2022年12月15日
肝煎る
あまた人の子を肝煎るとて、其の生(うみ)の親のかたよりは、金銀をとりて、おのれが物とし、其の子は此の河へ流せしとかや(百物語評判)、
にある、
肝煎る、
とは、
あっせんする、
意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
肝を煎る、
意とある(日本国語大辞典)。「肝を煎る」とは、
おもひきりしに来てみえて、きもをいらする、きもをいらする(「閑吟集(1518)」)、
と、
肝を煎り焼くようにつらい思いをする、
気をもむ、
意で(岩波古語辞典)、その意味の派生で、
肝を焦がす、
肝を焼く、
とも言い、
心をいら立てる、
心を悩ます、
腹を立てる、
意で使う(精選版日本国語大辞典)。「肝煎る」は、
胸を焦がす、同趣、
とある(大言海)のはその意味である。そこから転じて、
心づかいをする、
熱心になる、
意で使い、その派生から、
色々きもをいらせられて、御地走なされたる衆を(虎明本狂言「雁盗人(室町末‐近世初)」)、
兼々(かねがね)滝川に恋する者ありて、きもをいり、返事待(まつ)事あるが(浮世草子「好色一代男(1682)」)、
等々と、
間に立って骨を折る、
世話をする、
取り持つ、
の意で使う(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
きもいる、
は、この意味の「肝を煎る」から出ている(仝上)。名詞「肝煎」が、
肝入、
とも当て、
室町時代や江戸時代の各種の団体の世話役、
の意で使い、室町時代の郷村や江戸時代の、
村の世話役、
村役人(庄屋・名主役)、
の意で使うのはこの意味の流れからきている。
肝煎る、
の語源が、
胸を焦がす意の肝煎る、
とする(大言海)のは意味があり、別に、
「肝を入れる」(とりもつこと)に由来する、
とする説(日本大百科全書)もあるが、
肝を入れるとする説は非、
とされ(上方語源辞典=前田勇)るように、もともと、
肝を煎る、
から派生した流れから見ると妥当に思える。
「肝」(カン)は、「肝胆」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/492437841.html)で触れたように、
会意兼形声。干(カン)は、太い棒を描いた象形文字。幹(カン みき)の原字。肝は「肉+音符干」で、身体の中心となる幹(みき)の役目をする肝臓。樹木で、枝と幹が相対するごとく、身体では、肢(シ 枝のようにからだに生えた手や足)と肝とが相対する、
とある(漢字源)。
形声文字です(月(肉)+干)。「切った肉」の象形と「先がふたまたになっている武器」の象形(「おかす・ふせぐ」の意味だが、ここでは「幹」に通じ、「みき」の意味)から、肉体の中の幹(みき)に当たる重要な部分、「きも」を意味する「肝」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji291.html)。
「煎」(セン)は、
会意兼形声。前のりを除いた部分は、「止(あし)+舟」の会意文字。前は、それに刀印を加えた会意兼形声文字で、もと、そろえてきること。剪(セン)の原字。表面をそろえる意を含む。煎は「火+音符前」で、火力を平均にそろえて、なべの上のものを一様に熱すること、
とある(漢字源)。別に、
形声文字です(前+灬(火))。「立ち止まる足の象形と渡し舟の象形と刀の象形」(「前、進む」の意味だが、ここでは、「刪(セン)」に通じ(同じ読みを持つ「刪」と同じ意味を持つようになって)、「分離する」の意味)と「燃え立つ炎」の象形から、「エキスだけを取り出す為によく煮る」、「いる(煮つめる、せんじる(煎茶)」を意味する「煎」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2170.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください