こは如何に、聊爾をしつる事かな、と肝を潰し(曽呂利物語)、
脇よりも、聊爾をすな、殿の御秘蔵の唐猫なりと云ひければ(仝上)、
などとある、
聊爾、
は、前者については、
あやまち、
と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)が、後者は、後述の意味の幅から見ると、
粗相、
とか、
失礼、
といった意味ではないかと思う。
聊爾(レウジ・リョウジ)、
は、
未能免俗、聊復爾爾耳(晉書・阮咸傳)、
と漢語で、
かりそめ、
という意である。
聊、且略之辭(詩経)、
とあり、
爾は助辭、
とある(大言海)。で、
官倉求飽眞聊爾、山墅懐歸毎惘然(陸游傳)、
と、
仮初なること、
考えなくてすること、
不躾がましくすること、
いいかげん、
卒爾、
とある(仝上・岩波古語辞典・大言海)。我が国でも、
国の安危、政の要須これより先なるはなし。これより誰か聊爾に処せん(太平記)、
襄王の躰は、何共聊爾なき人で、人君とも見へぬ人ぢゃぞ(孟子抄)、
などと同じ意味で使うケースが多いが、やがて、そこから、
亭主のさる人にていみじうもてなしてことにふれつつ聊爾ならぬ人にはち道を執して(無名抄)、
もしいかようの事ありとも、船頭の聊爾にてあるまじく候(奇異雑談集)、
と、
ぶしつけで失礼なこと、
そそうなこと、
また、
そのさま(精選版日本国語大辞典)、
あるいは、
あやまち(岩波古語辞典)、
麁相、
失礼、
粗忽(大言海)、
といった意味で使うに至る。「慮外」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/490443592.html)、「卒爾」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/444309990.html)とある意味で重なる言葉になっている。
「聊」(リョウ)は、
会意兼形声。「耳+音符卯(リュウ つかえる)」で、耳がつかえて音がよく通らないこと。しばらくつかえて、留まるの意から、一時しのぎに(とりあえず)の意となる、
とある(漢字源)。「聊逍遥以相羊(聊カ逍遥シ以テ相羊ス)」と、「いささか」「とりあえず」の意や、「民、不聊生(民、生ヲ聊(りょう)セズ)」と、「やっとしまつする」意の外、「意無聊(意、無聊ナリ)」と「無聊」とも、また「聊啾(リョウシュウ 幽かに耳鳴り)」と、耳鳴りの意でも使う。
「爾」(漢音ジ、呉音ニ)は、
象形。柄にひも飾りのついた大きなはんこを描いたもの。璽(はんこ)の原字であり、下地にひたとくっつけて印を押すことから、二(ふたつくっつく)と同系のことば。またそばにくっついて存在する人や物を指す指示詞に用い、それ・なんじの意をあらわす、
とある(漢字源)。別に、
象形。(例えば漢委奴国王印のような形の)柄に紐を通した大きな印を描いたもの(あるいは花の咲く象形とも)。音が仮借され代名詞・助辞などに用いられるようになったため、印には「璽」が用いられる、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%88%BE)、
象形文字です。「美しく輝く花」の象形から「美しく輝く花」の意味を表しましたが、借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「二人称(話し手(書き手)に対して、聞き手(読み手)を指し示すもの。あなた。おまえ。)」を意味する「爾」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2580.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:聊爾 聊爾(レウジ・リョウジ)