扁)。「立ち止まる足・十字路の象形」(「行く」の意味)と「片開きの戸の象形と文字を記した札をひもで編んだ象形」(門戸に書き記した札の意味から、転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、札のように「ひらたい」の意味)から、「ひらたく行き渡る」を意味する「遍」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2030.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95