河太郎も河獺(かわおそ)の劫(こう)を経たるなるべし。河獺は正月に天を祭る事、七十二候の一つにして、よく魚をとる獣なり(百物語評判)、
の、
河太郎も河獺(かわおそ)の劫(こう)を経たるなる、
とは、
獺(カワウソ)老而成河童者(元和本下学集)、
とある(『下學集』は、室町時代の意義分類体の辞書)のに基づく(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
七十二候、
は、
陰暦で、一年を七十二分して季節の変化をあらわしたもの。その第二を「雨水」といい、「獺祭魚」とされている、
とある(仝上)。つまり、
河獺は正月に天を祭る事、七十二候の一つにして、よく魚をとる獣なり、
とあるのは、
七十二候(しちじゅうにこう)、
の、二十四節気でいうと、その第二、
正月中(通常旧暦1月内)、
の、
雨水、
の、
初候、
で、
立春末候の魚上氷の後、雨水次候の鴻雁来の前、
にあたる、
獺祭魚、
を指している。
七十二候は、「半夏生」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/482302156.html)でも触れたが、
一年を72に分けた五日ないし六日を一候、
とするものだが、
二十四節気をさらに五日ないし六日ずつの3つに分けた期間、
になる。二十四節気の一気が、
15日、
なので、一候は、わずか五日程度、
そんなに気候が変わるわけはない、
はずである(内田正男『暦と日本人』)。
「二十四節気」は「をざす」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/481844249.html)でも触れたが、
1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けたもの、
で、
「節(せつ)または節気(せっき)」
と
「気(中(ちゅう)または中気(ちゅうき)とも呼ばれる)」
が交互にある(https://www.ndl.go.jp/koyomi/chapter3/s7.html)。例えば、
春は、
立春(りっしゅん 正月節)、
雨水(うすい 正月中)、
啓蟄(けいちつ 二月節)、
春分(しゅんぶん 二月中)、
清明(せいめい 三月節)、
穀雨(こくう 三月中)、
で、夏の、
立夏(りっか 四月節)、
小満(しょうまん 四月中)、
芒種(ぼうしゅ 五月節)、
夏至(げし 五月中)、
小暑(しょうしょ 六月節)、
大暑(たいしょ 六月中)、
のうち、七十二候の「雨水」は、
太陽黄径330度、
立春から数えて15日目ごろ、から、次の節気の啓蟄前日まで、
で、古代中国夏王朝は、
雨水を年始、
と定めている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%A8%E6%B0%B4)。「雨水」は、七十二候では、
初候 土脉潤起(つちのしょううるおいおこる) 雨が降って土が湿り気を含む 獺祭魚 獺が捕らえた魚を並べて食べる
次候 霞始靆(かすみはじめてたなびく) 霞がたなびき始める 鴻雁来 雁が飛来し始める
末候 草木萌動(そうもくめばえいずる) 草木が芽吹き始める 草木萌動 草木が芽吹き始める
とわける(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%83%E5%8D%81%E4%BA%8C%E5%80%99)。
「獺祭魚(だっさいぎょ)」は、略して、
獺祭、
ともいい、
孟春之月、……獺祭魚(礼記・月令)、
とあるのに基づき(「孟」は初めの意、春の初め。初春。また、陰暦正月の異称)、
獺の魚を捕へて、食する前に、これを陳列する、
のを、俗に、
魚を祭る、
といい(字源)、
人が祭をなすとき、物を陳列するに似たれば云ふ、
とある(大言海)。
おそまつり、
うそまつり、
ともいう(精選版日本国語大辞典)が、それをメタファに、「獺祭魚」は、
李商隠為文、多検閲書冊、左右鱗次、號獺祭魚(談苑)、
と、
晩唐の詩人李商隠が、文章を作るのに多数の書物を座の周囲に置いて参照し、自ら「獺祭魚」と号した、
故に(精選版日本国語大辞典)、
詩文を作る時などに多くの参考書を散乱したるさま、
にもいう(字源)。
(懐中要便七十二候略暦(明治11年〈1878年〉 https://www.benricho.org/koyomi/72kou.htmlより)
「獺」(慣用ダツ、漢音タツ、呉音タチ)は、
会意文字。「犬+瀬(川の浅瀬)」の略体」、
とある。
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95